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終わりが見えた者の覚悟

目が覚めたら、4時半だった。23時過ぎに寝たので、5時間以上寝続けていたことになる。目を疑う。こんなに長いこと継続して眠れたことは最近なかった。昨晩の、息を吸うだけでむせてしまう胸がつかえる圧迫感がスーッとなくなっている。昨夜から飲み出した新しい漢方薬(清肺湯)が効いたのか…?二週間近くステロイド吸入をしてもイマイチだったのに。まだまだ続くと覚悟していた苦しみが、思いの外早く消えて肩透かしを食うような気持ちと、解放されたのびのびとした気持ちが混ざる。ゴホゴホしていて行けるかどうか不安だった仕事に行けることにひとまずホッとする。

今回の妊娠中は様々なトラブルに見舞われたが、多くのことは、見通しが見えないことへの不安が大きかったように思う。この状態が一体いつまで続くのか、誰も教えてくれないことに不安が募る。息が吸えるありがたみに感謝しながら、そんなことを思い返す。

臨月になり、ようやく少しだけ意識が高まって、自分に対して小さな気遣いをしてあげている。例えば、水筒にいれるお茶に子どもの分と同じように氷をジャラジャラ入れていたのを、やめてみた。お茶の種類も、私の飲む分はちょっと高いクロモジ茶に変えた。米も、十穀ご飯に変えた。シャワーで済ませていたお風呂を、少しでもお湯をためて足を伸ばして入るようにしてみた。寝るときには靴下を履いて、三陰交を温める。湯船と靴下は、朝のこむら返り防止のためで、それでもつる日もあるのだけど、つらない日も増えてきた。暑くてクーラーと扇風機をかけて寝ていた日々を越えたことも大きいかもしれないが、冷えは妊婦に大敵である。トイレも、迷わず洋式に入っていたのを、敢えて和式を選んでウンチングスタイルで骨盤を開く練習をする。めっちゃつらいけど。

食べ物も、なるべく鉄分やミネラルを摂るように、和食を心がける。マイブームは、先日行った隠岐島で買ったアラメ。太いものは何度か食べたが、どれも甘めに煮てあって正直一度もおいしいと思ったことはなかった。今回、細切りのアラメを見つけて買ってみたところ、非常においしい。ヒジキのように大豆やニンジンと炊いておくと、いくらでも食べられる。質素な和食。独身の時はいつもこんなの食べてたなあと思い出す。結婚してからおかずの売れ行きが気になり、あまり減らないものは食卓の選択肢から減りがちになっていたが、またこういう食事に寄せていっても良いかもしれない。

こういう小さい努力は、すべて自己満足にすぎないのだけど、妊娠中この夏の尋常じゃない暑さも相まって、自分の身体のこと、食事のこと、一ミリも思いやってやれなかった分、最後の1ヶ月くらいできることをやってあげようと思う。

15年ほどまえ、東京マラソンのボランティアをやった時に、私は42.195kmのフルマラソンのうち30km地点の給水所の担当だった。その時のリーダーが言っていたことばが、今でも心に残っている。30km頑張り続けてきた選手に、なんてことばをかけるか私たちに問うた彼は、選手たちにひとりひとりにこんな言葉をかけていた。「あと10kmです!あと10kmで終わってしまいますよ。どうしますか?引き返しますか?あと10kmなので、後悔のないように最後は笑顔で過ごしましょう!」(うろ覚え)。この言葉を聞くと、死にそうな顔をしていた人たちが、みなふっと口元が緩み、何かを決意したような顔になっていた。終わりが見えたら、後悔が残らないように、という気持ちが湧く。今の私は、まさにそんな気持ちだ。

今まで頭ではうすうすわかっていてもできなかったことを、あと1ヶ月の妊娠期間ぐらい全力でやりたい。必死にサバイブするしかできず後悔だらけの9ヶ月を、最後の1ヶ月でリカバーする。今できることをやるのだ。(36w2d)