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卒業

六年間居た学校を卒業した。なじみの校舎、教職員とはお別れである。この中高に進学したことは後悔しているが、学校生活の中で巡り会った人々には語りきれない感激がある。何の縁か知らないが、負の要素を相殺してくれるような、悪くいえば負のために用意されていたかのような出会いばかりであった。

中学入学式が終わり自教室で担任の自己紹介などを聞いて、一区切りついたところで休み時間となった。静まりかえるかと思いきやざわざわとおしゃべりが始まった。一般の試験に合格した上英語のテストで振り分けられた”ちょっとできる”人達の集まりだったので、なるほど社交性があるのかと思ったが、会話内容は「この学校は何番目に志望していたのか、やはり1番ではないよな」といことだったので、なんだか哀れにも思えてしまった。私も第5志望であった。どうやら担任は頼りなく、(その後寄せ書きをシュレッダーにかけるなどの度重なるミスで信頼を失っていく)1クラスの人数が45名程と多く、暑苦しくまとまりがなく小学校とは全然違うものだから怖かった。トイレにでも向かおうと席を立ち後ろを向いたとき、彼女を見つけてしまった。左隣の列の1番後ろに座っているおさげの子、ややオーバーリアクション気味に手振り身振りを添えながら、周りをたくさんの煌めきに囲まれながら楽しそうに話している。なんだか霞がかったようにみえて、とんでもないものを目にしているような感動とも驚きともつかない感覚に襲われて、もう一度席に着いてしまった。幻想を見たような思いで二度目、ああこれが一目惚れというやつか、と分かった。私は恋愛感情を抱いてからそれが恋であると分かるまでに時間のかかるタイプで、それを楽しんでもいたのだが、その時は悩むまでもなく即座に囚われてしまった。

後ろの席の萩さん(仮称)にやたらと「かわいい」といわれるようになった。そのときは新手のいじめかなにかと勘違いしていたが、後になって気が付いた。あれは私が虐められないようにしてくれていたのである。女子校のいじめに興味があったので、どうだ、一度虐められてやろうじゃないかと不思議ちゃんを演じていたのだが、萩さんはその危険を察知して、かわいいかわいいと崇めることで虐められないように仕向けていたのである。後に萩さんを虐めようという話がたったときに気が付いた。このクラスは平穏なんかじゃない。残虐のすぐそこにあったのである。なお萩さんを虐めようと提案した子は殴り合いの喧嘩なども起こしてその後落ちぶれた。

主に帰国生入試入学者で編成されたそのクラスだけ、高級感のある調度品ばかりで揃えられていた。椅子机は木材をそのまま生かしたような手触りと見た目、カーテンや教室内の掲示物までもが私たちのそれとは違っていた。まだまだ幼い中学一年生、当然のように差別意識が生まれてしまう。学年での交流会があれば帰国生クラスの人員はハブられ遠ざけられ、聞こえよがしに悪口を言われ、された帰国生も黙ってはいられない、お互い目の敵にするような空気になった。外国で荒波に揉まれてきた帰国生ならではの気質も相まって、部活でも委員会でも、仲が悪いとまではいかないが、やはりなにか違う、確かに違うという雰囲気があった。そんな中私の居たクラスが1番、総合的に頭もよくて親しみやすいと持ち上げられるようになった。私自身は何故入れたのか分からない、まぐれでたまたま良い点を取れたのだろうとしか思いようがない生徒であったが、このクラスに所属していることに誇りを持つようになった。

しかし当然ながら2年生では下のクラスに振り分けられてしまったため、それはそれはひどい劣等感、尊大さ、傲りを抱えた。私はこのような掃きだめに居るべき人間ではない、物わかりの良い仲間に囲まれてレベルの高いコミュニケーション、自学自習に励んでいるべきである。とまで考えていた。そんな奴には友達もできない。輪を外れた子と一時的に仲良くする以外には1人でいた。ところがしつこく話しかけてくる人物がいた。私の一人遊びに興味を持ち、それは何を如何しているのかと聞いてくる。朝会えばおはようと言うし、帰り際にすれ違えばまたねと声をかけてくる。余程の物好きである、その程度に捉えていたはずが、気付けば好きになっていた。さすがに自身の恋愛体質さを疑った。次年度も学力ごとにクラスが分かれる、彼女は非常に頭がいい。同じクラスになるために勉強するほかなかった。そうしてモチベーションを維持していくうち、科目によっては彼女より高い点数をとったこともあった。そうなればもちろん学年一位であった。

中学3年も無事同じクラスになれた。科学に特化したクラスである。それぞれの研究分野に分かれて班を組む。その時私は彼女のことが好きで仕方なく、半ば狂っていた。私は好きな人間を攻撃した人間に仕返しをする習性があるので、厳しい教員の中で研究を進めていく彼女を庇わないわけがなく、これは悪い方向にってしまうだろうと思い、全く違う分野に分かれた。そこで組んだ子とは仲良くしていたはずが発表会直後から口を聞いてもらえなくなるという嫌われ様なので、私はどうしたらよかったのかわ

本題はここからなのに。死にたくて仕方ないのでこのへんで終わりにしとく。踏まれるのを待つ空蝉のようだ。声はあったのに、役目も果たせず、ただ恨めしいこの肉塊が粉砕されることを願うばかり。

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