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わたしは、わたしたちは、「かけはし」を必要としていて〜玉城デニー沖縄県知事の会見動画から〜

誰かが話を始めると、何事もなかったかのようにまた誰かがその隣で手を動かし始める。わたしはその話者と手話通訳を視界の同じ画角に入れながら話しを理解していく。

手話を習得してから早9年目。それが長いのか短いのかは分からないけれど、日本語と手話を使いながらの生活が続いている。

この世界の大多数の人たちは「音の世界」の住人だから、「音声」を「手話」に通訳してもらうことが、習得前と比べて格段に増えた。

学生時代は学務課を通して、仕事を始めてからは事務を通じて。個人で派遣を依頼することもあるけれど、聴覚活用もある程度できるわたしが通訳を依頼するのは、「論文の発表会」「全体での会議」「研修の場」のような比較的公の場が多いから、組織を通じて依頼することが圧倒的に多い。

となると、その通訳を見る「利用者」はわたしだけれども通訳を依頼する「依頼者」はその組織の長であるコース長や職場のリーダーになったりするわけで。でも、彼らのほとんどは聞こえる聴者だから手話通訳を直接的に凝視して読み取る必要はない。

ただ彼らはわたしたち「音のない世界」の住人に届けたい何かがあるから通訳を依頼する。まぁ、場合によってはわたしたちが音の世界の情報を正確に把握したいから依頼者にお願いをする、なんていうこともあるんだけれども。

ここ最近だと、月に1回1時間程度の職場の全体会議に手話通訳をお願いしている。通訳さんが来てくれるおかげで、わたしはリアルタイムでその場の情報を受け取ることができるし、資料に載っていない急な話題にも付いていきやすくなる。

だから、会議が始まる前後の挨拶は欠かさずするようにしている。

「挨拶をする」なんて当たり前のことかもしれないけれど、わたしはこの瞬間が本当に大事だと思っている。

学生時代、パソコンや手書きで文字の通訳を受けながら講義を受けていた。その通訳をやってくれる学生さんたちは、みんな空きコマを無償で(そう、うちの大学はボランティアで運営されていた)提供してくれていた。

「sanmariの通訳をする中で、他の講義も受けられて刺激になる」とか「友達が増えて楽しい」とかそんな感想を言ってくれる通訳さんたちに支えられていた日々。

「あぁ、しんどいな」そんな日だってあったはず(だって、1コマから講義を受ける日も少なくなかったから)だけれども、通訳を終えて帰るときに「今日もやってやったぜ!」そう思って帰ってもらえたらいいな。常日頃そう思っていて。

「文字翻訳ソフト」みたいな機械じゃなくて、生身の人間がわたしのために時間を割いてくれている。専門分野以外の学生さんは、わたしの講義を通訳するために参考書を開いたり前の年にその講義を受けた友達から情報収集したりと、通訳以外の時間も割いてくれていたからね。

「手話通訳士」さんはさすがにボランティアじゃなくてお仕事だから有償。つまり、その専門性を身につけるための勉強をして試験を受けて、今もその職に従事し続けるために勉強を続けてくれている。

そんな専門性に対して、やっぱり敬意を示すべきだと思っている。

だからわたしは、絶対に近くまで行って「ありがとうございました」を伝える機会を大切にしている。学生時代みたいに「この後、食堂でおしゃべりしようよ!」みたいなノリはなくなったけれども。

先日、素敵なツイートを見つけて、思わず引用リツイートをさせてもらった。

首長自らが、手話通訳士さんに「手話」でお礼を述べる姿。これがもし「音声」だけだったら、わたしたち音のない世界の住人にこの事実は届かなかっただろう。

それでも、わざわざ「手話」で手話通訳士さんに挨拶をしてくれたことによって「首長自身もわたしたちに情報を届けたい」と思ってくれているんだなぁっていうのが伝わってきて、とてもとても嬉しかった。

このご時世、通訳士さんたちだって感染の危機を感じながらあの密な会見会場に入ってくださっているわけだし。

この首長と同様に、わたしの職場の上司たちも学生時代の教授たちも、みんなみんな通訳士さんたちにお礼を言ってくれる人たちばっかりなのはいつ見ても嬉しい。

通訳士さんたちは、音の世界と音のない世界が交わり合おうとするとき、その「かけはし」になってくれる大切な大切な存在だから。

どうぞ、これからもよろしくお願いします。

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わたしは沖縄県民ではないし、実は沖縄に行ったこともない。だから、彼がどんな政治をするのかとか普段どんな発言をするのかを詳しく知っているわけでもない。

それでも一つだけ言えるのは、沖縄県知事の「ありがとう、よろしく」はこれもう絶対に慣れている人の手話だっていうこと。この会見以外の場面でも「ありがとう」を伝え続けている人なんだろうな、っていうのが伺える。それが、純粋にかっこいい。

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