初めて笑二さんの落語を体感してきた記録|立川笑二独演会「ひとり噺」

しばらくnoteの更新をサボっていたけど、これは記録しておこうね?という会に出会ったので、久々にメモログへ軽めに更新するとしましょう。

立川笑二さんの独演会。

以前、Twitterの相互さんがシェアしていた動画を拝見して、「これはヤバそうな人だ……!」と、生で観たいとは思いながらも、なかなか都合がつかず。

最近ちょいとばかし禍々しい気持ちになっていたこともあり、体が毒を欲していて。そのときに思い出したのが「恋もどき」というえげつない(※ほめてます)噺を創作した笑二さんのこと。

ストーリーの構築力もさることながら、人間の心の闇い部分や、狡さを暴き出すでもなく、主題として見せつけるわけでもなく、「だってこういうコトって、あるでしょ?」みたいに、当たり前のようにエピソードに食い込ませてくる。音だけだったのに、あまりの密度の濃さに、現代的なリアルな感覚を落語に落とし込むとこうなるんだ……!という衝撃があった。

というわけで、満を辞して独演会にお邪魔できたので、感想です(先にTwitterに書いてしまったのでほぼ引用で残します)。毒を欲していたので、若干ダークサイドに偏った感想になってしまた。許されよ。

※「質屋蔵」は、正しくは「質屋庫」の表記だそうです。上方と江戸で違うんだろうか。わからん。

「小言幸兵衛」は、幸兵衛さんの時代錯誤な言葉にわかっていてもギョッとしてしまう噺。
なかには、幸兵衛さんと訪問者で出力に差をつけて、幸兵衛さんの暴言があまり気にならないようにバランスさせている方もいらっしゃるように勝手に感じているのだけど(ハラスメント野郎 vs 庇う人なら、庇う人を強めに出力して観る側の感情がうまくフォローされている感じ)、笑二さんはわりと同じ量感で言わせるので、やっぱり、というか、今までで一番、ギョッとしてしまった。
でも、こういうジジイ(ごめん)、いるのよ。いたとしたら、やっぱり、こうなのよ。

最終的にサゲで、ああ、幸兵衛さんって、こういう風にしか他人と関われない人なんだ、とわかる。
幸兵衛さんの言葉を聞いて、現代人のわたしが「おおお?嫌なことゆうじゃん〜?(ブチィッ)」と思う感覚も、サゲを聞いて「あーもう仕方ないなぁ」って思う感覚も、どっちも正しくなるようにできているのかな。って。後から思いました。
え、っ、、、ぜんぶ笑二さんの手の内ってこと???こ、怖ァ、、、、

「黄金餅」を生で聴いたのは過去に一回きりなので、どこまでが笑二さんオリジナルかはわからないけど、でも以前聴いたものとは明らかにディティールが異なっていた。噺の力もあると思うけど、「恋もどき」で感じた人間のリアルを、この日一番感じたのがこの噺。

金兵衛さんと西念さんのエピソードが追加されていて、それが観る側の感情を揺さぶるのなんの。

餅を詰まらせてこと切れるはずの西念さんの死因は違っているし、西念さんは途中で生き返ってくるし、金兵衛さんはすぐ手が出るし。かと思えば、しんみりと「こんなところ抜け出して、一緒にいい暮らしがしたかった」なんて言うし。全部本音(たぶん)なのが、怖いのよ。

その怖さって、「金兵衛ってすごいヤベエやつじゃん!」という個人の人間性に向けたものではなくて、こういう環境に身を置いたら誰しもそうなるのかも、という普遍性のある怖さ。

このあたりについては以前聴いたときにも思ったのだけど、「黄金餅」の登場人物たちには善/悪の切り替えスイッチが特別存在しないの。ごく当たり前のように見舞いや弔い(金銭目的でも)をしてやるかと思えば、息を吐くように道徳観に欠けた行いもする。たとえ欲に目が眩んだとしても、普通の人なら「でもこれって……」と躊躇うところに、ストッパーがない。

(これは以前の感想、このときは骨上げの夢中さが何より怖かった)

そして、この噺の恐ろしさを下支えしてくれる(?)のが、登場人物を取り巻く環境の描写なのかな、ということは改めて思いました。

入った瞬間異臭がする西念さんの長屋に始まり、ほころびた家屋、痰壺、金目のものが全て売り払われたボロ寺に、火葬後ぞんざいに放り出される遺体。けれど、人の営みのなかに「きれいなはずのもの」が完全に存在しないわけではない。善も悪も、聖も邪も、清も濁も、すべてごた混ぜ。同じように口に入り、口から出ていく。それが「普通」の世界。

登場する人たちの手は皆かたく、煤けて汚れきっていても、もはや当たり前のことすぎてそんなことを気にする人は、誰ひとりとしていない。

驚いたのは、けっこう残酷な描写の後でも、客席がドッと湧いていたこと。単純に噺に慣れている手練なお客さんが多かったのかもしれないけど、結構えげつないことしてんのに、それでも観ている側を笑わせてしまう笑二さん、おそるべし。

なんだろうね、なんか、油断させられる感覚がある。そして、その油断した隙をさらにまた抉ってこられたりするので、やっぱり油断のならない御人だな、とも思う(※ほめてます)。

そういえば。金兵衛さんの台詞にも、日頃の生活ぶりがわかるエピソードが織り込まれていて。あわや金兵衛に同情しそうになったところで、またその甘っちょろさを叩きのめされるような展開が待っていて、「そうはいかないですよね!ハイ、ゴメンナサイ!!」と、また笑いになる。ハッ!もしやこれが緩急ってやつか……?!(ちがいます)

軽く書いて終わらせるつもりだったのにもう2,000字超えちゃった。おかしいな。「質屋庫」は短くまとめよう。

そう、「質屋庫」、これまた知っているものとはチョイチョイ変わっていた。

大きいところだと、
・熊さんにはお化けが出るとは知らされない
・質に入れられた品物たち夜中に暴れない
・なので、天神様も出てこない
・なので、サゲも変わる

小さいところだと、
・定吉が買ってもらうのは焼き栗じゃなくて饅頭(大事!超大事!)

って感じでした。焼き栗派ショボンヌ。

サゲの展開に、笑二さんはここでもあくまでも人間の現実を描くんだな〜と思った。いや〜知ってる噺でも全然油断ならないね!

それにしても、あんなにニコニコと人の好さそうな笑顔を見せておきながら、古典落語をこんな風に冷静に客観的に再構築してしまうなんて、けっこうこわい人かもしれないな〜と思いつつ。わりと手のひらで転がされてる感覚ある。

とはいえ、無事笑二さんデビューを果たしたので、これからいろんな面を拝見できたら良いなと思います。思う存分、転がしていただきたい!コロコロストン。


立川笑二独演会「ひとり噺」

小言幸兵衛
黄金餅
〜仲入り
質屋庫

20221011
道楽亭


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