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90歳イースト・ウッド。コロナを超えた新作

最新作はコロナ禍での撮影

今日公開された『クライ・マッチョ』は巨匠クリント・イーストウッド監督の監督生活50年、40作目を飾る記念作だ。近年減っていた監督・主演を務める作品で、役者イーストウッドファンも楽しめる作品になっている。撮影はコロナ禍の中、厳重な感染対策を施しながら行われたようだ。イーストウッドは1930年生まれで今年92歳。あのジャン=リュック・ゴダールと同い年だ。

元カウボーイのわかりやすいロードムービー

ストーリーは至ってシンプル。カウボーイで元ロデオのスター選手でもあるイーストウッド(役の年齢はわからない)は、妻子を亡くしてから酒と薬に溺れ、人生を見失っていた。仕事への投げやりな態度から職も失ってしまう。しかし、その一年後、元雇い主の男から、これまでの恩を返せとある任務を任される。メキシコにいる元妻の下から、10代の息子をアメリカに連れて来いというものだ。この映画は、そんなイーストウッドとティーンエイジャーの旅路を描いたロードムービーになっている。

90歳だけど元気

とにかく全編にわたって出ずっぱりである。その上、車を運転するは、追手のチンピラと戦うは、恋をするはで大活躍。セリフははっきりしているし、足腰もしっかりしている。そもそも90を過ぎれば、生きてるだけでも大変なのだ。近所の病院に行くのも一苦労。電車だって、バスだって、ひとりで乗っている姿を見るとこちらが心配になる。でも、この映画の舞台はメキシコだ。周りには禿山があるだけで何もない。乾いた土地に、サボテンと馬がいるだけだ。そこをイーストウッドが元気に動いている。凄すぎる。しかも、この作品を監督しているんだから、どんな体力をしているのか。やはり、ダーティーハリーは常人とは違うのである。

鶏と少年とイーストウッド

イーストウッドと旅をする少年は、常に闘鶏を抱えている。彼はメキシコで闘鶏賭博で生活費を稼いでいた。鶏の名前は「マッチョ」。この映画はイーストウッドと少年と鶏によるロードムービーなのだ。この鶏、かなり重要な役割をはたす。ただの動物ではなく助演的な役割だ。鶏とイーストウッドと少年が3人並んで歩くシーンがある。まさに荒野の用心棒ばりのガンマン3人といった出立ち。この映画のベストシーンの一つだ。映画には、鶏の他にたくさんの動物が登場する。たくさんの馬、豚や犬や山羊。圧倒的な大地と美しい動物たち。そしてイーストウッドと往年のアメリカ車。そこにはスマホもテレビも出てこない。そのデジタルでない美しさがこの映画を支えている。

グラントリノに似てる

ここまで読んで大傑作『グラン・トリノ』を思い出した人もいるかもしれない。何を隠そう、この映画の脚本はグラン・トリノと同じニック・シェンク。確かに似たところがある。(今回もイーストウッドはフォードに乗る!)『グラン・トリノ』には胸が詰まるような緊張感があった。暴力があり、愛があり、哀しみがあった。エンディングのあの歌声を記憶している人も多いと思う。それに比べると今回は少しマイルドではある。暴力は軽く、愛はあるが、哀しみは少ない。ラストもハッピーエンドに近い。それでも90歳のイーストウッドの言葉と動きは重い。胸にずしりと響くものがある。

大傑作ではないけれど

こんな作品をさらりと撮れてしまうイーストウッドの底力。凝った構成も派手なCGも必要ない。馬がいて、車があり、旅と愛があれば映画になる。映画の全てを知り尽くした男イーストウッドの真髄を観た気がした。




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