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「冬の旋律」

水面一面 枯葉に埋もれ
凍りかけたプールの縁づたい

裸足の両足を爪先立たせて立つ
あの子が見えるよ

飛び込めば水鏡の向こう
底を知らない冬が横たわる

  一瞬の水飛沫に
  戦慄いて飛び立つ鳥が、今

やがて水底まで凍りつくその前に
冬を見たかったの?

夥しい枯葉たちはちりぢりに砕け
波紋とともに泳いでゆくよ

鎮まりかえる季節に
秒針だけが その痕を刻む

  今さら空を振り仰いでみても もはや
  弾かれるように飛び立った鳥の影さえ見えず

 誰れの耳にも届かなかった
 鳥一羽の羽ばたきよりも儚く消えた
 音の 譜面は白紙のまま
 今、
 水面を滑るように
 沈みゆく光の糸が
 のびてゆくよ、まっすぐに

やがて水底まで凍りつくその前に
冬を見たかったの?

  一瞬の水飛沫に
  戦慄いて飛び立つ鳥が、今

―――詩集「対岸」より


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