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「ただの一日」

手首を切ろうとしたら
もうそんな場所どこにもなかった
昨晩切った数箇所で
もう左腕は 埋まってしまった
幾筋幾筋走る線は
もう腕を埋め尽くしていた
どうしよう どうしよう
心臓がどくどく鳴って
どうしよう どうしよう
私を追い詰める 押し潰そうと襲いかかる
どうしよう どうしよう
どうしよう どうしよう
心臓がどくどく鳴って
どんどん苦しくなってゆく
その傍で 猫が泣く
開けっ放しの窓から吹き込んだ風に
乗って 飛んでゆく
にゃあー んにゃあー
場所がない 場所がない どこにもどこにも
場所がない
お家に帰ろう でもその家がない
んにゃあー と一声、それさえも
風に乗って飛んでった
私の 私の 場所がない
私が眠れる場所が ない

―――散文詩集「傾いた月~崩れゆく境界線」より

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