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コスパとタイパと毒キノコ|酒を飲まないソバーキュリアス

近年は酒を飲まない若者が増えているようです。国税庁やその他メーカーが公表しているデータを参照してみるとその傾向は顕著で、最盛期であった1990年前後と比較するとビールの消費量は約25%程度に、お酒全般にしても50%程度にまで減少しているようです。

ひと昔前の日本では将来は豊かになるという希望が共有されていたことから、飲み会の場で組織のみんなでビールを飲むことで価値観を共有していました。その文化も今はあまり多くは見なくなりました。

健康志向が高まったことも要因のひとつでしょう。そして、コスパやタイパが重視される現代において「わざわざ酒を飲む必要がない」という考え方もよく聞かれるようになりました。

このようにお酒は飲めるが「あえて飲まない」人たちを「ソバーキュリアス」と呼ぶようで、近年になって増加傾向にあります。

酒の席で失敗するリスクも無くなり、二日酔いで休日が無駄になることもなくなります。飲み会の出費も減りますし、終電を逃した時の帰りのタクシー代も掛からなくなります。

この様に酒を飲まないメリットを羅列すると酒を辞めたくなります。しかし、合理的な魅力だけで酒を辞めることなどできるのでしょうか。

毒キノコの思い出

大学生の頃にアルバイト先の昼食で、社員のおじさんと先輩アルバイトの二人がうどんを作ってくれたことがあります。

彼らは仲が良く週末に一緒に山にキノコ狩りにいったそうで、その時に手に入れたキノコを使ってうどんをご馳走してくれたのです。僕の他にはもう一名の先輩アルバイトがいたので、4名でキノコうどんを美味しく頂き、そのまま午後の仕事に取り掛かることになりました。

しかし、それから数時間が経過すると、もう一名の先輩アルバイトが体調不良を訴えはじめ仕事の中断を余儀なくされました。その後、僕も体調に異変を感じ、気持ちが悪くなってしまいます。

どうやらキノコにあたったようです。キノコ狩りをした二人は知識も豊富で毒味もしていたようですが、あたった二人に比べると何らかの耐性があったのだと思います。

その後、僕ら二人は自宅に帰って安静にすることとなりました。だんだんと気持ち悪さは増していき、帰り道に嘔吐しながら帰ったことを記憶しています。

とっても美味しい毒キノコ

これは辛い経験ではあったのですが、ひとつ印象に残っていることがあります。

それは、その(毒)キノコうどんがびっくりするほど美味しかったということです。今までに食べたうどんのなかで最も美味しいうどんでした。

吐き気を催してしまった辛い経験と美味しいものに出会えた喜びが混在する不思議な思い出として、僕のなかに長く記憶されている出来事です。

その後、気になってインターネットで調べてみると、「毒キノコは美味しい」といった記事が複数みつかりました。

例えば、毒キノコとして有名なベニテングタケには、イボテン酸という成分が含まれており、旨味成分で知られるグルタミン酸の10倍の旨味があるといいます。もちろんイボテン酸は毒性があります。

よりにもよって美味しいと感じる食べ物のなかに有害な毒が含まれているとは、なんとも皮肉な現実です。

毒を含んだ美食と芸術

毒キノコの例は極端なものではありますが、美味しいものと毒性や刺激物が混在しているものは他にも多くあるように思えます。

例えばフグは毒を含む魚の代表格ですが、適切な調理を経て食されることで高級魚となっても人気が落ちることなく今も愛されています。

調味料で言えば唐辛子に含まれるカプサイシンも刺激物であり毒性があると言えますが、多くの激辛愛好家が存在し、激辛料理は今も大人気です。

冒頭で話した酒もこれと同じで、アルコールは一種の毒性だと言えます。人を酩酊状態にしてしまい、合理的な判断をできなくさせます。

しかし、ここで挙げた毒性のあるものはどれも非常に美味しいという事実があります。毒があるからこそ美味しいのではないかと思うほどです。

また、個人的には芸術の面でも毒を含んだ作品は刺激があって面白いと感じます。言ってはいけないことを芸の中に潜ませてさり気なく主張するところに魅力を感じます。

合理的な人生設計は推奨したいところですが、毒が含まれたものに魅力があるということも許容しながら楽しむことも大切なのではないかと思います。

もちろん、毒キノコは絶対に食べない方がいいですが。

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