【短文論点解説】「早すぎた構成要件の実現」は実行の着手の問題なのか【刑法】

 早すぎた構成要件の実現という論点が、故意の問題なのか実行の着手の問題なのかという疑問を持つことがあると思います。

 この疑問に対しては、「正面から問題となるのは実行の着手ですが、なぜ実行の着手が問題となるかというと故意を認めるためです」と回答するのがよいのではないかと思います。

 クロロホルム事件では、第1行為のクロロホルムを嗅がせる行為に人を死亡させる現実的な危険性が認められるので、実行の着手云々以前に実行行為性を肯定することは可能です。では、なぜクロロホルムを嗅がせる行為自体に実行行為性を肯定するのではなく、第2行為の実行の着手という論理に依拠する必要があったのでしょうか。

 それは、故意を認めるためです。
どういうことか。まず、被告の第2行為の水(海だっけ湖だっけ)に突き落とす行為の時点では殺人の故意が認められるのは間違いないですよね。そこで、第1行為が第2行為と密接に関連する行為であり、第1行為の時点で殺害行為である第2行為の実行の着手が始まっていたと言えれば、第1行為それ自体を行為者が認識・認容していれば、殺人の故意が認められる、というわけです。

「故意を認めるための実行の着手の問題」とはそういうことです。


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以上に関して、たとえば橋爪・刑法総論の悩みどころ参照。



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