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僕はリーバイスの馬



君が履いてるジーンズのラベルに嵌められた、
僕は馬。

ヴィンテージとか復刻版とかよく分からないし興味ないけど、君がやっと手に入れたとはしゃいでたから、良かったねと爽やかに言って、気付かれないようするりと、僕は君のお気に入りのジーンズに貼り付く馬になった。

君が歩けばタズナを引かれて僕も歩き
君が腰掛ければ僕も従順に立ち止まる。

君がジーンズを脱いだら僕に嵌められたタズナも脱げて赤いタグを掲げる硬いポケットに入り込み、君が戻るのをひたすら待つ馬。

それで楽しいのかと聞かたら
楽しくないに決まってるけど、
楽しいとか悲しいという次元を捨てて君の動きに呑まれ、自分の意思やこだわりがどうでも良くなる気持ち良さに溺れたい。



ある日君が僕の知らない男と街で出会い手を繋ぎ、そのまま家に連れ込んで、知らない男は勝手知ったるように君のジーンズ(僕の小屋)をあっさり脱がし二人一緒にベッドに倒れ込むのを、冷たい床で見ていた夜、とんでもない達成感が僕の立て髪を走り抜けた。

僕と君との、
それは二人で行う初めての共犯に思えた。

僕をジーンズで飼ってる事を知らない君と、冷たいフローリングに置き去りにされてる僕とで、ベッドの上を我が物顔で占領する男を陥れ、深い穴に閉じ込める。そんな計画。

知らない男とベッドで抱き合う君を見守ってると、初めて君が僕の存在を抱きしめてくれた気になった。

その日から君と僕と知らない男との、二人と一匹の生活が始まった。

男が狭いベッドの上で君とくっ付いてお喋りしてる時、僕は君から、男には内緒で立て髪をなでなでしてもらっている気になれる。
男の発言に君が弾けるように笑う度、君がやっと僕の忠誠心に振り向いてくれたのだと実感する。

僕と君が深い穴に落とした男を一緒に覗く時、男を覗きながらその奥に隠された君の羞恥心を一緒に覗き、確認し、暴いている。
暴いて、傷付いて、その痛みを大切にジーンズの中にしまい込む。

そうやって取り返しのつかないダメージが蓄積されたジーンズを、君は生涯クタクタになるまで履き潰し、僕はその価値を黙ってひっそり管理する。

それはむなしくないかと聞かれたら
むなしいに決まってるけど、
むなしい場所に居座れるこの特権は
誰にも、君にさえ、明け渡さない。



君が履いてるジーンズのラベルに嵌められた、
僕は馬。

僕に掛けられたタズナは君の愚かさが握っていて、そのかけがえのない愚かさで僕の生涯が仕上がっていく。

そんな生涯で満足なのかと聞かれたら
こんなにも誇り高くスケールの大きい生涯なんて他にないと、ジーンズのポケットに付いた小さな赤タグを、君の背後でひっそり掲げる。




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