ナカヤマ サオリ

鳥取在住/助産師/執筆業/東京生まれ東京育ち/ことばと民藝がすき/ 雛形〈私の、ケツダン〉執筆。鳥取県・大山町、伯耆町、境港市、日野町 https://www.hinagata-mag.com/comehere/26951

もたれもたられ

立場が変わることで、相手の気持ちが、突然わかることがある。

たとえば、自分に生意気な後輩ができた時に初めて、かつての自分のプリセプターの気持ちが少しだけわかる気がした。修復不可能なほどこじれたプリセプターとの関係性。なぜあんな風になったのか、断片的に思い出してもうまくつながらなかったのが、ああ先輩はもしかしたらこういう気持ちだったのかな、とある日ふと思った。必死だったのもあるが、「かわいげ」がな

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いく筋も水脈が流れるように

地域に出ると、人と出会える。クリニックを退院して地域に戻ったお母さんたちの、知らなかった姿とたくさん会える。

それは3年前にママたちのサロンを定期的に開いていたときに感じた。クリニックで待っているだけだと、いくら「何かあったらいつでも連絡くださいね」と言ったとしても、ふらりと訪れるのは難しいことも知った。

でも、あの頃の私は一人でジタバタしていたように思う。需要は感じるけれど、「ためになる」が

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涎に宿る民藝

「なんだ、この人は……!」
話している内容よりも、口角に溜まった白い涎に目を奪われてそこから目が離せなくなった。それを拭くそぶりなどついぞ見せず、前のめりで懸命にひとことひとこと、思いをことばに乗せて外に吐き出している。言葉に魂が宿るとは、こういうことかと思った。

思い出したように、くしゃくしゃになった縦書きの原稿用紙に一瞬目を落としては、すぐに前を向き、話す。あんちょこなんて、形だけでちっとも

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路地裏感

「劇団どくんご」の「誓いはスカーレット」という舞台を見てきた。鹿児島を本拠地に、自分たちで通称“犬小屋”というテント劇場を立て、サーカスのように全国を巡回している旅するテント劇団だ。友人に薦められて何の気なしに見に行ったのだが、これがとてもよかった。何がよかったかというと、圧倒的な路地裏感だ。

「どくんご」という濁音がふたつも入った名前通り、毒々しい色の衣装に身を包んだ人たちが自分たちでもぎりを

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皿が割れた時のこころのうち

皿が割れた音を耳にすると、心がざわざわする。単純にガシャンッという強い音にびっくりするのと、何かが壊れたことに対するえも言われぬ不吉な気持ちと、同時に「割れたのはどの皿だろう?私の皿?」という利己的な気持ちが混在する。割れた皿を確認して、「ああ、これならまだよかった」と安堵したり、「これかああ」とショックを受けたりする。同時に、頭の中で瞬時に、「その皿ならあそこに行けばまたあのくらいの値段で手に入

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強迫観念よサヨウナラ

時間があることは自由でワクワクするはずなのに、罪悪感を覚えるのはなぜだろう。

そこまで責任がなく、定時ですっきり帰れることは喜ばしいはずなのに、なにに対するうしろめたさなのだろうか。

大変な仕事、やりがいのある仕事、それをしていると周りが「すごいね」って言ってくれる仕事。そういうものをしていると、私は大丈夫だという安心感がある。少なくとも、このレールに乗っていれば大丈夫。そういう保険がかかって

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