英国の開発学系マスター進学を検討する際の判断軸

皆さんこんにちは、サルタック理事の山田です。8-9月からの新学期を前に、イギリスの開発学系の修士課程の進路相談を受ける機会がありました。私が進学した2014年当時もそうでしたが、イギリスの開発学系マスターは日本人に大人気。その中でもサセックス大学の人気は現在も非常に高いように感じます。過去に英国開発学マスターへの「正しい認識」と「事前準備」、「サセックス神話」について書きましたが、新たな情報と視点とともに一つのブログとして簡潔にまとめ直してみたら有意義かもと思い至りました。

1.アメリカorイギリスで進路を狭めない

三笘選手を観たいからイギリスという理由なら分からなくはないですが(?)、マスター進学の検討段階では国で海外留学の進路を狭めてしまわない方がいいと思います。自分の専攻とマッチする教授・研究所の存在、卒業後の就労・インターン機会の有無、博士課程への進学など総合的に考えて出願する大学を絞っていくと良いです。同様の理由で日本も選択肢から完全に外してしまわない方がいいです。アメリカはマスターが2年、イギリスは1年だから、イギリスの方がお得という理由でイギリスに進路を狭める人もいますが、実はハーバードの教育学部などアメリカにも1年で開発学系マスターを取得できるプログラムが存在します。さらに1年のマスターはお得感があるかもしれませんが、修論の執筆がある場合は十分な研究手法のトレーニングなく論文執筆に取り掛かる場合があるので、えらい苦労します。修論執筆の有無、体系的な研究調査法や論文執筆の授業の有無などを大学のHPからチェックし、分からない場合は、大学や現役の学生に問い合わせてみましょう。

2.マスターを取れば専門家になれるは間違い

開発学系マスターを取れば即専門家になれるという認識を持って進学するとえらい目にあうことが多いです。以前のブログで書きましたが、あくまで修士課程は学術機関であることから、実践的なスキルを身に着けるというよりかは学術的な視点を広げることが多いです。特に英国ではこの傾向が強いように感じます。既に研究・実務経験があるなどの例外を除き、マスター後即UNESCOや世銀でコンサルなどとして専門家として働けるのは稀です。卒業後の就労機会を考慮して地理から進路を選択しても、そのような機会が存在しないorビザの関係で働けないということもあるのでよーく情報収集してください。アメリカでは多くの社会科学系のマスターはOPTを1年もらえますが、特定の公共政策のマスターなどではSTEM OPT extensionとして3年もらえる大学もあります。卒業後の現地就職を考えている人は、進学前に大学のスタッフにビザ関係のことを聞いてみましょう。アメリカの国際協力留学とビザに関してはこちらの記事を参照ください。

3.進学するのは開発学系マスターでいいのか

途上国での国際協力のプロになるためには開発学や国際教育開発学を勉強すれば良いと思うかもしれません。確かに就職の際は開発学修士号、国際教育開発学修士号がその分野の研究を行ったというシグナルとして働きます。その際、開発学に関する理論的な理解や途上国の人たちと働くうえでの基本的な認識を保持しているとみなされると思います。これまで開発学を全く勉強してこなかった人にとっては、開発学を網羅的に勉強でき、キャリアチェンジのきっかけにもなります。ただこの開発学、国際教育開発学という分野、非常に学際的な分野です。政治学、経済学、社会学、人類学など多くの学術的知見が蓄積されている学問分野の視点や手法を用いて研究されています。自分が伸ばしたい専門性によっては特定分野のマスターに進学し、その専門性を用いて途上国の研究をする、といった進路選択もありかもしれません。自分のキャリア段階に応じて開発学系マスターに進学するか否か、こちらのブログで3つの判断軸を示してみました。また開発学か特定分野への進学か?についてはドンピシャのインターンからのインタビュー記事があるので、そちらも参考にしてみてください。

4.先輩の経験や先生の評判はいつの時代の話なのか

おすすめの大学院を聞く際に指導教官や卒業生の話を聞くのは大いに役立ちますが、どの時代の経験や評判をもとに話しているのか、注意して聞きましょう。サセックス神話のブログでサセックス大学の教育と開発プログラムの栄枯盛衰について書きましたが、名物教員の退官・転籍によって、研究プロジェクト、お金、人の重心は動きます。さらに開発学を取り巻く社会状況も10年前、いやコロナ前と今では大きく異なります。特に教育と開発に関して言えば、現在新型コロナによる医療・保健分野への援助拡大や国内重視の教育政策・研究によって、分野自体が逆風にさらされています。過去には実務者向きの少人数プログラムを実施していた学部の職務経験要件が撤廃され、大人数のキャッシュカウマスタープログラムになってしまった例もあります。○○先生が勧めるから、UNICEFで働いている人に○○大出身が多いから、ではなく現在の大学院の状況はどうなっているかできる限り一次情報を集めるようにしましょう。私を含めて経験を語る側も時代設定をはっきりさせた上で後輩にアドバイスしたいものです。

まとめ

英国の開発学系マスターの出願の準備をしていた人がこの記事を読んだら、もっと進路選択の情報収集に時間をかけなければいけない、もう一年進学を遅らせようかと思わせてしまったかもしれません。実際、限られた時間の中で情報収集、応募書類の作成、奨学金の申請をするのは大変な作業で、仕事や卒論を掛け持ちしている場合、とても心労がかかる作業となります。私も学部時代は卒論、社会人時代はケニアの田舎での仕事と応募書類作成の並行作業をしていました。急に電気が止まったり、片道4時間半かけて受験したTOEFLのスコアが記録されないといったトラブルがありました。ピッツバーグ大学の博士課程に進学した当初はもっとアメリカの大学院について調べておけばよかったと後悔することも多くありました。しかし今は限られた時間、過酷な仕事を掛け持ちしていた中でよく準備をやり切ったと思えるようになり、今ピッツバーグ大学で研究していることを肯定的に捉えられるようになりました。いろんな制約の中で、自分が取り得る選択を下せた/るのであれば、その選択に自信を持ってください。進路決定後には、その選択を正しくするためにできる進学準備をできる範囲で行ってみてください。しかし、まだ出願まで時間があるのであれば、上の判断軸をもとに幅広く進路を探ってみましょう。学部時代の私は、イギリスの教育と開発だけに進路を狭め、マスター後には専門家として活躍できると思いこみ、時代背景を考慮せずアドバイスを鵜呑みにしていました。私を反面教師にしてもらうことでより有意義な進路選択ができる人が一人でもいたら私の経験は報われるような気がします。
サルタックは国際協力の専門家育成を目的の一つとして活動しています。日本国内の遠隔インターンプログラムでは、修士課程進学前の方が関心分野の先行研究を通じて応募書類のPersonal statementを完成させます。インターンプログラム以外でも進路に関してアドバイスが必要でしたら。お気軽にご連絡ください。2023年7月には国際教育協力の質的調査法の勉強会も開催します。修論等でインタビューやオブザベーションを実施予定の方は是非ご参加ください。

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