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平和と和平、ひとことの重み。

わたしがまだ三十代の頃です。プロジェクト遂行のために、全国各地をまわって事業用地の相続登記手続きのための印鑑を頂きに上がっていました。大阪の菊人形で有名な枚方ひらかた駅前のビジネスに泊まって、何気にテーブルの引き出しを開けると、そこに聖書らしきものがありました。

よく見るとそれはキリスト教の聖書ではなく「仏教聖典」でした。ホテルに聖書が備え付けられているのは常識でしたから、いささか面食らいましたがページを開いた途端に、目に飛び込んできた文字。それがわたしの大きな転機となったのです。

法句経(五)
うらみは怨みによって果たされず、 忍を行じてのみ、 よく怨みを解くことを得る。 これ不変の真理なり。

仏教聖典より

ご存知の方もおられるでしょうが、わたしはこの短い文を読んで涙があふれ出ました。仕事に行き詰まり、家族のことで悩みをかかえ、人間不信というのでしょうか、世の中嫌な人ばかりだと、神も仏もあるものか、何で俺ばかりが、こんな思いをしなきゃならねえんだ、くそー。

やけ酒を呑んだあとも落ち込んでいた矢先の短い偈(詩)でした。

法句経五(法句経第5偈)
実にこの世においては、怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みのむことがない。
怨みをすててこそ息む。
これは永遠の真理である。

中村元訳(1978):ブッダの真理のことば 岩波文庫より。

もちろん私がかかえていた数々の問題は、すぐには解決しませんでした。ところが不思議なもので、いままで見えていた世界が大きく変わったのです。これはどうしたものか。仏教というのは、こんなにも明解なのか。古臭いとばかり思っていた、やたら難しい言葉だけが並んでるだけと感じていた私に、この偉大な真理がおぼろげながら少しずつ見えてきたのです。


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法句経第5偈の教えは、怨みや恨みの連鎖を断ち切るための智慧を示しています。この教えは、個人の心の平和だけでなく、社会全体の和解と平和にも深く関わっています。(和平)

今日はこの教えについて、わかりやすく詳しく解説いたします。

✅怨みに報いるに怨みを以てしたならば

この部分は「人が怨みを持っているとき、同じ怨みで応じると、怨みが終わることはない」という意味です。

人と人との間に起こるいざこざや誤解、そしてそれに伴う怨みや恨みは、それに同じ方法で対抗することで解決するのではなく、かえって新たな怨みを生む原因となります。

例えば、誰かに悪口を言われた時に、同じように悪口で返すと、その対立はエスカレートするばかりで、決して平和は訪れません。

✅ついに怨みの息むことがない

ここでの「息む」とは、終わる、止まるという意味です。つまり、怨みに怨みで応じることは、いつまでも争いが続くということを意味しています。

これは、個人間のみならず、集団や国家間の争いにも言えることで、復讐の連鎖が始まれば、それが完全に止まることは非常に困難です。

歴史を見ても、このような争いの連鎖がどれほど多くの悲劇を生んできたかを見ることができます。(今日現在も悲劇が連鎖している現実)

✅怨みをすててこそ息む

このフレーズは「怨みを手放すことで、初めて争いが終わる」と教えています。つまり、誰かを許し、怨みを心から手放すことが真の解決につながるというわけです。

許すことは容易ではありませんが、許すことで心の平和を取り戻し、更なる争いを防ぐことができます。また、許しは自分自身を解放する行為でもあり、怨みに囚われず、前向きな人生を送るための重要なステップです。

✅これは永遠の真理である

最後に、この教えが「永遠の真理である」と述べられています。これは、時代や場所を超えて、常に真実であり続ける普遍的な原則ということです。

人間の心理や社会の構造が変わらない限り、怨みには怨みを返さず、許しによってのみ平和がもたらされるという真理は変わりません。

この教えを現代社会に生かすには、まず個人が自分自身と向き合い、内面の怨みや恨みを手放すことから始める必要があります。

家庭内での小さな誤解から、職場での対立、さらには国際的な紛争に至るまで、すべてのレベルで許しの精神を実践することが求められています。

心からの許しと怨みを手放すことは、自分自身の精神的な平穏だけでなく、関わる全ての人々に対しても好影響を及ぼします。

これは決して容易な道のりではありませんが、実践することで得られる恩恵は計り知れません。

✅怨みを手放すための実践的な方法

  1. 自己反省と理解の深化:まずは自己の感情を理解し、なぜ怨みを感じるのか原因を探ることが大切です。感情を受け入れることから始めることで、自己の内面に平和をもたらすことができます。

  2. コミュニケーションの改善:相手との対話を通じて誤解を解消し、感情を共有することも重要です。開かれた対話は、互いの立場を理解し、怨みの感情を和らげるきっかけとなります。

  3. 許しの練習:許すことを意識的に練習することも、怨みを手放す助けとなります。小さなことから許すことを始め、徐々に大きなことへと応用していくことが有効です。

  4. 瞑想やマインドフルネスの実践:瞑想やマインドフルネスは、心を落ち着かせ、現在に集中するのに役立ちます。これにより、過去の出来事に対する執着を減らし、心の平穏を保つことができます。

  5. 感謝の心を持つ:日常生活で感謝の心を持つことは、ポジティブな感情を増やし、怨みや不満を相対化するのに役立ちます。感謝できることを意識的に見つけ出し、それに焦点を当てることで、心の持ち方が変わってきます。

✅社会全体での怨みの解消

怨みを手放すことは個人的な行動だけでなく、社会全体の変化を促すためにも必要です。教育や法律、文化活動を通じて、許しや共感の重要性を広めることができます。

特に若い世代に対する教育は重要で、彼らが怨みを超えた生き方を学ぶことが、将来的な社会の平和につながります。

✅結論

法句経のこの教えは、ただ単に個人の内面だけでなく、広く社会に対しても適用されるべき普遍的な真理を提供しています。

怨みに怨みで応えるのではなく、許しと理解によって真の解決を目指すこと。これが、私たちが目指すべき平和への道です。

この道は決して簡単ではありませんが、一歩一歩確実に歩みを進めることで、より良い世界を築くことができるでしょう。

怨みを手放し、許しを実践することで、自分自身も社会も、真の意味での平和と調和を実現することが可能になります。


✅社会的調和への貢献

許しという行為は、単に個人的な利益を超えて、社会全体の調和にも貢献します。怨みや対立が続く社会は、常に不安定であり、その緊張は多くの社会問題を引き起こします。

対照的に、許しを基盤とした社会は、安心して生活できる環境を提供し、そこから創造性や共感、協力が芽生えやすくなります。

✅持続可能な平和のために

許しは持続可能な平和を実現する鍵となります。怨みや復讐の連鎖を断ち切ることで、過去の過ちから学び、より良い未来を築く基盤が形成されます。

国際的な紛争解決でも、この原則が活用されれば、より公平で持続可能な解決策が見いだせるでしょう。

✅個人の成長と自己実現

個人レベルで許しを実践することは、自己実現の旅の一環でもあります。怨みを手放すことで、自分自身の限界を超え、新たな可能性に目を向けることができるようになります。

これは精神的成長だけでなく、人間関係やキャリアの面での新たな機会をもたらすことにも繋がります。

✅組織とコミュニティでの応用

企業や組織でも、許しの文化を取り入れることで、職場内のコミュニケーションが改善され、労働者の満足度が向上します。

コミュニティレベルでは、許しを基にしたイニシアティブが地域の団結を強化し、さまざまな社会活動において協力が促進されるでしょう。

✅持続的な努力の重要性

このような変化を実現するには、一時的な努力ではなく、持続的な取り組みが必要です。個人、家庭、コミュニティ、国家といったすべてのレベルで、許しと和解の精神を根付かせることが求められます。

✅終わりに

法句経第5偈の「怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みの息むことがない。怨みをすててこそ息む。これは永遠の真理である」という教えは、今日の私たちにとっても非常に重要なメッセージを持っています。

この教えを日々の生活に取り入れ、許しと和解の精神を広めていくことで、より平和で調和のとれた社会を実現することができるでしょう。

私たちの小さな努力が、大きな変化を生む第一歩となります。許しを通じて、自己と社会の両方で真の平和を追求しましょう。


多くの言葉で説明するよりも、何気ないたった一言で人生は変わります。

これが「出会い」ということかもしれません。

出会いは「偶然」の顔をしながら訪れる「必然」と思ってます。
仏教ではこれをたった一文字で「えん」と申します。


縁(水)

ご覧くださり感謝いたします。
念水庵 正道

テーマ:ひとことの重み
#仏教の本質


平和と和平

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