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路地裏感

劇団どくんご」の「誓いはスカーレット」という舞台を見てきた。鹿児島を本拠地に、自分たちで通称“犬小屋”というテント劇場を立て、サーカスのように全国を巡回している旅するテント劇団だ。友人に薦められて何の気なしに見に行ったのだが、これがとてもよかった。何がよかったかというと、圧倒的な路地裏感だ。

「どくんご」という濁音がふたつも入った名前通り、毒々しい色の衣装に身を包んだ人たちが自分たちでもぎりをしている。あやしい。この時点で、サブカル臭というか、表通りではない匂いがぷんぷんする。嫌いじゃないぞ。そう思いながら、正直そこまで期待もせず、高みの見物をしていた。

オープニングでの「よくつながりがわからないとか言う人がいるけど、意味とかないから!」という発言に対して、「それは、意味を持たせることを放棄しているのではないか?」と思ってもやっとしたが、途中から「ああ、こういうことか」と合点がいった。頭で考えるのではなくて、感じろ、というやつだ。

私はことばが好きなので、ついことばにひっぱられてしまうが、段々ことばを音として捉える方が心地良いことに気づいた。そっちの世界に入りさえすれば、大道芸のような大衆的音楽やエレクトロニックで刺すような音楽に、ディスコのような奇抜な照明に、ただただ酔っている自分がいた。

忘れられないのが、舞台の途中で、背景だったテントの一面が取り除かれて、一気に開けるシーンだ。今までテントの中で小さく繰り広げられていた世界観が外の現実世界と急につながる。

米子公演は、湊山公園という鳥取大学医学部附属病院のふもとにある公園でやっていたのだが、私的にはこの立地でどくんごを見られたことが最高にぐっときた。鳥大といえば、仕事柄、普段は研修など勉強をしに行く真面目な場所。背筋を伸ばして、緊張して向かうはずの場所なのに、その鳥大のすぐ横で、超真逆なサブカル的な世界観が繰り広げられている。「いいの?こんなことしちゃっていいの?」というみんなで一緒に悪いことをしている感じが、たまらなくぞくぞくした。
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こういう感覚を、私は「路地裏感」と呼んでいる。
表通りを歩いていると気づけないけど、ちょっと一本裏道を入ったところ、カーテン一枚はぐったところに、オモシロイことやワンダーはいっぱい転がっている。目的地を目指して、無駄なく効率よく動くだけでは気づけないものが絶対あると思う。鳥大で仕事を終えた助産師さんが、もしチラッとこの湊山公園でどぎつい衣装を着て謎のダンスを踊っている人を見たら、どう思うだろう。まず、気づかない人の方が多いと思うのだが、「なんかおもしろそうなことやってる!」って思って覗きに来てほしいな、と思った。ここでこんなおもろいことやってるよ!おいでよ!と心の中で呼びかけていたら、なんだかちょっと涙が出そうになった。

のちに、今回のどくんご米子公演の立役者のお一人、米子にあるライブハウス・ワンメイクのピコさんが、「絶対にこの湊山公園でやりたいと思って、米子市役所に通った」と言っておられて、そこにもぐっときた。大正解ですよピコさん!!という気持ちだ。こういうかっこいい大人に沢山会えて、なんだかものすごくパワーをもらった。数日経ってもじわじわと味わいが深まってくる、とても不思議な演劇体験。是非また見に行きたい。

劇団どくんご
http://www.dokungo.com