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ベッキョン「Get You Alone」考察(作詞・いしわたり淳治)

0.はじめに

ベッキョン「Get You Alone」の歌詞を考察します。
作詞はいしわたり淳治氏。いしわたり氏はベッキョン(アイドルグループEXOのメンバー)をはじめ、BoAや少女時代などKPOPアイドルのほか、石川さゆりやSMAP、Little Glee Monsterなどの歌詞も手がけています。

この方の歌詞で描かれる男性は粘着質で独占欲が強く、駆け引きが好きで、女性に試されることが好きな人のようです。「とまどいのないときめきはないこと 気付いているだろう?」がこの方の持論です。
何度もこのテーマで作詞されているのがとても面白いと思ったので、自分の説を裏付けるためにこの考察を書きました。

私にとってこの曲の魅力は、ベッキョンという完璧アイドルが矛盾や不安定さを抱えた「僕」を歌っていることだと考えています。
大きく3フレーズを取り上げて、「僕」への考察を深めます。

まだベッキョンの素晴らしい楽曲を聴いていない方は下からどうぞ!


1.「素直でいたいだけ」だが「悪い」ことを自覚している

悪い男だろう? というフレーズ、本当にすごい。いしわたり淳治氏すごくないですか? ここへ繋がるまでの歌詞は、「欲張りじゃない」「素直でいたいだけ」です。

まず「僕」は、自分は「欲張りじゃない」と言います。「欲張り」という言葉には、どちらかといえばネガティブな印象があります。「僕」はそのネガティブな側面を否定し「素直」なのだと歌います。
「素直」は、ポジティブな印象の強い言葉だと言っていいでしょう。ネガティブではなくポジティブに、ある意味「君」に対して開き直っているとも言えるフレーズです。

しかしその直後に続くのは「悪い男だろう?」。
単に開き直った態度の続きとは言い切れません。
「僕」は自分の「素直」さが、「君」にとって悪いものだと自覚しているのです。自分の態度や言動、人間関係への自分の考え方を、ネガティブ→ポジティブ→ネガティブな言い方で表わし、「君」に問いかけます。

この言葉選びから、自分の態度は正当なものだと考えているけれども、「君」がどう思うのか? 「君」にとってよくない態度だもわかっていて、それでも「君」は僕だけのものでいてくれるのか? という「僕」の不安定さを感じました。
「僕」は、強い言葉で「君」を魅了しながら、不安なのです。

2.「このわがままに名前をつけて」ほしいのはなぜか

「このわがまま」というのは「僕」の素直さや悪さのことを指しています。
では、それに名前をつける行為は何を意味するのか。

名前をつけなければいけない対象というのは、その時点で名前をもっていません。名前をもっていないことは、人にどんな感情を起こさせるのでしょうか。

名前をもたないということは、定義されないということです。定義されないということは、二人(あるいは複数人)の間で言語による実体、イメージの共有ができないということです。
平安時代、現代でいう風邪は、実体がわからず物の怪や祟りのせいだと考えられていました。実体がわからないということは、人に恐怖を与えるのです。

「僕」は、自分の素直でわがままな態度は「ひとつの愛の型にはハマれない」と言います。ということは、今存在する言葉では、自分の感情や、「君」に対する本当のところ、「君」との関係性などを形容できないのです。
それが形容できない状態を不安に思っているからこそ、「名前をつけて」と何度も歌います。「愛じゃなくても」いいから、「君」に名付けられることを求めています。

「悪い男だろう?」だなんて言っている人がそれ求める。この不安定さ、繊細さを表現するいしわたり淳治氏、そしてベッキョン、天才としか言いようがありません。

3.「そんな目で」見られることに居心地の悪さを感じている

「そんな目でじっと見つめないで」、とここでも「僕」は懇願をします。僕だけの君でいてほしいし、名前をつけてほしいし、そんな目で見つめないでほしいんですよね。とんだわがままボーイです! いしわたり淳治氏、どんな恋愛を経てご結婚されたのか。

どうしてそんな目で見つめられたくないのか。それはやはり、どれだけ開き直って自分はこういう人間だからと言っても、「君」にどう思われるかが気になっているからだと思います。
「君」から自分への視線に居心地の悪さを感じているのです。
そんな目で見られると、自分が「悪い」ことをしていることに再度気付かされるから居心地が悪い。

「僕」は「君」との向き合い方に対し、飄々とした態度を示し、ポリアモリー的な考え方まで提示しますが、それでも「君」にそんな目で見られるのはつらいのだと思います。どんなに強がろうと、「君」が特別だからこそ自分のポリシーすら揺らいでしまうことに不安を覚えるのではないでしょうか。
「君だけのものになれない」のに「Get You Alone」なんだよなあ……。なんてこった。

総括すると、この歌は「僕」の不安定さ、繊細さ、身勝手さ、そして「君」への隠せない感情をとても美しい形で歌っていると思います。
「君」は「僕」の口からしか語られません。ですが「僕」が口を開けば開くほど、彼が「君」を特別視していることが明らかになっていく、そんな構造になっていると考えました。

4.おわりに

いしわたり淳治氏の日本語作詞は突拍子もない歌もあるし癖も強いですがどれも素晴らしいです!
「Get You Alone」と「Ringa Ringa Ringa」で顕著だなあと思うのですが、音への言葉の乗せ方もかなり自由で不思議です。「この自由 は不自由?」も面白いですよね。「この自由は 不自由?」じゃないんです。後者のほうが自然だと思いますが、その不安定さ、聞き慣れない感じも魅力になっている気がします。

今後も、いしわたり淳治氏の作詞について考えたいなと思います。インタビューしてみたいな〜。何を考えているのか確認してみたい。

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