刑法事例演習教材(3版) 問題7「男の恨みは夜の闇より深く」


簡単に解説します。

■1 傷害罪

 まず、甲乙が共謀してAに有形力を行使した行為について、致傷結果が発生しており傷害罪(刑法204条)の共同正犯(60条)が成立します。

■2 窃盗罪(死者の占有) 

その暴行によりAが動かなくなったことから(実際は気絶していただけ)、Aが死亡したと勘違いしています。

なので、死者の占有を認めないならハンドバッグの占有取得には窃盗罪の故意がなく窃盗罪は成立せず(本当は生きているので客観的構成要件該当性はありますが)、死者の占有を認めるなら窃盗罪の故意を認められ、窃盗罪が成立します。
(甲と乙は、死んだ後に占有を取得する意思が生じたので強盗罪は成立し得ません)

ただし、甲には利用処分意思がなく不法領得の意思がないので、器物損壊罪の限度で共同正犯が成立します(部分的犯罪共同説の立場をとった場合)。乙には窃盗罪の共同正犯が成立します。

■3 事後強盗罪とか

甲と乙が、犯行直後を目撃されたBの追跡を逃れるために、Bに傷害を負わせた行為に事後強盗致傷罪の共同正犯が成立するか問題となります。

まず、Bは甲・乙を窃盗だと認識していない(通り魔だと認識している)ことが事後強盗罪の成立を妨げるかを論じる余地があります。これは、客体の主観により事後強盗罪の成立が左右されるのは不当であると考えられるので、事後強盗罪の成立を妨げる事情にはならないと解すべきです。

その他の要件は全て満たすので、乙には事後強盗致傷罪が成立します。

しかし、前述の通り、甲は窃盗ではないので事後強盗罪は成立しません。なので、甲には傷害罪の共同正犯が成立します。

ちなみに、以上の結論は、事後強盗罪の罪質を結合犯と解しようと身分犯と解しようと結論は変わらないので、特にこれを論ずる必要はないと考えられます。

■罪数

乙は、傷害罪と事後強盗致傷罪の併合罪、甲はAに対する傷害罪とBに対する傷害罪が成立します。

以上です。比較的検討することの少ない問題と思います。


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