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「エッセイ」あるスナックの戯言〜騙される男〜

新しくご来店下さった方へ ↓この辺チャチャっと流し読みで(笑)


それは物凄い豪雨の日だった。稲妻が走り、市内放送で「不要不急」の外出を控えるようにと忠告が出された。約1ヶ月程前、まだ残暑が厳しい頃だった。

周りを見ると早仕舞いして帰って行く店も出て来た。
ミユと私はお客さんも居ないのに例によって「バカっ話」に花を咲かせ帰るタイミングを逃してしまった。
パッ
時々、雷で一瞬の停電が起こるようになった。
ロウソク立ててカラオケスナックもな~、いや、その前にカラオケ歌えないだろ?(笑)
そろそろ、私達も天気に降参して帰ろうと思った時、その男は現れた(いや、ただの常連さんだ)

「いやぁ〜、この天気じゃ誰も来ないでしょ」
(お前、来たじゃん)

A男は、いつものドリンクを注文するとおしぼりで濡れた髪や身体を拭いていた。
彼は常連さんの中でも5本の指に入るイケメンだ。しかし、ここのところ出席率が非常に落ちていた。
私達は知っている…

ヤツは恋に堕ちたのだ(笑)
それも我が日本国と仲が悪い某K国の女性と…
いや、恋は自由だ。しかもA男は一昨年、無事に協議離婚が成立して立派な独身だった。
ミユと私が「ようこそ、バツ1の世界へ」と歓迎したのがついこの間のように思い出される。
ま、正確に言うと私達はバツ1じゃなくて没1だけど(苦笑)

で、そのA男どうも、その恋の話しを聞いて欲しくて仕方ないらしい。
よーし!今夜は、この天気だ!腹を割って語り明かそうじゃないか!
先ずは私達にも生ビールをご馳走してくれないとね。
「あ、はい?いいの〜?悪いね〜。いただきまーす」
準備は整った。いざ戦闘開始だ(何処に闘いへ?)
A男は待ってました!とばかりに話しを始めた。

A「あのさ、週に3回は会ってるんだよね~」
(ハイハイ、それはご馳走様)
「うんうん、それで?」
身を乗り出すママ二人。
A「それって付き合ってるって言うよね?」
「言う言う!」
相槌がハモる私達。
A「1回はお店で一人16,000円」
(オイ、高くないか?)
心は呟くが
「まぁ、そのくらいはするんじゃない?」
表面は優しく「あるある」で流す。
A「2回は外のお店でお食事」
「デートってヤツだね」
A「それが1回、一万円くらい…」
(つうと、それだけで週に36000円か〜)
A「帰りの代行運転が5000円」
(えーーー!いったい1ヶ月いくら使ってるんだよ?)
A「まぁ、お金はいいんだ…」

ガクッ

(いいのかよ)

A「ご飯もね、タッパーに入れて作って持って来てくれるんだ」
「いい娘じゃない」
A「それは、いいんだけどさ…」
(はっきりしないな~)
思いきって私は
「結婚しちゃえば〜」
直球を投げた。手榴弾でもいい。
「それはまだ早いよね~」
やんわりミユが助け舟を出した。ナイス〜
うん、よく出来たコンビネーションプレーだ、私達!
A「K国のさ、お母さんの具合が悪いんだって」
「まぁ」
A「だから、『突然、私消えるかもしれない』って言うんだ」
(おいおい、雲行きが妖しくなってきたぞ)
A「あの娘ね、偉いんだよ。K国のお母さんへ毎月仕送りしてるの」
(益々妖しい)
「えー、いい娘じゃない」
ナイスフォロー、ミユ!
(で、でも、ちょちょちょ、待てーーい!日本で週に三日だけバイトしてK国へ仕送り出来るのか?今やK国の方が給料賃金高くないのか?A男、新聞読んでるのか?)
まぁ、いい。恋は自由だ。新聞取るのも自由だ。

A「でもさ、おかしいんだよね」
「ん?何が?付き合ってるんでしょ?」
A「もう20年も日本に居るんだって」
「就労ビザ取得したんじゃないの?」
と私。
A「それが持ってないの」
「捕まっちゃわない?」
A「それが捕まらないんだよね~、不思議〜」
(こっちが不思議だ)
私達は、もう勝手にビールを注いで来る。
「聞いてみればいいじゃない?」
ミユと私。
A「それが聞けないんだよね~」
男心だな…

雨が小降りになって来た。
A「急に消えたら連絡も取れなくなるんだって」
「お母さんの看病だからね~」
私達の中では答えは出ている。でも人の恋路には踏み込まない。
「いいじゃない、それまで楽しくやれば」
A「そうなんだけどね…」

代行運転を呼びA男は、たらふく飲んで帰って行った。6000円だった(笑)
ミユと私は同時に言った。
「あれはパパが居るね!」
大きく頷き合う。戸籍を取得する為の偽装結婚か本国への仕送りの為かは分からない。でも必ず後ろに誰か居る…

「K国に病気のお母さんが居るって聞いたの、これで3人目だね。」
「K国のお母さんは、みんな身体が弱いんだね」
「A男、ご両親が亡くなって保険金入ったからね…」
「でもA男、いいヤツだな〜」

ビールをご馳走されたからじゃなくて、イケメンだからじゃなくて、私達は益々A男が好きになった。


騙すよりも騙された方がいい。
日本男児よ、まだまだなかなかのものだ。

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