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コロナウイルスへの見解と今後の出演条件について (※2020年12月時点、2021年追記あり)

今年3月の半ばにContactでDJをして、Resident Adviserで新型コロナウイルスに対する見解を出してから約9ヶ月間の間、室内での出演を見合わせてきましたが、今年の大晦日からいくつかの条件付きで活動を復帰することにしました。再びコロナの感染者数が増えている中、迷いもありましたが、改めて自分の考えと姿勢を記したいと思います。

私自身は、皆と同じようにコロナの収束を願いながら活動を自粛してきました。半年経てば、1年経てば、収束するかもしれない、と今年の半ば頃まではどこか希望を捨てきれないでいました。

ですがわかってきているのは、今後コロナが完全に収束することはないということ。感染者が増えたり減ったりしながら、ワクチンの開発や何らかの進捗を待ち、できるだけリスクの少ない生活を心がけるしかありません。そういった状況でアーティストや音楽関係者に残された選択肢はいくつかあります。コロナに、音楽に、パーティーに、どう向き合っていくのか。

このまま私は一生プレイしないのか?それとも暖かい時期の野外パーティーのみに出演を限定した季節労働者になるのか?今まで何年もかけて関係を築いてきたローカルのクラブやプロモーターとサポートし合うことはもうできないのか?DJとして廃業し、クラブやバーが廃れていくのを眺めながら、大好きなパーティーシーンの一部となることなく、いつになるかわからない収束をただ待つことしかできないのか?音楽を通して社会と向き合っていくヴィジョンも諦めてしまうのか?

いいや、私にはまだやりたいことがある、まだできることがあるはず。

コロナによって、海外ツアーに行ったり、毎週末プレイしてギリギリ生計が成り立つような生活は無くなりました。音楽だけでお金を稼いで生きていくことがほぼ不可能になって、仕事やプライベートと向き合いながら、自分はなんのために音楽活動を続けていくのかずっと考え続けていました。
ビジネス的な成功への挑戦よりも大切なものがあるのは最初から変わりないけれど、音楽と、音楽を続けていく意味を諦めるわけにはいかない。この一年間で、より一層、原点に戻って自分のヴィジョンを見つめ直す機会を得たと思っています。

それを踏まえて、以下を2021年以降当面の間、今後のイベントの出演条件とします。

1. 室内イベントの場合、会場側と感染対策で合意が取れた場合のみオファーを受けます。

入場者数制限、マスク販売、消毒、手洗い、感染対策のスタッフと来場者への周知など、すでに行なっている場合でも改めて確認と合意を取らせていただきます。来場者全員にマスクの着用を強要することはできませんが、次第に気が緩みがちな中、できるだけのことは続けたいです。来場者の中には、すでにコロナにかかって抗体があるからと安心して遊べる人もいるかもしれませんが、人それぞれ立場は異なります。引き続き、体調の悪い方、高齢者や医療従事者と接触がある方々には来場を控えていただき、怪しい場合は自主的に2週間様子を見るなど責任のある行動を心がけてほしいです。大晦日のイベントに関しては、会場であるContactのマネージャーと感染対策について打ち合わせをし、キャパシティの半分以下の入場制限と感染対策を再度徹底してもらうことで合意しました。

2. 当面の間、出演イベントの間は2週間以上空けさせてもらいます。必然的に室内イベントには最大でも月に1度のみの出演となります。

室内クラブイベントの感染リスクが高いことに変わりはないため、気づかない間に出演者である自分が感染源とならないために最善を尽くします。パーティー後2週間以内に体調が悪くなりコロナが陽性となった場合、なるべくイベントのキャンセルが少なくなるようにしたいというのもあります。ワクチンが開発されて一般に普及してきたり、自分含む多くの人がコロナにかかって抗体を得るなど、状況に変化があるまで1年以上かかるかもしれませんが、2021年は様子を見ながら活動を続けていければと思っています。


ーもう一つ。コロナと直接関係はありませんが2021年から徹底したい条件があります。

3. 今後、オールメール(男性のみ)のラインナップのイベントには出演しません。(※条件付き)

2人会などを除いて、出演者が4組以上のパーティーでは自分以外にも女性、ノンバイナリーの出演者がいることを条件とします。もし、最大限の努力をしてもブッキングできない場合は、まず相談してください。良いアーティストを探す努力や提案を一緒にします。多くの男性以外の候補がいてもどうしてもブッキングできなかった場合、ジェンダーバランス以外の社会問題(環境問題、人種問題、貧困問題など)への顕著な取り組みが見られる場合には出演を前向きに検討します。例えばLGBTQ+や人種的マイノリティへのサポート、売り上げの一部の寄付やエコの徹底などが条件に代わる可能性はあります。端的にいうと、音楽だけのために活動するのはもうやめます。社会への何かしらの意識や取り組みなしには自分の望む音楽活動はできないからです。

最近、通常のクラブイベントを開催するのも難しくなっている中、再びジェンダーバランスへの取り組みが後回しになっているような印象を受けていました。男性のみのランナップ。10組近く出演者がいる中、女性は一人だけ。そういったパーティーが今年も平気で開催されています。2020年の、先進国の、国際都市の、最先端のクラブで。女性が一人だけ入っているラインナップは最近とても多いですが、女性はラウンジやオープニングに一人でも入っていればセーフ、という体裁が透けて見えるようではまだまだだと思っています。来場者も、何年もの間そういうパーティーばかり当たり前のように見てきたのなら、才能のある女性は沢山いないから仕方がないのだな、オーセンティックなクラブミュージックはやはり熟練した男性にしかできないのだろう、と思ってしまうでしょう。(朗報もあります!こういったオールメールのラインナップは次第にベテランで年齢層の高いパーティー中心になっており、感度の高い20代〜の若い子たちで満員のイベントにはほとんど見られません。コロナや近年の意識変容で世代交代が急速に進んでいるとしたら、新世代と旧世代でお互いの良い部分を伝え合っていきたいものです。)

実際、女性DJのブッキングが難しい側面もあると思います。ただでさえ表に出ている数少ない女性DJの中には、日本で十分評価されず海外へと活動拠点を移したり、出産や育児などのライフイベントですぐ思い通りに活動できない人もいて、呼ばれればいつでもDJできます!という人は少ないです。女性が成長し熟練していく機会の難しさ、そういう背景に目を向けながらも、過去数年でせっかく少しずつ前進してきたのに、コロナで余裕がないからと再び後退していいわけがないと思っています。今女性の数が少ないのは自分たちのせいではなく過去に問題に取り組んでこなかったせいかもしれませんが、今の私たちの行動は10年後20年後の結果に直接繋がっています。10年後にも活躍できる女性がいないならばそれは女性に才能がないせいではなく、行動を改めてこなかった私たちのせいです。

私自身も、次第に実力や立場が認められてきたとはいえ、何の犠牲も取り組みもなしに「女性だから」というだけで問題に貢献しているというのは間違いです。何もしなければ私も名誉男性、名誉白人である、そういう恵まれた立場になってきたからです。もし2~3年以上前にこのような条件を提示していたら、私はおそらくギグの半分近くを失うことになっていたでしょう。今私がこのような条件を掲げることができるのも、今までに努力してきた人々がいて、少しずつ時代が変化しているおかげだと思っています。

今後もジェンダー、マイノリティやその他の社会問題への取り組みを掲げるイベントには積極的に参加していくつもりです。

まだまだ苦しい状況に変わりはありませんが、音楽と、踊ることの喜びも忘れないように。

今後もよろしくお願いいたします。

2020年12月11日 Sapphire Slows


※追記 (2021年8月)

ここで記した条件はあくまでも2020年12月時点の私の意思表示であり、世の中の変化に応じて出演条件は柔軟にアップデートしていくつもりです。

現状、特に東京都内でのリスクが高い状態での室内イベントに出演するのは適切ではないと考えていますが、数ヶ月前から引き受けていたオファーに関しては相談の上で開催可否はプロモーターと自治体の意向に従っています。開催の場合は検温消毒のほか、ワクチン接種、事前の抗原検査やマスク着用を呼びかけ、プレイには妥協しません。

2021年に入り、多様性や環境問題に対する人々の意識や企業の働きに関しても、良くも悪くも飽和状態となり、分断はより深まっていると感じています。具体的な取り組みや指針を示すことは重要ですが、私にとって一番重要なのは表面的な条件よりも常に心を通わせる姿勢と音楽への思いです。誰もが嫌な思いややるせない思いをすることなく最上の音楽を共有できるようになりますように。


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