三方舎書斎gallery

国内外の手仕事から生まれる「本物」の作品や作家を独自の視点で紹介します。 https:…

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国内外の手仕事から生まれる「本物」の作品や作家を独自の視点で紹介します。 https://sps-i.jp/teshigoto/ https://www.instagram.com/sanpousha/ curator/執筆 尾崎美幸(学芸員・京都造形芸術大学卒 三方舎所属)

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  • 世界の手織り絨毯

    「絨毯の聖地」書斎ギャラリーだけで読める世界の手織り絨毯をご紹介するマガジンです。

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    書斎ギャラリーの企画展についてご紹介します。

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    pass the piece ー現地からの1枚ー 現地で出会った一枚をあなたへ手渡す。

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ガーズニウール絨毯

◉ プロローグ 「大柄で奥行きのある不思議な文様に、触れなくても分かるほどの美しい艶」 この絨毯が放つ独特な雰囲気は他に類を見ず眺めれば眺めるほど触れたくなる、自然と引き寄せられる不思議な魅力を持っている。 今回ご紹介する「ガーズニウール絨毯」は、アフガニスタンが生産国で長年続く情勢不安から輸出入が停滞しており世界であまり流通しておらず、こと日本においては希少性が高い。 そんな絨毯の取り扱いが三方舎で始まっている。 今回のnoteではガーズニウール絨毯の魅力を解明

    • 布絵に表現された生き物たちへの想いとの対話を−布絵作家・ヤマヤアキコ

      ◇プロローグ:布絵作家ヤマヤさんとの出会い 筆者がヤマヤさんの作品に出会ったのは、2019年に書斎ギャラリーで開催された『タマ公を伝える紙芝居原画展』でのことだった。 タマ公は新潟県五泉市で実在した忠犬で、2度に渡り雪崩から人命救助した犬として知られる。 その実話から生まれた紙芝居(原画担当・石川経治氏)の布絵をヤマヤさんが担当していた。 原画を布で忠実に再現していたことはもちろん、同時開催した『世界の名作童話に登場する愛らしい動物たち ヤマヤアキコ布絵作品展』で拝見した

      • 人と自分に対する深い愛情を作品と活動に表現する−ガラス工芸作家・近藤綾

        ◇プロローグ:春霞または宝石の原石 ほんのわずかにザラついた感触の厚めの胴。 春先の晴れた空のように全体が白い中に所々青や薄紫・薄ピンクが入る。 「春霞を思わせるような、もしくは鉱山から見つけ出された宝石の原石のような器」 そんな印象を抱かせるガラスの器、それを生み出すのが新潟市に拠点を置いて活動するガラス作家の近藤綾さんだ。 6/24(土)から書斎ギャラリー・離れで個展の始まる近藤さんの器は、ふんわりとした中に腰の座った凛と美しい女性の姿を連想させる。 近藤さんはS

        • 自分の色を求めて−草木染め手織り・佐藤亜紀②

          ◇プロローグ:道を探した20代、道を作り始めた30代 工房兼自宅となっている家屋に足を踏み入れると、まずは三和土が広がっていた。 近年の一般住宅よりも広めの三和土だったので、作品や作品を作るための道具の出し入れには便利な造りだと思った。 工房の2階に上がると和室が2部屋あり、一部屋が作業部屋・もう一部屋が作品を保管する場所となっていた。 作業部屋は東側・西側どちらからも光の入る部屋で、自然光の心地良さを感じる空間だった。 長岡造形大学の産業デザイン学科(現 美術・工芸学

        ガーズニウール絨毯

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        • 世界の手織り絨毯
          9本
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          10本
        • 個展
          4本
        • pass the piece ー現地からの1枚ー
          1本

        記事

          自然の光景を1枚の布に織り込める−草木染め手織り・佐藤亜紀①

          ◇プロローグ:季節のひかりを詰め込んだ手織りものとの出会い 絹糸を草木の染料で染め上げ、手織りで作品を制作する作家が滋賀にいる。 その作家が生み出す織物は、いくつかの同系色の中に差し色が入る色合いでまとめられた平織のストールがメインだ。 紅・オレンジ・黄色、紫・ピンク・グレー、黄・黄緑・薄紫。 2色の淡い藍色で織り上げられたものもある。 それらは夕日に光るまちなみだったり、黄金に輝く稲穂の海だったり、春先に芽吹く新緑だったり、どこか季節の光景を感じさせる。 そしてその布は

          自然の光景を1枚の布に織り込める−草木染め手織り・佐藤亜紀①

          トルコ絨毯発祥の地で受け継がれてきた絨毯ーマラティア地方ー

          ◇「生命の樹」に込められた想い 現在、当ギャラリーの2階では5枚のマラティア絨毯が展示されている。 デザインは、絨毯のフィールドに1本〜数本の樹がレイアウトされたもので、どの絨毯もメインのモチーフの背景がワントーンでまとめられており絵本の1ページのような可愛らしさを感じさせる。 これらの絨毯は、2月に発生したトルコ大地震の際に崩壊したマラティア地方の工房から奇跡的に発見されたものだ。 工房の下敷きになったものだからだろうか。絨毯によっては折り跡(畳んで保管されていたの

          トルコ絨毯発祥の地で受け継がれてきた絨毯ーマラティア地方ー

          花束に希望の未来を乗せて−OLI OLI FLOWER 伊藤美波

          ◇プロローグ:新発田の商店街に彩りを添える 新発田市の商店街の一画に、洋風な外見をした一際目を引くお店がある。「OLI OLI FLOWER」という名前のお店で、プリザーブドフラワーで花束を制作するお店だ。 店主は伊藤美波さん。金髪に近い明るい髪色の溌剌とした印象を与える女性だ。 お店の中に入ると、「ここは本当に歴史の古い新発田の町?」と疑いたくなるようなシンプルで洗練された空間が広がっている。 床も壁面も装飾された部分は少なく、それがまるでキャンバスのようだった。空間と

          花束に希望の未来を乗せて−OLI OLI FLOWER 伊藤美波

          命萌えるザクロの「生命の樹の絨毯」

          種 類:ギャッベ 産 地:イラン マテリアル:ウール サイズ:205cm × 138cm 価 格:¥350,000(税込)   ※トルコ大地震 緊急支援企画価格 学芸員・尾崎による見所ポイント: この絨毯の見所は、なんといっても1枚の平面に込められた「若さの中に見える命の熱量」であろう。 絨毯中央にまっすぐに立つ1本の樹には、熟しきれていない黄色のザクロ。 「繁栄」を意味するザクロは色も形もバラバラだが、左右は対照的で美しくバランスが取られている。 しかしその一方で実を

          命萌えるザクロの「生命の樹の絨毯」

          バティックを通して伝えたい「哲学」がある−BIN houseの想い –

          ◇プロローグ・伝統を残す戦い 2009年、インドネシアの伝統布「バティック」が世界遺産に認定された。 2〜3世紀に中国で生まれたと伝わる布を染める技法「ろうけつ染」はゆっくりと時間をかけて世界に広まり、16〜17世紀にはインドネシアとインドで隆盛し主にヨーロッパで重宝された。 インドネシアでは王族の正装として使われたが次第に庶民も広まり、国を代表する産業となった。 しかしその産業にも機械化が浸透し、伝統技術はじわじわと衰退の様相を見せるようになった。そこに危機感を持った

          バティックを通して伝えたい「哲学」がある−BIN houseの想い –

          生命の樹−未来を照らすお守りの絨毯−①

          ◇プロローグ・生命の樹の絨毯に込めた願い 現在、当ギャラリーの2階では「生命の樹」をモチーフとした5枚のマラティア絨毯と4枚のギャッベが展示されている。 2月いっぱい開催する「くらしめぐり Vol.2-愛でる暮らしのつくり方-」でご紹介するもので、先行して展示しているものだ。 デザインは、何本もの枝を生い茂らせた1本の樹に何十羽もの鳥が羽を休めているというもの。 この鳥たちは色も向いている方向もみんなバラバラで、それぞれに個性を感じさせる。 この絨毯において、樹は繁栄・

          生命の樹−未来を照らすお守りの絨毯−①

          アラベスク絨毯 その③ーアラベスク文様を今一度振り返るー

          これまで2回にわたりご紹介してきたトルコ絨毯とアラベスク絨毯。 どちらも同じ国で生まれたトルコ絨毯だが、その中でも「全ての制作工程をトルコ国内で完了したもの」「緻密で均整のとれているデザインであり色が何層にも見えるような深みを感じさせるもの」という三方舎独自の基準で選定された絨毯を「アラベスク絨毯」と名付けたことを「アラベスク絨毯 その②ーアラベスク絨毯の誕生ー」でもご紹介した。 アラベスクというとパッとアラベスク文様を思い出しがちだが、私たちはそれだけを指してはいない。

          アラベスク絨毯 その③ーアラベスク文様を今一度振り返るー

          バティック−手作業に込めるインドネシアの情熱−

          現在、書斎ギャラリーでは2月4日から始まるデザインウィーク「NIIGATAくらしめぐり」に向け準備が進んでいる。このイベントは新潟市にあるインテリアショップとギャラリーの計6店舗が連携して「愛でる暮らしのつくり方」という1つのテーマで各会場で企画展を行うという、ちょっと(いやかなり)面白いイベントだ。 各店舗で暮らしに自然と馴染むインテリアやアートを手にして頂けるもので、当ギャラリーでは世界遺産に登録されているインドネシアの伝統布「バティック」を紹介する。 当ギャラリーで

          バティック−手作業に込めるインドネシアの情熱−

          アラベスク絨毯 その②ー「アラベスク絨毯」の誕生ー

          前回のブログ「アラベスク絨毯 その①」で少し触れたが、当ギャラリーではトルコ絨毯に独自の基準を設定しその基準に適ったものを「アラベスク絨毯」と名前を付けて紹介している。 なぜネームバリューのある「トルコ絨毯」を使わず、わざわざ「アラベスク絨毯」と別の名前をつけるに至ったのか。今回のブログでは、その誕生秘話を紹介していく。 ◇出会い 当社代表の今井がまだインテリアショップ「ボー・デコール」に所属していた頃、イランの手織り絨毯・ギャッベを日本全国に紹介した。ギャッベはインテ

          アラベスク絨毯 その②ー「アラベスク絨毯」の誕生ー

          ノ縞屋③

          ◇プロローグ 野島氏が実際に買い付けを行なう主な国は、バルト三国と呼ばれるエストニア・ラトビア・リトアニアやそこからさらに北に位置するスウェーデンなどの国々だ。エストニアではノ縞屋のヒット商品である「small house」、ラトビアでは定番商品であるウールのミトンやソックス、リトアニアではリネン雑貨などを買い付けている。ブログ「ノ縞屋②」でもご紹介したが、野島氏の買い付けは「ここ」という目的の商品や場所があるのではなく、街中を歩き回って偶然見つけた工房で気に入ったものを買

          トルコ絨毯の辿ってきた道

          ◇プロローグ・トルコ絨毯と小さなギャラリーをつなげた絨毯 三方舎書斎ギャラリーに1枚の美しいトルコの手織絨毯がある。 10年前に当社代表の今井が一目惚れし購入したものだ。 フィールドの中に一方向を示す、細かなアラベスク文様からなるメヘラブ柄が美しく配されたこの絨毯は100年の歴史を持つ。 深海のような深い青色の地の上に配された色鮮やかな花々が際立っている。 このアラベスク文様の絨毯には「アラベスク絨毯」と名前がついているのだが、トルコ絨毯の一部の絨毯に名付けた三方舎の造語

          トルコ絨毯の辿ってきた道

          ノ縞屋の魅力は現地買い付けから始まった

          ◇プロローグ・集められたこだわりの小物たち 一つ前のブログでもご紹介したが、ノ縞屋のギャラリースペースは昭和時代の庶民的な家屋の中にある。 所々陰影を生む漆喰の壁がスペースを囲み、経年変化でまだら模様になった木の板の天井や梁・階段の組み合わせが味わい深さを生んでいるのだが、そこに野島氏のセレクトした北欧雑貨が絶妙にマッチし気取らない美しい空間を作り出している。 置かれているものは、ヴィンテージ食器・革製品・雑貨・冊子など多岐のジャンルに及ぶが、そのどれもが不思議と調和して

          ノ縞屋の魅力は現地買い付けから始まった