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大好きな二人



見て、FBIが潜入してるよ。
君の声がしたので視界を現実にスライドさせる。
公園のベンチに座ってるという設定に戻った僕の目に、黄色い文字でFBIとプリントされた紺色のトレーナーが目に映る。ほんとだ、と思い目で追ってると、身長100センチ程のFBIは砂場に駆け寄り穴を掘り出した。

「ね、潜入してるでしょ」
物凄い嬉しそうに僕を見る君。
冷たい風に木の葉が揺れる広い公園。
任務を遂行するFBI。
現実って、思ってるよりだいぶこっちに来ない。

「FBIって、潜入捜査するんだっけ」
僕の声に反応したのか、目の前を横切る女性と目が合う。

「どちらかっていうとCIAじゃないかな、潜入は。分かんない違うのかな」
多分僕は今、余計なことを話してる。
口を曲げて僕をまっすぐ睨んでいる君の顔を見なくても、分かる。
でも分かることと出来ることは、違うんだな。
「いやFBIは潜入捜査もするのかな。だけどさすがにあんな主張の強いトレーナー来て潜入はしないと思うよ」
さっきベンチを横切った女性は砂場へ歩み寄り、穴を掘り続けるFBIの頭に優しく手を添えた。まんざらでもないFBI。

「そんなこと分かってる」
君のイライラしてる声がする。
「ふざけてるに決まってんじゃん。会話じゃん。ノってよ。分かってるに決まってるでしょ、あんな小さな男の子が本当にFBIだって、思うわけないでしょ?」
そこなんだよなあと、君の指摘に共感しながらも僕の頭は思うことを思う。
でも潜入捜査の時にあのトレーナーは着ないよなあと、思いは思いとして、平和に湧き上がる。

「潜入してるよ、じゃなくて、調査してるよとかだったら、スムーズに入れたんだけど」
僕の意見に君の頬が固く、赤くなる。
「潜入も調査もそんな変わんないでしょ⁈調査は調査であんなロゴマーク背負って堂々としないじゃん?調査によるだろうけどさあ」
ほんとだよなあと感心する。
君は僕の話を、僕が思うより真っさらな状態で聞いてくれてるんだろうな。

僕の冷えた手を、君の手に乗せる。
君がつめたっと言ってまた僕を睨む。
「そんなに毎回本気で睨んでたら体力使うでしょ」
言いながら思わず笑ってしまった。
ほんとに可愛いくて。
君は怒りで目を釣り上げたかと思うと「なに言ってんの」とゲラゲラ笑い出して、僕もまた笑う。同じことで笑えるのは貴重で嬉しい。

二人重なってる手がきつく絡んで風を塞ぐ。
僕と君はたぶんどっちも、捉えた現象に対して常にひたむきで、休む事なく一途なんだと思う。

「見て、FBIがバイキンマンを連行してる」
砂場に居たFBIがバイキンマンのトレーナーを着た男の子の手を引き、母親の元へ駆け寄っているのを見つけ急いで君に知らせる。
「兄弟なんでしょ」
君は案外そっけなく答え
「なかなか矛盾をはらんだ子育てをしてるんだね」
と赤くなった鼻先で感心しながら呟いた。

青空を動かす噴水のてっぺん。
正義も悪も全て私の分身だと言わんばかりに、駆け寄るFBIとバイキンマンを笑顔で迎え抱き寄せる母親。
いくら重ねても冷たいままの二人の指先。

「現実って、思ってるより相当おおらかに出来てる気がする」
僕が今思ったことそのまま言って
「そもそもそっちが構えすぎなの」
って君が現実側を代弁して僕を指差して、
その指を僕がそっとつかんで食べる真似して君が笑ってそれはもう、噛み付きたくなるほど噛み合ってない、お互いをどうしても大好な二人。




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