【論点解説】過度に広範ゆえに無効の法理と第三者の権利主張適格

こんにちは、法学系院生です。


今回は、過度に広範ゆえに無効の法理と第三者の権利の主張適格(違憲主張適格)について論じたいと思います。

過度に広範ゆえに無効の法理とは、法令(基本的には刑罰法規)の文言が合憲的に規制しうる場合のみならず規制が違憲となる場合までを広範に含む場合に、その法令全体を違憲無効とする法理です。
(この概念については別の記事で説明してますので、以下の記事を参照してください。)

では、上記のようなとある広範な法令(刑罰法規)が、合憲的に規制しうる行為を行なった者に適用され、当該行為者が起訴されたとします。
この場合、合憲的に規制しうる行為をしたとして起訴された被告人(=行為者)が、法令の過度広範性を理由に当該法令が違憲であると主張できるか、と言う論点があります。これは、当該広範な法令を当該行為に適用する限りにおいては合憲のようにも思えるから論点になるわけです。

そして、このような被告人の違憲主張は一般的に承認されています。問題なのは、この違憲主張を正当化しうる理由づけです。

■第三者の権利に基づく違憲主張を認めている?

この違憲主張の正当化の理由としてこの場合は「第三者の権利に基づく違憲主張が認められる」から、と説明されることがあります。つまり、この論者によると、当該合憲的に規制される行為を行った被告人が、違憲的に規制される行為をした第三者の権利を援用している、と言いたいようです。

しかし、これはあまりいい説明ではありません。過度に広範な法律はその適用行為がなされる以前に既に法令全体が憲法違反であり効力を有しないわけですから、合憲的に適用される行為を行なったか/違憲的に適用される行為を行なったかにかかわらず、違憲無効な法律は誰に対しても適用することができません。なので、当該法令違反によって起訴された被告人なら誰しも当該法律の過度広範性を理由に違憲主張をすることができます。

また、「第三者の違憲主張を認めたから」という説明にはもう1つ問題があります。それは、違憲主張適格を認める理由が不明確になるからと言う問題です。
一般的な見解として、ある法律が憲法違反というためにはそれが他人の権利ではなく自己の権利を侵害しているという理由に基づかなくてはならないとされています。もっとも、例外的に第三者の違憲主張が認められる場合もありますが、上記場合になぜ第三者の違憲主張が認められるかの理由がちゃんと説明されているわけではありません。
なので、上記説明は第三者の違憲主張が例外的に認められる場合の理論を不明確にすると言う点で問題があるのです。


ですから、過度広範性ゆえの無効の主張は「法令の適用の前提問題としての『当該法令の違憲性』を主張できる」と言う至極当然の理由に基づいて許されると理解されなければなりません。


■適用上合憲?

なお、合憲的に規制しうる行為で起訴された者は、法令の過度広範性ゆえの無効の主張ができず、その被告人に適用する限りにおいては合憲であるという「適用上合憲」という見解もあります(広島市暴走族条例事件判決の高辻裁判官の意見参照)。

しかし、(全体が)違憲な法律は誰に対しても適用できません。そういう当たり前の理由でこの見解は支持されていません。


ーーー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?