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夏も終わる

1、ちら見

久しぶりにトレーニングジムに行った。そこにいた、白く薄いアディダスTシャツを着たお嬢さん。かなり汗ばんだそれから、青いブラ(スポブラではない、背に留め金のついた普通のやつ)を、くっきりと透かせていただいていて、背中のみならず前のふくらみ辺りも透けていて、尚且つ私の前を2回ほど通っていただいて、大変ありがとうございました。危うくトレッドミルから落ちそうになりましたが、おじさん、とっても元気が出ました。もう少し長生きしようと思いました♪

2、夏の終わり

晩夏に入った早暁そうぎょうの時刻。薄ら寒い部屋の空気に気づき、眠りから目が覚めた。
立ち上がって、寝る前に半分開けておいたガラス戸を閉めに向かいながらも、幾分か目が覚めてきて、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。そのまま居間の前に設えたウッドデッキに出ると、小さな家庭菜園が目に入る。あれほど葉をいっぱいに広げ、ツルの至る所から実を下げていた野菜も、今は半分ほどの葉が黄ばんで乾き、カサカサとして枯れてしまったようだ。娘や孫が来ないのが分かった私が、途端に手入れをしなくなったせいなのだが。
勝手に戻りコーヒーを入れた大きめのカップを片手に、今度は茶の間にある大机の前に座る。そうして先ほどのウッドデッキを、その先の菜園を、見るともなしに見る。
夏の終わりはどことなく寂しい。

3、恋人の思ひ出

好きになったのだから、その先に起こる一切はすべて仕様がないのだという、勝手な理屈が私の哲学だったから、昨年の私ときたら、不倫という倫理感も忘れ、目前にある恋人の長い髪を撫で、身体に触れるとき、それだけが、他のすべてに優先されていたのだ。
夕方仕事が終わっての帰路、郊外にある量販店の駐車場に停めた車の後部座席。抱き寄せた私の腕の中で、彼女は小さく何度も何度も「○○さん!」と私を呼ぶ。その時の「さん」に強めのアクセントを入れる、彼女ならではのちょっとした癖のある声。また声を発する唇のふくらみと淡い色の口紅。
私の太腿の付け根に置かれた彼女の手のひらは、すでに膨張しはじめた何かを欲しがってさわさわと落ち着かない。
一方で私と来たら、彼女の耳たぶを唇で被い、舌の先を尖らせては、耳の穴にねじ込もうとする。彼女は私の名ではなく、んん、ああ、という声ならぬ声を出し始め、それを聞くにおよんで、私の不埒ふらちな哲学が正しかったのだと納得し、有頂天になってしまう。

こうして今また元恋人を思い出しながら、朝4時半のうっすらと明け始めた空を、ぼんやりと眺める。目の覚めた頭は、すでに恋人の長い髪と体つきで彷彿として来て、すると、この年齢としで一人の女を好きになった愚直さが、自分の心の芯に照らしても、決して間違いではなかったと確信でき、ひとり、こっそりと頷くのだ。

今でも時々、朝夕の出退勤時に見かける彼女の姿を、そっと吟じてみます。

 すぐそこにいても届かぬ恋人の
     身体を映せば夏の
朝靄
           ちくわ山頭火