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【前書き公開】Can-doで教える 課題遂行型の日本語教育

⽂型積み上げ式とはどう違う? ⽬標設定、授業の進め⽅、評価、 異⽂化理解まで。 マインドセットを⼀変させる1冊!
4月24日取次搬入の新刊、『Can-doで教える 課題遂行型の日本語教育』(来嶋洋美 / 八田直美 / 二瓶知子 共著)の前書きを公開します。 

本書が取り上げるテーマは、「課題遂⾏型の⽇本語教育」です。「JF⽇本語教育スタンダード」や「⽇本語教育の参照枠」などに準拠した⽇本語教育は⼀体どういうものなのか、基盤になる考え⽅と、初級授業の事例を詳しくご紹介します。 Can-do 能⼒記述⽂を学習⽬標にすると授業と評価はどうなるのか、必要に応じて、従来の「⽂型中⼼型」と課題遂⾏型を⽐較しつつ、理解を深めます。 さらに、⼈々の相互理解のために⾔語とならんで重要な異⽂化理解能⼒を授業でどのように扱うかというところにまで踏み込んでいきます。
日本語教育概論や教師養成講座のテキストとしても最適です。


はじめに

 日本語教師は忙しい仕事です。授業の準備、宿題のチェック、教材研究、教材作成、やることは常にいくらでもあります。それなのにここ数年、日本語教育界では Can-do、スタンダード、参照枠などと新しい動きが…!日本語教育機関認定や教員資格のような制度上の法制化も進む中、多くの関係者が、いよいよこの変化についていかねばならないと感じているところだと思います。

 本書は、そんな日本語教師の皆さん、日本語をこれから教える皆さん、日本語教育の動向に関心のある皆さんに向けて、新しい日本語教育の考え方と事例を紹介するものです。それは、学習者が日本語でできるようになりたいことを目標にした「課題遂行型の日本語教育」です。

 著者らは 1990 年代から海外の日本語教育支援のために教師研修や教材開発を行っていたのですが、新しい日本語教育の枠組みである「JF 日本語教育スタンダード(2010)」の公開に伴い、それに準拠した日本語教材『まるごと 日本のことばと文化』を開発する機会を得ました。もともと文型中心型の日本語教育を実践してきた者が、まったく新しい枠組みを理解し教材化するわけですから大変です。方法を教えてくれる人もいないので、教材の開発理念から本文の一字一句の扱いに至るまで、それまでの考え方を見直すという作業を進めながら、さまざまなことを繰り返し議論しました。本書はその議論と、開発した教材を使った授業を通して得た知見とを随所に取り入れています。

 本書が取り上げるテーマは、「課題遂行型の日本語教育」です。「JF 日本語教育スタンダード」や「日本語教育の参照枠」などに準拠した日本語教育は一体どういうものなのか、基盤になる考え方と、初級授業の事例を詳しくご紹介します。Can-do 能力記述文を学習目標にすると授業と評価はどうなるのか、必要な場合には、従来の「文型中心型」と新しい「課題遂行型」を比較しつつ、理解を深めます。さらに、人々の相互理解のために言語と並んで重要な異文化理解能力を授業でどのように扱うかというところにまで踏み込んでいきます。

 本書でご紹介するさまざまな教育活動は、学習目標、授業の内容・方法、評価の三者に整合性を持たせるという原則をもって設計されています。この原則を頭の片隅に置いて、学習目標に到達するための道筋を追いながら、事例をお読みください。

 「課題遂行型の日本語教育」はまだ始まったばかりです。本書で取り上げる方法や内容が唯一無二というわけではありませんが、これから新しい日本語教育に取り組んでいかれる皆さんの一助となれば幸いです。

著者一同


書誌情報

書名 Can-doで教える 課題遂行型の日本語教育
著者 来嶋洋美  / 八田直美  / 二瓶知子 共著
判型 A5判並製184ページ
ISBN978-4-384-06117-8 C0081
定価2,750円 (本体 2,500円+税)
電子書籍あり

目次

はじめに
第1章 課題遂行型の日本語教育とは
1. 日本語学習の目標
(1) 学習目標と授業内容の不整合
(2) 試験合格は本当の学習目標なのか
(3) 外国語教育は行動中心アプローチへ確実に変化
(4) 課題遂行型の日本語教育とは
2. 課題遂行型の日本語授業の基盤
(1) 外国語/日本語教育の枠組み:CEFR、JFS、参照枠
(2) 課題遂行能力の6 つのレベル
(3) 課題遂行能力とCan-do 能力記述文
3. 課題遂行型の日本語教育におけるCan-do の役割
(1) 授業設計の柱
(2) 学習目標の明確化
4. 教え方を変えるというチャレンジ

第2章 課題遂行型の授業設計1 コミュニケーション言語活動
1. 課題遂行能力と日本語教材
(1) コミュニケーション言語活動とコミュニケーション言語能力の関係性
(2) JF 日本語教育スタンダード(JFS)と『まるごと 日本のことばと文化』
2. 授業設計に必要なもう1つの柱:第二言語習得プロセス
(1) Can-do は授業の具体的な方法を示すものではない
(2) 言語知識が多ければ運用力は上がるのか
3. 課題遂行型の授業設計の事例『まるごと』「かつどう」
(1) 何を教えるか:内容一覧
(2) どうやって教えるか:各課の構成/授業の流れ
(3) 『まるごと』「かつどう」の授業の実際
4. 第二言語習得プロセスを教室活動にどのように適用するか
(1) 第二言語習得プロセスを組み込んだ授業の流れ
(2) 従来と異なる教師の役割
(3) 聴解テキストの質と量
5. 話すことは聞くことから始まる

第3章 課題遂行型の授業設計2 コミュニケーション言語能力
1. 課題遂行のための言語能力の育成とは
(1) 言語項目と課題(Can-do)のつながり
(2) 文字学習の考え方
2. 言語能力育成のための授業設計の事例 『まるごと』「りかい」
(1) 何を教えるか:内容一覧
(2) どうやって教えるか:各課の構成/授業の流れ
(3) 『まるごと』「りかい」の授業の実際
3. 『まるごと』「りかい」の授業の特徴
(1) 文脈化と音声利用
(2) 文型中心の日本語授業との比較
4. 課題遂行能力の育成:帰納的アプローチと演繹的アプローチ

第4章 課題遂行型の日本語教育における学習評価
1. 課題遂行の評価
(1) パフォーマンス・テスト
(2) ルーブリックを使った評価
(3) 評価に対するマインドセット 点数化、公平性、客観性の再考
2. 課題遂行型日本語コースの評価活動
(1) 目標・授業・評価の整合性
(2) コミュニケーション言語活動の評価
コラム 文字テスト
(3) コミュニケーション言語能力の評価
(4) 学習者の自己評価
3. 評価が担う役割

第5章 課題遂行と異文化理解能力
1. 異文化理解能力とは
(1) 異文化理解能力の構成要素
(2) 何を教えるか
(3) 異文化理解学習の場
2. JF 日本語教育スタンダードと異文化理解
(1) 相互理解のための日本語
(2) 課題遂行と異文化理解能力
(3) 『まるごと 日本のことばと文化』における異文化理解の扱い
3. 異文化理解能力を育てる授業 『まるごと』の事例
(1) 生活の中にあるモノ、コトの文化から考える
コラム 質問の種類を意識する:ディスプレイ・クエスチョンと
レファレンシャル・クエスチョン
(2) 日本語でよく使う言葉や表現の中にある文化から考える
(3) 会話の中の文化から考える
(4) 異文化理解学習のツール ポートフォリオ
4. 異文化理解能力を育てるための教師の役割とは

第6章
課題遂行型の日本語教育 実践のステップ
1. 学習者と学習ニーズの分析
2. コース全体の構成内容
(1) レベルの定義:「初級」か「A1/A2」か
(2) 初級のコース内容:「フルコース」か「アラカルト」か
3. シラバス(学習項目表)の作成
(1) Can-do はどう作る?
コラム MY Can-do の作り方 ツール紹介
(2) モデル会話の作成と言語項目の選び出し
(3) 言語項目の配列とレベル
4. 学習/指導方法の検討
(1) 第二言語習得プロセスをベースにした新しい授業の方法
(2) 音声重視の教え方の工夫
(3) 文字学習のあり方を再考する
5. 欠くことのできない異文化理解能力の育成
(1) 日本事情・日本文化の知識にとどまらない
(2) 入門期からの異文化理解学習
6. 評価方法の策定
(1) 目標Can-do と整合する方法
(2) 学習者自身のふり返り
(3) レベルの判定
7. マインドセットの変容は仲間との協働によって実現する


著者プロフィール

来嶋洋美(きじま・ひろみ)
日本語教育専門家。『まるごと 日本のことばと文化』(入門(A1)~初中級(A2/B1))を企画・開発・執筆。1991年より2023 年まで国際交流基金日本語国際センターで海外の日本語教育や教師教育、学習者向け教材開発、及び教師向けオンライン教材開発に従事。海外ではシンガポールで中等教育の日本語教育、マレーシアで日本留学予備課程の日本語教育、イギリスでオンライン提供の中等教育向け初級教材リソース群『力CHIKARA』の開発に携わる。

八田直美(はった・なおみ)
専修大学国際コミュニケーション学部特任教授。『まるごと 日本のことばと文化』(入門(A1)~初中級(A2/B1))を企画・開発・執筆。1990 年より2022 年まで国際交流基金日本語国際センターで海外の日本語教育や教師教育、学習者向け教材開発、及び教師向けオンライン教材開発に従事。海外ではマレーシアで日本留学予備課程の日本語教育、タイとインドネシアで高校生向け初級教科書の制作や教師研修に携わる。2022 年より現職。

二瓶知子(にへい・ともこ)
国際交流基金日本語国際センター日本語教育専門員。国際交流基金ジャカルタ日本文化センターにて『まるごと 日本のことばと文化』の試用及びコースの立ち上げ、教師教育に携わる。2009 年より国際交流基金で海外の日本語教育や教師教育、教材開発に従事。国内では大学等で留学生に対する日本語教育及び日本語教師養成課程等に関わっている。著書に『もっと中級日本語で挑戦!スピーチ&ディスカッション』(凡人社)等。

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