[短文で重要判例解説]法定相続分差別[憲法百選I 27)

閲覧ありがとうございます(2021.9.30に一部説明を修正。多くの方に読んでいただきありがとうございます)。

今回は、憲法百選I (7版)の27番の判例、嫡出生の有無による法定相続分差別に関する違憲決定(最大判H25.9.4)の解説を短くしたいと思います。

試験的に重要なところに焦点を当てていきます。

■ 事案

事案はとっても簡単です。

被相続人Aが死亡し、嫡出子らが非嫡出子に遺産分割審判を申し立てたという事案です。


そこで非嫡出子の法定相続分が嫡出子の半分とする民法の規定が平等原則違反(憲法14条1項)により無効ではないかが争われました。


■結論

この憲法上の論点については、すでに平成7年の大法廷決定合憲という結論が出ていましたが、本件ではそれをひっくり返して違憲としました。まずは、この結論を押さえておきましょう。

当てはめはそこまで重要ではないので、判断枠組み(違憲審査基準)の定立の考慮要素を見ることが大切です。

■判断枠組み決定

まず、法定相続分というのは相続制度に関わる問題ですから、これは立法裁量が認められる事案であると言えます。ですから、これは審査基準を緩やかにする事情であると言えます。

(試験的には補充的に相続分が経済的自由に関わることを審査基準を緩やかにする事情として指摘してもいいかもしれませんが、最高裁は特にそれを指摘していないので、採点者によってはあまり印象が良くないかもしれません)

次に、この事案に関して合憲の判断を出したH7年決定は法定相続分が補充規定としての性質を有することを審査基準を緩やかにする事情として挙げました。法定相続分が補充規定としての性質を有するというのは、被相続人が遺言をしていれば非嫡出子にも法定相続分以上の財産を相続できる、つまり相続分を指定する遺言がない時だけ適用される法律であるということです。

しかし、今回の大法廷決定は、法定相続分が補充規定としての性質を有することは審査基準を緩やかにする事情にならないとしました。

その理由としては、遺言によって変えることのできない遺留分は明確に差別されていることや、本件規定の存在自体が差別意識を生じかねないことが挙げられています。


では、この事件に関しては、3つのうちのどの違憲審査基準を使ったと理解すればいいでしょうか。

国籍法違憲判決が、国籍という重要な法的地位の取得要件自己の意思や努力によって変えることのできない父母の婚姻という要件にかからせていることを審査基準を厳格にする事情として重要視したことは他の記事で説明しました。

これは、重要な地位であるからこそ、自己の意思や努力によって変えることのできないような疑わしい要件にかける場合は慎重に審査すべきだ、ということです。

反対に、重要でない権利や法的地位にそのような要件をかけても、審査基準はあまり厳格にならないということです(少しは厳しくなるかもしれませんが)。

なので、嫡出子か非嫡出子かも父母の婚姻によって決まる事項ですから、法定相続分を受けるという地位が「重要」と言えるかどうかによってこれは決まると言っていいでしょう。

これは議論の分かれるところなので、ご自身の理由と結論を示せば大丈夫だと思います。

「重要」と言えれば中間審査基準、重要と言えないなら合理性の基準が相場かなと思います。

(ちなみに私見では、国籍ほど重要な法的地位はないだろうということで、合理性の基準を採用すべきと考えています。合理性の基準でも違憲の結論は十分導き出せると思います。)


今回は以上です。また別の判例を解説することも考えいます。


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