見出し画像

燃えるゴミと燃やせるゴミ

夜がカチカチと音を立てている。

まるでゼンマイ式の時計の針が進むみたいな音を立てて、夜は歩いている。
私は夜と一緒に歩くでもなく、愛犬と一緒に歩く。

夜の散歩。

夜は昼に比べると、息がしやすい。
ぼんやりとした薄闇が私の表面に膜を張り、私はその中で息をする。

おてんとさまがいない足元には、当たり前に影の奴もいないから、私は地面と足の裏をきっちりとつけている必要もない。ドラえもんのように少しばかり地面から体を浮かせて歩くのが、夜の散歩の醍醐味だ。

足音など必要ない。
息遣いだけがあればいい。

今日も面倒な一日だったと振り返る。

愛犬は私の面倒さなんかどこ吹く風で、どこの犬のものかもしれない匂いをクンクンと嗅いでいる。いい気なもんだ。私も犬に生まれたかったと、犬を見ていてそう思う。

なんでこう我儘ワガママな奴ばかりなんだと、夜に切り込みを入れるように息を吐いた。

犬は私のため息なんか関係なしに、夜の道を前に前にと引っ張るもんだから、私はそれに従って、夜の道を前に前にと仕方なしに歩く。
カタカナと漢字の組み合わせのどこにでもありそうな集合住宅の脇を通り過ぎて、集合住宅居住者用のゴミ置き場に一瞥をくれる。

「燃えるゴミ」

私はそれを見て、「燃やせるゴミだろ」と独りごちた。
ゴミは勝手に燃えたりしないのだし、燃えるゴミより燃やすとか燃やせるの方がいいじゃないか、なんて非常にどうでもいいことにクレームを言いたくなるほどに今宵は荒んでいるのだ、心が。


正直なところ、私は可燃ごみの名称にこだわりがあるわけではない。

昨今、自治体によっては「燃えるゴミ」が「燃えればなんでもよかろうもんゴミ」と捉えられないよう、名称を「燃やせるゴミ」と改名し、資源化するゴミを除いて「燃やせるゴミ」として廃棄するような試みを行っているという場所もあると聞く。

さてはて、私の住む福岡市では「燃えるゴミ」という名称だが、よその自治体はどうなっているのだろうか、と検索してみる。

予想どおりの名称が出てきた。
◎ 燃えるゴミ ◎可燃ごみ ◎燃やせるゴミ などなど

そんな中、ちょっと気になる名称が出てきた。
私が気になったのは、幼少期に住んでいた徳島の名称変更のページだ。

燃えるゴミでもなく、燃やせるゴミでもなく、「分別頑張ったんやけど、燃やすしかないゴミ」だそうだ。

かわいい。
なんか、好き。

これなら、分別頑張ろうと思うと思う。

とはいえ福岡市のごみの分別は4種類のみ。
私には分別をがんばる必要はあまりない。

『燃えるごみ』『燃えないごみ』『空きびん・ペットボトル』『粗大ごみ』の4種類だ。かなり楽。

政令指定都市で唯一、ごみを夜間に収集する福岡市では、『燃えるごみ』『燃えないごみ』『空きびん・ペットボトル』を決められた日の日没から夜12時までに家の前や所定の集積場に出すようになっており、『粗大ごみ』は予約での有償回収だ。

フクリパ

ちなみに福岡市はゴミを夜間に回収する。日が暮れてからゴミを出す。

私は福岡市に住んで30年以上経つので、ゴミの夜間回収は当たり前のものだと思っていた。朝、出勤前にゴミを出すのはドラマの中の話だと別次元のものと考えている。

ゴミは夜出すもの。こっそりと、ひっそりと。

夜であれば、カラスも猫もゴミを狙いに来ないらしく、家の前にゴミを置いておいても、特に荒らされたことはない。
回収日を間違って出してしまい、朝まで放置されたゴミを荒らされた経験はあるけれども。

もちろん廃品回収などはあるので、紙ごみや段ボールなどは地域の回収ボックスに捨てにいくようにしているが、面倒臭いときは燃えるのだからと燃えるゴミに入れているのが現状である。

私にとって、この分別の少なさは非常に助かるものだが、SDGs的にいいのかな? と思って調べてみると、以下の記事を見つけた。

燃えるゴミを焼却する際にできる熱エネルギーを用いて発電し、余剰の電力は売電しているのだそう。へ〜と思う。知らなかった。

環境省『一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について』によると、ごみ処理事業経費は2兆1,290億円であり、国民1人あたりに換算すると、1万6,800円となっている。算出方法が異なるため一概に比較することができないものの、福岡市民1人あたりの一般家庭ごみの処理コストは、国民1人あたりに比べておよそ4割余り安くなっているといえる。

フクリパ

よくわからないけど、処理コストは安いらしい。
分別も少なくて済むし、処理コストも安いのであれば、このまま4分類を継続して欲しいと思う。楽だし。


夜の散歩から帰宅後、燃えるゴミに思いを馳せるうちに、私の荒んだ感情はいつの間にやら消え失せていた。きっとしょうもない苛立ちは、リサイクル不要な燃やせるゴミだったに違いない。

夜はゴミの分別など気にもせず、今宵もカチカチと音を立てている。





この記事が参加している募集

ペットとの暮らし

散歩日記

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?