国際教育協力に関する学術誌の話

こんにちは、理事の畠山です。先日Twitterを見ていたら非常に興味深いトピックが一部で話題となっていました(この書き出しだけ書いてしばらく放置していたので、大分前の話になってしまいましたが・・・)。それは行動経済学という学術誌に掲載された、バナジーとデュフロの「絶望を希望に変える経済学:社会の重大問題をどう解決するか」という本の書評に端を発していました。

この書評を読むと、バナジーとデュフロがトップジャーナルに掲載された論文しか読まないと言っていたようで、経済学における5大誌偏重やトップジャーナルの編集者の在り方などについていろいろ議論がされていて、面白く眺めていました。ぜひこれは一人でも多くの人に読んで欲しいなと思います。

これを読んでいてふと気が付いたのですが、というよりは常々思っていたのですが、国際教育協力で修士号を取得しに留学した人のほぼ全員が、経済学における5大誌・フィールドトップジャーナル・その他、のような学術誌間の関係が国際教育協力にも微妙にある事を全く理解しないまま帰国しています。うちの元インターン達も、一年修士は日本の大学4年目みたいなものだと愚痴りながら帰国してくるのでさもありなんという状況ではあるのですが、それで大学院卒を名乗っているのも可哀想、というよりは情けないです(学生側がではなく、その程度のカリキュラムしか組まずに超高額の授業料を取っている大学院側です。特に、日本で経済学部で修士号を取得した人が経済学のジャーナル間の関係を知らないなんてことがまず無いであろうことを考えると、国際教育協力系の大学院は研究に関して本当に何も教えられていない事を痛感させられます)。

そこで今回は、国際教育政策的なスタンスから、国際教育協力における学術誌間の微妙な関係を簡潔に書いていこうと思います。ざっくり言うと、

①比較国際教育学会(CIES)やUKFIETという英米の国際教育協力に関連する学会でもエディターセッションが組まれる主要誌

②国際教育協力の中でもよりニッチなトピックを扱った学術誌

③国際教育協力に関する研究が掲載されることもある国際開発系の学術誌

④国際教育協力に関する研究が掲載されることもある経済系の学術誌

の4つに大別できます。この中で、やはり中心となるのは①です。なぜなら、②に掲載される論文は、国際教育協力の中でもニッチな層にしか届かないので広く読んでもらえない可能性が高いからです。③と④も同様で、これらの学術雑誌は主に計量分析系の論文を掲載しているのですが、国際教育協力をやっている人はどちらかというと計量分析をやっていない人のほうが多く、その層には届きづらいからです(とは言え、同じ事は①に掲載された論文にも当てはまり、色々と工夫は必要になります)。

ただ、微妙な関係という記述を敢えて用いたように、経済学に存在しているようなジャーナル間の明確な序列というものは経済学ほどは強くありません。どちらかと言えば、誰に読ませたいか?が国際教育協力では主に来て、次に手法やトピックが来る感じです。例えば、今共著でR&Rに行っている教育の民営化に関するペーパーも、イギリスの某氏に読ませようというのが投稿したジャーナル選びの主の理由になっています。

では、先の4つの分類を有料部分で説明していく前に、一点だけ、これはぜひ国際教育協力を志す仲間の人達に知っておいて欲しいことがあるので、有料部分と話が前後しますが、記しておこうと思います。

国際教育協力の学問的なバックボーンは国際比較教育になるのかなと思います。では、学部後半・修士レベルで学術誌を使って国際比較教育の授業をやるなら私ならどの学術誌のどんなペーパーを使うのかだけ解説します。

国際比較教育学には主要な4誌があるのですが、指導教官がエディターを務めている&私も学問的には英国ではなく米国に根差しているというのが強く次の私の判断に影響しているのは間違いないのですが、Comparative Education Review (CER)が、研究手法の厳密さと国際比較の巧みさという点で頭一つ抜けていると考えています。そして毎年、大賞論文が一本選ばれるのと(今年だとこれですね)、国際比較教育学会(Comparative International Education Society: CIES)会長の挨拶が掲載されます。

もちろん、国際比較教育学のテキストはいくつもあるのですが、研究手法の発展と共に、「比較」の在り方が結構変化するため(英語のelusiveという表現がピッタリくるのですが、良い日本語が思い浮かびません…)、この変遷を捉え切れている教科書が思い浮かびません。

博士レベルの授業だと、やはり論文に繋がっていくのが良いので、国際比較教育の中でもトピックを決めて追っていくのが良いかなと考えます。しかし、学部後半・修士レベルであればそれよりは国際比較教育とは何ぞやという辺りが焦点になってくるので、CERの会長挨拶&大賞論文を読んでいく方が国際比較のパラダイムシフトと良い国際比較とは何ぞやというのが理解できるのではないかなと私は考えています。

では、有料部分で学術誌の話をしていきます。①に当てはまる学術誌の中でも、アメリカ基盤のものとイギリス基盤のもので明確な違いがあるので、①は二つに分解して話を進めていきます。

1. 国際教育協力に関連があるアメリカの主要学術誌

アメリカベースで国際教育協力に関連がある国際比較教育学の学術誌は二誌あり、前述のCERとInternational Journal of Educational Development (IJED)です。この2誌に共通しているのは、「政策」を視野に入れている点です。もちろん、ピュアな理論系論文が掲載されることもあるのですが、基本的には政策を視野に入れた実証系(質的・量的研究双方)が掲載されます。

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