暗幕のゲルニカ 原田マハ

20世紀最大の画家ピカソの代表作「ゲルニカ」
そのタペストリーが置いてある国連にてアメリカの演説時に暗幕がかけられる。
ここからストーリーが始まる。
原田マハ作品は2本目になるが今回もやはり登場人物のキャラが魅力的だ。
9.11で夫を亡くした瑤子、幼い頃に見たゲルニカに魅せられそのままピカソ研究の第一人者になった彼女は本編で一貫してアートの力を確信しているのを感じる。夫を亡くした悲しみを乗り越える為、そして9.11によって空爆へと突き進むアメリカを止める為、その為の行動がピカソの戦争という展覧会をやる事。アートで世界を変えようとしているのだ。
原田マハ作品の大きな、そして唯一無二の魅力はここだ。
「アートの力を確信している事」
信じているのではない確信しているのだ。
テロを止める為のスパイの極秘ミッション、愛する人を殺された事による復讐劇、国を変える為の革命劇、世界を変える話は世の中に大きく存在する。その中でも「アート」、不確かで、不明確で、理解が難しくそれでいて魅力的なアート。絵で世界を変えるなどやり方がかけ離れすぎていて夢物語にも聞こえない。しかし登場人物達は絵で世界が変わると確信してしまっている。疑問にも上がらないのだ。
文化人にとってこれ程胸躍るテーマはないだろう。何故なら僕らも文章やアート、歌等で何かを変えられると心のどこかで信じているからだ。その中で最も直接的ではないアートが今回の格だ。
暗躍のゲルニカは物語が2部構成で進んでいる。
現代の瑤子パートと過去のピカソのパートだ。
あまり絡みなく物語は進むがこの手法が僕達を物語の世界に引きずり込んでいく。
この物語で最も読者に近いのはドラ、次にパルドだ。ゲルニカの制作、そして第二次世界大戦の行方を追う過去パートではゲルニカの力、ピカソの魅力を伝えてくれる。仮に現代パートだけでは物語についていけなかっただろう。何せ僕らはアートの力を理解しきれていないからだ。
瑤子はピカソの展で世界を変えようと躍起になるがこれはゲルニカがどれだけの力を持ってるかを理解していないといけない。それを過去パートが補完する様になっている。てっきりゲルニカ完成は最後に来るかと思ったが結構序盤で完成して意外に思ったが過去パートの役割を考えると納得がいく。過去パートではゲルニカ及びピカソの周りへの影響力について読者に伝えるのが役割だからだ。ゲルニカにより、ドラは自分の人生へ納得を得て、パルドはピカソの作品を守り抜くと覚悟を決め成長していく。役的に見ればパルドの方が主人公ぽいがそこをドラ視点で描いているのが面白い。ピカソは勝手気ままに描き続け、パルドは目まぐるしく成長していく。ドラは置いてけぼりは両方にも感じていただろう。美のピークはすぎ、ピカソからの愛も薄れゆく中ドラは苦悩し続ける。ピカソの唯一の理解者になりたい、自分はアーティストだ、魅力的な男に出会いやすい、まさに滑稽という個性を詰め合わせた感じだ。しかし一つ大きな役割を果たす。ゲルニカの制作に手伝った。この一点だ。しかしこの一点、ゲルニカへの理解者というだけでこの滑稽な個性と十分釣り合ってしまう。これがゲルニカの力を大きく僕らに伝えてくれる。観客が見て声を失い、パルドはこの絵を守る為にアメリカまで亡命させる、しかしこれだけではゲルニカの力は伝わりきらない、あまりに普遍的すぎる。滑稽で痛い女の子がゲルニカの制作を手伝った一点だけで魅力的に映ってしまうこれこそが一番この絵の力を伝えてくれた。
更には史実を元にした圧倒的にリアリティレベルの高さもまるでその場にいる様な感覚にしてくれる。
この過去パートを読めば瑤子が躍起になるのにも理解が出来る。

正直現代パートが足を引っ張っていたとは思う。序盤は良かったが中盤の中弛み感はあった。原田マハ特有のアートへの圧倒的知識は読者の知識欲も刺激してくれとても面白いが楽園のカヴァンス同様ストーリーが弱い。魅力的なキャラとアートの知識で無理やり引っ張っている感がどうしても拭えない。
ただ個人的にゲルニカは最も好きな絵だったのでそのゲルニカで世界を変えようとするテーマはドストライクだった。創作物で世界を変えようとするのは全クリエイターの夢だろう。
この物語でピカソを一掃しれた。教科書や解説書で知るのとは違う、生きたピカソを感じれるのは歴史物の特権だろう。自分の好きな人物の話を読むのはこれからやっていこうかと思う。
テーマはとてつもなく良かったが活かしきれてなかった、そんな話だった。

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