今年の国際比較教育学の大賞論文はここが凄い!

こんにちは理事の畠山です。世界にはいくつも国際比較教育学に関する学会があるのですが、最も規模が大きいものはComparative and International Education Society(CIES)だと思います。そして、CIESが出版している学術誌、Comparative Education Review(CER)は、この業界を代表する学術誌と言って差し支えないと思います。

そして、CERから出版された学術論文の中で、その年に最も優れていたものに対してGeorge F. Bereday Awardが与えられるのですが、今年の受賞論文は何度読んでもこれは凄いなと感動したので、折角なのでこの記事でどこが凄いのかをご紹介したいと思います(賞の選考委員の一人が私の指導教官なので、この論文は選ばれるよなというのも分かりますが)。

忘れないうちに紹介しておくと、今年の受賞論文は、Dowd, A. J., & Bartlett, L. (2019). The Need for Speed: Interrogating the Dominance of Oral Reading Fluency in International Reading Efforts. Comparative Education Review, 63(2), 189-212. です。

そして、そもそも国際比較教育学とは何ぞやというのは、かつてCIESの会長を務めたマーク・ブレイ教授とマーティン・カーノイ教授の会長就任演説のペーパーを引きながら、「国際比較教育学は終わった学問か?―日本は外国の教育から学ぶ必要などないのか?」、という記事の中で解説してみたので、もし良ければ参照してみて下さい。また、あまり読者層として想定はしていないのですが、国際比較教育学に興味はあるけどフォーカスが途上国でもないし、質的・量的データを分析するのではなく理論的な話に興味があるという方は、ご自身の興味関心に合っているCIES会長の就任演説を追ってみると、自分の専門とする領域において国際比較教育学とは何ぞやという変遷と現在地が見えてくると思います。

それでは、前置きはこの辺りにしておいて、今年の受賞論文のここが凄いを紹介していきたいと思います。

1. 受賞論文の筆者の経歴が凄い

私も日本を離れてから干支が一周以上回ってしまったので、日本の事がよく分からなくなりつつあるのですが、日本で学術論文を書く人は誰かと言うと、恐らく大学の先生・研究機関(国立教育政策研究所やJICA研究所、アジア開発研究所など)のスタッフが大半で、極僅かにシンクタンクの職員・コンサルタントがいるという状況ではないかなと、『比較教育学』の著者一覧を眺めてググってみて思いました。今年の受賞論文の著者の一人であるレスレイ・バートレット教授もコロンビア大学からウィスコンシン大学・マディソン校という一流大学を渡り歩いた一流の文化人類学の大学の先生です。ただ、もう一人の著者であるAmy Jo Dowd博士は、ちょっと日本では考えられないような物凄い経歴の持ち主です。Dowd博士は、国際教育協力をしていて知らないのであればモグりだ(Psacharopoulosを読めないのもモグり認定基準としてあるようですが)と言えるほどの著名人ですが、Dowd博士は現在、

(3月8日は国際女性デーでした。新型コロナで失われた学びをネパールの女の子たちが取り戻し、まずは教育におけるジェンダー平等が実現するように支援をしていきたいと思います。4月12日までネパールの女の子たちに新型コロナで失われた学びを取り戻す機会をキャンペーンを実施中ですので、残り少ない期間となりましたが、みなさまのご協力をどうぞよろしくお願いします!

ここから先は

5,089字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?