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20200827

夕方
事務椅子の硬い背もたれに頭を預けて、ずり落ちそうになりながら寝ている人を見ていた。

まいにち朝から働いて、疲れているんだろうな、首は痛くならないのかな、などと作業する手を止めてぼんやり考えている間に、そのひとはうっすら目を開けて宙を見ていた。

「.....なにか夢を見ていました」
「なんの夢ですか?」
「覚えてません、忘れました」
「夢は、目覚めた瞬間に誰かに話さないとダメなんですよ」

そう言って笑ったけれど、そのひとはまだじっと動かないので、私はだれかの夢を缶詰めにしてあげれたらいいのになと思った。

だらんと力無く垂れるその腕をみながら、そういう職業があったらいいのになと思った。


だれかが寝ている時の夢は風船みたいだ。

頭の先から糸が伸びて、周りにふわふわ浮かんでいる。風船の色で見ている人の感情が分かるようなしくみで、悪夢だったらつついて割ってあげればいい。良い夢だったら色の変化を楽しみながら、目覚めるまでそっとしてあげる。

見ている夢の数だけ風船はつながっているけれど、目覚めた瞬間にすべての糸は切れてしまう。同時に口も緩むから、中身の夢は撒き散らされて、萎んだ風船はひゅるるるる、と飛んで消える。

目覚めた人が皆ぼんやり宙を見つめているのは、風船から零れてしまった夢の匂いに囚われているからだと思った。

眠っているひとを見つめながら、どうしたらこのひとの頭のなかの一部に触れられるかを考えたことがあるのは、私だけではないだろう。

糸が切れた瞬間に、風船の口をぱっと握って離さないようにして中身を缶に詰めてしまう。
そうしたら、ひとはもう悪夢に怯えることもないし、良い夢の続きを見損ねて、残念がることもない。もちろん夢の内容を思い出そうとしてぼんやり天井を見つめることも。

大丈夫。
すべて缶の中にとってあるのだから。

悪い夢だったら捨ててしまって、良い夢だったらこっそりとっておこう。

アイスクリームにでも加工して、いつかいっしょに食べられたらいいな。


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