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【イベントレポ】「Wood x Transparency?(透明木材)」 展

渋谷の(PLACE)by methodにて開催された⼯芸⼯業デザイン学科クラフトデザインコース木工専攻と資生堂みらい研究グループと産学共同プロジェクトの成果展。完全天然成分でできた透明の木材の可能性を探る。

どれも可能性を感じさせる展示ばかりだったが、ここではその中から気になった展示を取り上げたいと思う。

なお、今回の展示はプロトタイプであるため、一部の展示品のみ透明木材の実物が使用されている。また、現時点で製造できる木材の厚みは数ミリ程度とのこと。

透明木材とは

革新的なイノベーション創出を目指し2022年に発足した、資生堂 みらい開発研究所 みらい研究グループによって開発された、生分解性と光学的透明性を合わせ持つ木材の新素材。漂白・樹脂含浸・乾燥という工程を経て、木材を透明化しています。自然由来の樹脂の使用や、製造工程で環境負荷の低い薬剤を使用することで、循環型素材としての透明木材が実現されています。(2023年特許出願済み)
現段階では、透明化できる街種や木材の厚みに限界があり、さらなる研究が進められています。今回のプロジェクトでは、あらゆる木材の透明化が可能になった未来を想像しながら視座を高め、自由な発想で透明木材の可能性を探求しています。

会場の説明文より

年輪のコマ/コウエイ

年輪は木材特有の美しい模様です。一つとして同じ形のない年輪の形は、自然の豊かさを感じさせます。木材を透明化することで、より際立った年輪は、回転させることで様々な形を生み出します。この現象に着目し、新しい驚きや楽しみを提供するコマを制作しました。
轆轤で挽いた軸の部分は、コマの円盤の木目と同じ樹種で作られています。回転するコマの生み出す模様やゆらめきは、見る人に安らぎをもたらします。

会場の説明文より

檜の風呂椅子/難波実菜

伝統的な檜の風呂椅子のかたちを再解釈し、透明木材を利用した風呂椅子をデザインしました。檜の風呂椅子は、現代では温泉などでしか見られなくなりましたが、日本人の多くに馴染みのある形をしています。その魅力的でアイコニックな形を踏襲しつつ、現代の生活でも使いやすい高さや形に仕上げました。透明木材を使用することで、現代の家庭風呂に多く見られる白い浴室にも調和し、カビが発生しづらくなっています。

会場の説明文より

この展示から連想したのは、神社仏閣。透明木材で作った神社仏閣が実現できるのであれば、見てみたい。

Flowing light/加納彰典

透明木材が光を受けると浮かび上がる、道管の流れ、木目の魅力。木材が透明になると、長い時を重ねて刻まれた木目が、レイヤーのように可視化されます。その木目の密度や厚みは、雄大な時間の流れや、生命の営みを感じさせます。光の効果によって、その美しい木目の表情を引き立たせ、木材の持つ時間の流れを感じさせる照明をデザインしました。

会場の説明文より

木目があるだけで、ガラスのような透明な材質にはない、魅力的な表情をみせるライト。

TUGU/木村紗輔

TUGUは透明木材を使用することで、「継手」の構造をわかりやすく可視化した、木工の伝統技法の再認識を促すベンチとスツールです。「継手」は指物を作る時に、釘を使用せずに組み立てるための技法で、さりげなく細部に隠されています。その強度と美しさを兼ね備えた、日本の細やかな木工技術の伝統を、次の世代に伝えることは重要だと考えます。無垢の木材と透明木材を、伝統的な継手のひとつである「蟻組み継ぎ」で継ぐことで、美しい職人技術を未来へと繋げます。

会場の説明文より

座面が透明だけれど、木製のスツール。従来の木材と新技術の木材が組み合わさって、従来の木製スツールにはない、新しい魅力がある。

年輪定規/大谷円心

日常に溶け込む木製製品が、私たちの手元に届くまで、どれほどの時間がかかるのでしょうか。「木」を「木材」として、私たちが使えるようになるまでの時間は、どれほどなのでしょうか。
この問いの答えは意外にも簡単に、木の年輪を見ることで知ることができます。木が過ごした時間は、一年に一本の線となり、年輪として記録されていきます。
その特徴はさながら、木と時間が作り出す「時間を見ることのできる物差し」とも言えます。
「年輪定規」は10年単位で赤い線が記され、木がその長さに至るまでの、数十年から数百年という時間を「測る」ことができます。木の持っている時間を可視化することで、素材の持つストーリーについて思いを馳せるきっかけを提供します。

会場の説明文より

年輪を定規の目盛に見立て、木材の年齢を測ることができる物差し。年輪を目盛にする発想が面白い。

制作過程のふしぎ/村田 愛咲香

透明木材の漂白のプロセスで、無然見つけた木材の新しい表情。その不思議な風合いに魅力を感じ、木材の漂白を新しい木材加工の技術と見立て、新しい表現を探求しました。
漂白する時間、回数、面、繊維方向、樹種などの条件を変化させながら実験を繰り返すと、独特な模様や、淡い色合いなどの様々な発見がありました。そして実験の過程で見つけた、穴を開けて表面積を増やすことで、漂白の浸透具合にリズムが生まれる面白さに着目。
さまざまな樹種で、穴あけという作為的な加工と、無作為な漂白の浸透で織りなす美しいパターンを、アートピースへと昇華しています。

会場の説明文より

一見すると木材をヤスリで削ったようにも見えるが、それとは異なる魅力を感じさせる加工。加工の度合いによっては、木材に見えない何かに変化させることができるような気がする。

Transnature/中島莉南

「社会・環境・経済」の新しいサイクルを実現するかたちとしての、新しいクレジットカードの提案。従来のクレジットカードに使用されるプラスチックを、透明木材に置き換えることが出来ないかと考えました。
現在流通しているクレジットカードのほとんどは、難分解性プラスチックで作られているため、リサイクルが困難であるのが現状です。一方、透明木材はプラスチックのような機能を持ちつつも、生分解性で環境への負荷が非常に低い素材です。
また、透明木材の製作においては、使用する木材の材種や状態は問わないため、通常であれば処理に困る端材を企業から買い取り、加工することが可能です。これにより、製造目的で新たに木を切り出す必要がなく、木の乱伐を防ぐことができます。
さらに、このカードを日々の支払いに使用するだけで、自動的にカード会社の利益の80%が植林支援につながる仕組みを採用。この仕組みは、Ecosiaの森林再生プロジェクトに参加している販売店の取引手数料の中から、利益が発生するシステムになっており、約 60ドルの支払い毎に1本の木を植えることが可能となります。
消費社会と言われる現代で、日々の経済活動が、世界の森林の再生と環境負荷の削減への貢献につながります

会場の説明文より

実際にプロダクトとして提供されたら、使ってみたい魅力的なコンセプト。コストによっては、名刺にも使えそう。

'WIP'/イム ジョン

近年、環境問題への関心から、ゴミの分別や処理について、少しずつ意識が高まってきています。しかしー方で、日常で排出される多種多様なゴミの完璧な分別は、容易ではないのが現実です。特に化粧品関連のゴミの分別は、複雑で難しいケースも多くみられます。
このような状況への一つの提案として、透明木材を利用した分別しやすい化粧品パッケージを考案しました。
ガラスのように透明でありながら、生分解性のある透明木材を利用することで、分別が容易になるだけでなく、視覚的な魅力と手に触れたくなるような存在感をもたらします。

会場の説明文より

木材でありながら、内容物をみることができるのは、再生可能材質のパッケージとしてとても魅力的。

Transport of joy /高橋美香

漂白した木材に液体を含浸させるプロセスに着目した、「育てるデュフューザー」と「肌にときめく美容液」。
「喜びを運ぶ」という花言葉をもつ、クチナシの花をモチーフに、視覚・嗅覚・触覚で楽しめる二つのプロダクトを考えました。
「育てるデュフューザー」は、乾燥した白い蕾の状態から、アロマオイルを吸い上げることによって、半透明の花を咲かせます。花が広がるのとともに香りが広がり、まるで透明なクチナシの木を育てているような体験を届けます。
「肌にときめく美容液」は、花びらの形の漂白した木のシートを、手で温めて使用します。美容液が染み込んだシートを体温で温めることで、美容液の肌馴染みが良くなり、白から半透明に変化する様子を視覚的に楽しむことができます。花びらを一枚ずつ剥がしていく動作は、花占いをモチーフにしています。

会場の説明文より

アロマオイルの浸透度合が花びらに可視化されるデュフューザー。

(soak) basket/松井映里砂

漂白した木材に液体を染み込ませると、木目を残したまま光を透過します。その唯一無二の表情をもった透明木材を、「編む」ことで生まれる繊維の重なりの美しさに着目し、花器の役割を持つ籠を制作しました。乾燥した状態の白い籠は、水に浸されると時間の経過とともに水を吸い上げ、じんわりと下から透過していきます。下部が透過することで軽やかな印象を与え、生けた植物の存在感を際立たせます。籠の網目に花を挿すことで、生け方に多様なバリエーションをもたらす新しい花器のかたちです。

会場の説明文より

紙などの他の材料とは異なり、木材ならではのスピードで液体が浸透し透過してゆく姿は、従来の材料にはない魅力がある。

重ねる行燈/佐藤 洸希

透明木材を複数枚重ねることにより、光の見え方の変化を楽しむ行燈。紙やガラスではなく、光を透過する素材として、木材を照明に使用することに面白さを感じデザインしました。透明木材に光をかざすと、木の道管が光を反射して、木目の部分がクリスタルアートのように輝きます。木目の生み出す明かりと、行燈の円筒を重ねることで生まれるレイヤーが、様々な光のニュアンスを演出する照明です。

会場の説明文より

提灯をはじめ、和紙の行燈とは異なり、木の暖かみを感じさせる行燈。

Sorairo/馬場大和

「木目が雲に見える」という発見から着想して生まれたグラス。注ぐ飲み物の色によって、様々な空模様を楽しむことができます。透明木材は、その製作過程で、通常の木材よりもしなやかで柔軟になります。一枚の木の薄板から成形されているこのグラスは、そんな透明木材の特性を活かして、難しい形状の曲げ加工を実現しています。

会場の説明文より

木製のグラス、といったところか。これも「木材」なら、この加工も「木工作業」になるのだろうか。


これまでの木材の定義を大きく覆す「透明色」という特性は、とても魅力があり、様々な可能性を感じる。と同時に、こういった研究、開発によって、「木材」自体の良さも再認識できるよい機会になっていると思う。

透明木材の構造について専門的な知識はないが、木製の特性を持ちつつ、それ以上の性能をもつ「スーパー木材」として提供できるとより活用できる領域が広がるように感じる。

ただ、そうして誕生した「木材」は果たして「木材」と呼べるのだろうか。元の素材をどこまで保持していたら「木材」なのだろうか。そんなことも考えさせられた。


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