途上国に絵本を送ってはいけないシンプルな理由

今年もよろしくお願いします、理事の畠山です。年末年始とサルタックの方でも相次いでミーティングを行い、今後の方針を議論している所です。その中で一つ日本側・ネパール側の共通認識で確認できているのが、もっと途上国の子供達が絵本に触れられる機会を作って、アーリーリテラシーやプレリテラシーを養っていかなければ、Quality Learning for Allは実現できないという点です。

ここでこの記事のタイトルを確認された方は、言っていることが矛盾しているように聞こえて、畠山大丈夫か?と思われたかもしれません。確かに年末年始と働きづめでバテてはいますが、大丈夫です。

国際協力業界で広く認識されているストーリーがあります。ある国で大地震が起こった時に(確かパキスタンだったと思いますが・・・)、先進国の人達が古着を送った所、長期に渡って現地で衣類に対する需要が消滅して、現地の主要産業であった縫製業が崩壊し、経済的な復興が成らなかった、という話です。

これは緊急支援時以外にもあてはまり、かつ外務省やプロフェッショナルなNGOの間で共通認識として広く理解されています。例えば、外務省の国際協力とNGOのよくある質問のコーナーでも、「中古衣類を途上国支援に活用したい」という項目があります。これに対する外務省の回答は極めて的を得たもので、①送料もあるし、現地調達した方が安い、②現地調達すれば地域経済にも貢献できる、③そもそも日本の中古衣類がその国の気候・風習に合ったものか分からない、という三点に集約されます。

ここでピンときた方もいると思いますが、服を絵本に置き換えても同じ事があてはまります(なんなら、ランドセルを送ろうとか、靴を送ろうとか、ほぼほぼ全ての物に当てはまります)。日本から途上国に絵本を送るよりも、絵本を現地調達した方が、物価の違いからより多くの子供に絵本を届けられるだけでなく、途上国の出版業界はえてして脆弱ですが、これを買い支えることにより、直接絵本を届けられない子供達に対しても絵本の価格が下がる・絵本が流通するようになるといった長期的&波及効果も見込めるのです。どちらかというと、先進国から送られてきた絵本が流通してしまうと、絵本や子供向けの本を作るためのキャパ作りが疎外されてしまうので、可能であればこれは止めておいた方が無難です。

必要なのは、途上国に絵本を贈ることではなく、ひとりでも多くの途上国の子供達が絵本にアクセスできるようになる為の支援、なのです。絵本を日本から送るのではなく現地調達する、は一つの有力な手段ですが、他にもいくつか手立てはありますし、新書や絵本がこれだけ広く流通している日本だからこそできることも沢山ありますし、国際機関やINGOが参加しているこれに関する国際的なイニシアティブも存在しています。

そこで今回は、この途上国の子供達が絵本にアクセスできるようになる為の支援、についてお話していこうと思います。

(そういえば、子供達に学習教材を届けることが出来ました。ちゃんとソーシャルディスタンスを守っていて、凄いなと思いました。様子はこちら)

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1. ネパールと本の話

本題に入る前に、少しだけ寄り道して、ネパールと本の話をさせて下さい。

ユニセフが支援している国際的な家計調査であるMultiple Indicators Cluster Survey (MICS)というものがあるのですが、ネパールで2019年に実施されたデータが先月アクセスできるようになりました。そのデータを分析してみると結構意外なことが分かりました。

まず、ネパールの子供達がどれだけ本にアクセスできているのかですが、実に81.6%の子供が家に本が一冊もありません。1/5の子供が家に本があるのかと安堵する人もいるかもしれませんが、家に本が6冊以上ある子供の割合は1%未満で、家に本がある子供の大半は1,2冊しかないという状況です。やはり、子供向けの本や絵本が安く広く流通するための支援が必要です。

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上の表は、前回のウェビナー用に分析したものです。サルタックの理事会でも私が作成したこの表は話題になりました。私のバックグラウンドは教育政策なので、私の見解は、基本的に本がある家は豊かな家庭なので、豊かさ別で家に本があるかないかで子供の学力を見ればこの点は緩和できるけど、同じ豊かさで家に本があるかないかは、親の教育熱心さを表しているので、これでも結果は額面通りには受け取れないけど、さすがに親の教育熱心さだけでここまでの差は付きようが無いので、やはり本が広く流通するのは大事だ、という感じです。

この私の感想に対して、香港で大学の先生をしている代表は、バックグラウンドが社会学なのですが、最貧困層でも本がある家庭の子供は、最富裕層の子供で本が無い子供よりも平均して読解力を身に付けられているし、家の豊かさ別で本がもたらす効果量の差とか、見るべき点はもっと色々あると言っていました。そういえば、サルタックの生みの親は、大学の同級生でかつミシガン州立大学の博士号取得者という先輩なのですが、彼女は教師教育がバックグラウンドなので、きっとまた別のコメントがあるなと思うと、教育分野で因果推論が成り立っていない所の議論の豊かさは面白いですよね。

話は脱線しましたが、重要なポイントは二つで、①ネパールでも子供向けの本や絵本が子供達に広く行き渡るのは重要、②でも、全然行き渡っていない、ということです。

2. 途上国で子供向けの本や絵本を流通させるための国際的な取り組み

比較的最近の話なのですが、2018年に、途上国で子供向けの本や絵本を流通させるための国際的な取り組みである、Global Book Allianceが成立しました。このアライアンスは、ユニセフ・ユネスコ・世界銀行・GPEという、国際教育協力分野でも活動している国際機関だけでなく、USAID・旧DFID・NORADという二国間援助機関も参加していますし、Save the Children・World Visionという大手INGOも参加している、非常に大掛かりなものです。

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このアライアンスの取組・戦略は、団体のHPから拝借してきた上の図が分かりやすいです。この中でサルタックを含めた日本のNGOでも取り組めそう…、というよりは取り組むべきものを紹介していきます。

①子供向けの本や絵本の活用:ここは日本のNGOもやっている所ですが、読書・音読・絵本の読み聞かせといった、子供がリテラシーを身に付けていくうえで土台となる活動の重要性は、保護者・教員・政府に見過ごされていて、そもそもそういった本が流通していないか、あっても上手く活用されていません。ここに対する啓発活動が求められています。

②作家の育成:途上国で子供向けの本や絵本が広く流通しない一つの原因は、作家がいないという点にあります。作家・イラストレーター・編集者といった人材を育成していくことで、まず子供向けの本や絵本が作られていく必要があり、そのための支援が求められています。

③出版会社・印刷会社の育成:著作権や知財権など出版にまつわる様々な権利関係を整備していく必要がありますし、そもそも出版・印刷のキャパを作っていくことも必要です。ちなみにですが、私が国連職員時代に経験したことに、とある大規模な印刷が必要なプロジェクトがあったのですが、某国内で期限までに刷りきれるだけのキャパが無く、近所の大国に外注するinternational procurementにする必要がありました。あれには驚きましたが、その程度の印刷のキャパでは教科書とかを刷るので精一杯で、絵本や子供向けの本が市場に流通することはないんだろうなと思いました。

④本の流通支援:本が流通する課程でのロジスティクス、例えば在庫管理だったり、販促だったり、といった支援も必要です。特に、ネパールのように険しい山岳地帯があったり、湿度も気温も異常に高い地域があったり、といった国でどうやって本を流通させるのかは大きな課題になってくるでしょう。

3. 日本のNGOとして、どうやって途上国の子供達が本を手にすることが出来るように支援をしていくか?

では、上記のような国際的な流れを踏まえて、サルタックとして今後どのような支援を展開していくのかが最後のポイントになります。現在進行形で実施しているのは、現地での本の調達と、絵本の出版です。

大体ネパールでは絵本が1冊150円ぐらいで手に入るので、現地で絵本を調達することで、安価な調達で一人でも多くの子供達に本を手渡すことを目指すと同時に、本の流通が強化されて私たちが直接手渡せない子供達にも良い効果が出るように努めています。

また、現地の理事が出版会社を経営しているので、これまでの所、初代代表が絵本を2冊そこから出版して(そんなスキルがあったとは最近まで知らなかった・・)、毎年利益が1冊1万ルピーほど出ているので、それをサルタックの活動費として子供達に本を配る原資としています。

このような流れや活動を考えると、今後サルタックだけでなく、広くNGOの活動のモデルとなるものとして、優先度・feasibility・sustainabilityが高い順に

①途上国で絵本や子供向けの本を出版して、富裕層の家庭にはそれらを購入してもらう。出た利益を元手にそれらを購入できない貧困層の家庭に無償で配布する

②日本での資金を基に、現地で絵本や子供向けの本を調達して配布する

③絵本作家・イラストレーター・編集者を育成する

④本の物流を支援する

の4つが挙げられると思います。そこで、

A. ネパールで無償で絵本や子供向けの本を出版しても良いよという作家さんや出版社の方がいたらぜひ連携させて下さい

B. 日本の絵本作家の方々や出版社と、途上国で無償で絵本や子供向けの本を出版させてもらえるよう共同で交渉して、ネパール以外の途上国でも出版に向けて動いて頂ける団体がいたらぜひ連携させてください

こちらからも営業・アプローチをかけていきますが、是非一緒にやってやろうという方・法人がいましたら、info@sarthakshiksha.orgまでご連絡ください。

個人的には、電子媒体で子供向けの本や絵本を渡すことが出来ないのか気にもなっているので、この辺は今後勉強していきたいと思います。初代代表が絵本を作ったんだから、畠山もやれや、というご意見もあるかもしれませんが、美術と技術は基本的に5段階評価で2だったので、手に取った子供達に悪影響を与えないように自重しておこうと思います。

それではどうぞ本年もよろしくお願いします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーサルタック・シクシャとは、ネパール語で「有意義な教育」という意味です。 私たちは、世界中の全ての子どもたちが、人種や信条、性別、出身家庭等にかかわらず等しく「サルタック・シクシャ」を受けられる社会の構築を目指しています→新しくなったHPを見てみる

現在サルタックは新型コロナによる学校閉鎖が続いているネパールで緊急学習支援を実施しています。行政、学校、親などのステークホルダーと協力して学校閉鎖中、学校再開後の子供たちの学習支援を実施していきます。子供たちの学びの喪失を少しでも軽減し、学びを継続できるためにどうかお力添えをよろしくお願いいたします→緊急学習支援について知る・寄付をする

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