幸福

夫とはたぶん仲が良いのだけれど、もちろん時には喧嘩をすることもある。

かつては喧嘩して家を飛び出して、カプセルホテルで一夜を明かしたこともある。

子どもが産まれてから喧嘩はほとんどしなくなったのだけど、

新型コロナウイルスの、無症状でも感染してるかもしれないという特徴は、人と人を分断させるのに充分な効力を持っていて、私たちも見事やられた。

仕事で外に出る夫のコロナへの警戒は割かし緩く、

家に引きこもり赤子と暮らす私のコロナへの警戒は割かし強く、

コロナへの相反する価値観で口論になり、

夕飯の後に私は頭を冷やしたいと家を出た。

家を出たけれど、子どものミルクやお風呂があるので、30分で戻らなくていけない。

もうカプセルホテルで一夜を明かすことなんてできないし、ふらりと一人、夜の海まで行ってみることもできない。

さてどうしよう。ちょっとしたカフェなどない街だし、外にいるのは寒いので、とりあえず近所のコンビニに入ることにした。

とりあえずほっとレモンを買ってみた。

イートインコーナーで、ほっとレモンを飲みながら、なぜか幸せの「幸」が、両手にはめる刑罰の道具である手枷の形をしていることを思い出し、

どこにも行けなくなった自分が今、幸福であることに気づいた。

もう電車に乗って夜の海まで行かなくていいのだ。






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