脳髄の恥垢では爆弾は作れない(オナニート対話篇2)
オ⇒基本全裸で過ごしているアル中オナニート(三三歳)
ハ⇒極右思想をもてあそぶ底辺ハケン社員(三三歳)
ハ:まえ会ったのは四月じゃなかったか、プロ野球開幕直後だったね、ことし阪神が優勝したらしいよ、また道頓堀に飛び込んだバカがいてさ、
オ:プロ野球なんかどうでもいいよ、大の大人が球を打ったり走ったりするのをみて何が楽しいんだ、スポーツなどはしょせん体制内娯楽に過ぎない、この世の根源問題から凡人どもの目を逸らさせる機能しか俺はそこに見ていない、
ハ:また陳腐なことを言い出した、
オ:それは俺だけじゃない、誰もが陳腐なことしか言えない、もうすべてのことは言い尽くされたんだ、
ハ:それもまた陳腐なセリフ、あいかわらず詩は書いてるのかい? まだ紙の上で人間を殺しまくっているのか?
オ:さいきんはそれにも飽きた、おれはもう人間になんか関心がない、なにも呪っていない、どこをみても愚鈍なやつばかりだから、
ハ:たとえクルミの殻に閉じ込められようとも俺はそこで王者のつもりになれる云々ってのはハムレットのセリフだっけ?
オ:シェイクスピアなんか糞くらえだ!
ハ:たまには部屋から出るんだろ? それとも毎日ずっとこんな陰毛だらけの部屋に閉じこもってその短小包茎の汚いブツをしごいてんのか?
オ:ときどき酔った勢いで深夜歩きはする、昼はだめだ、人混みに入ると眩暈がして吐き気がする、痛まし過ぎて人間の顔を直視できない、剥き出しの神経と欲望、
ハ:馬の国から帰宅した直後のガリヴァ―みたいなことを言うね、
オ:いちいち文学を出してくるな! そういう、自分そこそこ教養ありますアピールが嫌いなんだ俺は、底辺労働者は底辺労働者らしく女とカネの話でもしてろってんだ、
ハ:聞き捨てならない偏見だ、
オ:ぜんかいみたいなことを繰り返したって詰まらないよ、
ハ:そりゃそうじゃ、
オ:オーキド博士、特定の世代にしか分からないことを言うな、まだ下の毛も生え揃っていないあのころ、俺はポケモンマスターにあこがれていた、
ハ:いまやお前はオナニーマスターだ、
オ:ところで英語でポケットモンスターは男性器を意味するスラングでもあるいう説があるけど、本当かな、
ハ:どっちでもいいよ、河野太郎のメガネの度数くらいどうでもいい、
オ:そりゃそうじゃ、
ハ:このまえの君のブログ読んだよ、「鈍感族」とはどういうことなのか教えてくれ、
オ:「何ものか」として存在していることに嫌悪感を覚えない人間、他人の誕生日を祝うのに抵抗を覚えない人間、両親に「育ててくれたこと」を感謝できる人間、あたりまえのように学校を出て就職し日々の食い扶持を稼げる人間、
ハ:やっぱ俺も鈍感族の一人なのか?
オ:まさか自分のことを繊細族だと思っているのか? 繊細族の人間が賃金奴隷でいられるはずないだろ、繊細族はそもそもこんな年まで生きられない、俺もさいきん自分を鈍感族に分類するようになった、自己嫌悪で発狂死するのも時間の問題だろう、
ハ:そんなやつに限って長生きするんだよ、君が私淑しているらしいシオランも八四まで生きたんだろ、
オ:シオラン兄いの残念なところは彼が老人になるまで生きてしまったということだ、三十になる前にでも自殺していたならもっと尊敬できたのに、
ハ:でもそれだったらあの絶望の悲鳴に満ちた膨大なテクスト群もなかっただろね、
オ:底辺労働者のくせにテクストっていうのやめろ、ポストモダン的な衒いを感じる、本でいいんだよ、本で、
ハ:おまえ実は労働者にものすごい劣等感もってるだろ?
オ:そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない、
ハ:太宰は好き?
オ:太宰治って言ってくれ、ケツの青い文学青年じゃあるまいし、嫌いだよ、子供作ってるだろあいつ、
ハ:作品と作者って関係あるのか?
オ:あるともいえるし、ないともいえる、ただデカダンを気取るなら家庭みたいなものとは無縁で生きろよなとは思うよ、愛人といっしょに死ぬなんて甘ったれにもほどがある、「畜犬談」には中学生のころ泣かされたけどね、
ハ:孤独なオナニートの猛烈な嫉妬を感じるよ、君みたいな思想家気取りの飲んだくれニートと死んでくれる女なんか未来永劫あらわれないだろうからね、
オ:なんとでもいってくれ、もうその種の言辞は聞き飽きた、痛くも痒くもないよ、ただ俺は自分の美学と倫理に忠実でいたいだけだ、
ハ:ニートが美学だの倫理だの熱弁している様子は甚だ滑稽だ、「存在世界を無暴力化」するという革命理念はまだ捨ててないんだろ?
オ:三十超えて革命うんぬんはさすがに痛いよ、
ハ:そんな「世俗的基準」を気にしているようでは何も出来ないとよく言ってるじゃないか、
オ:いまの俺には「無暴力世界」なんか信じられない、信じることさえ出来ない世界が実現するだろうか、「存在」とはつねに「そのようにある」という表象地獄なんだ、さしあたり出来ることと言えばその表象地獄内における「苦痛」を最小限に留めることくらいか、
ハ:「何かが感じられている」という地獄、「個体である」という地獄、
オ:「社会内存在である」という地獄、「他者がいる」という地獄、「いつも不安が付きまとってくる」という地獄、「部屋のなかでじっとしていることが出来ない」という地獄、「死んだふりをしていても不快からは逃れられない」という地獄、「醜いものを毎日見なければならない」という地獄、「聞きたくない音を聞かされる」という地獄、「おのれの邪悪性に無自覚なケダモノに取り囲まれている」という地獄、「自分の労働力以外に売る商品を持たない」という地獄、「老化という自然による緩慢な虐待に抵抗する術を持たない」という地獄、
ハ:「自殺も解決にはならない」という地獄、
オ:愚者なりにやっと分かって来たみたいだね、「死ねば苦痛から解放される」なんてのは哲学的鈍感児の言い草だ、表象必在性への思索が決定的に欠けている人間の言い草だ、
ハ:やはり「悟り」や「救済」はないのか?
オ:そんなのは愚者にお誂え向きのオモチャ概念に過ぎない、
ハ:君はいったいなにを信じているのか?
オ:信じるとか信じないということがそもそもどういうことなのか分からない、凡人は粗雑な言葉をためらいなしに使いすぎる、俺もさっき使ったけど、
ハ:わかった、じゃあなにか「これだけは疑えない」と信憑していることは?
オ:いまここが不快なことだけは確か、
ハ:平凡だね、
オ:「事実」とはつねに平凡で残酷なものなんだ、
ハ:もう帰ってほしいんだろ?
オ:うんお前は長尻だからね、さっきからマスかきたくて仕方ないんだ、
ハ:もうちょっと緻密で知性あふれる対話をする気はないのか? ソクラテスみたいに、
オ:ソクラテスなんか糞くらえだ! あんなゴマカシ野郎より公衆の面前で自慰行為に耽ったディオゲネスのほうがよっぽど尊敬に値する、
ハ:君はときどき深夜の公園でやってるみたいじゃないか、
オ:うん、でもほんとうはラッシュアワーの雑踏のなかでやりたいよ、木偶の坊みたいな紳士淑女の顔にザーメンをかけてやりたい、そして叫びたい、「私は平和ではなく剣をもたらすために来た」
ハ:もう帰るわ、
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