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アイアンマンマレーシア2019レースレポート〜ラン編〜 歓喜と絶望の空間で尊厳を捨て蜘蛛の糸を掴む

大苦戦のバイクの後はついにランです。「あとたったフルマラソンだけ」なものの、すでにバイクで脚が攣りまくっていて不安しかない状態。

RUN:42.195km
空港周辺の静寂に包まれたひたすら平坦な道と、観戦者が熱狂する繁華街を折り返し二周半、最後にビーチに抜けリゾートホテルのパーティー会場にあるゴールにたどり着くドラマチックなコース。

 バイクフィニッシュでヘロヘロになりながらバイクをスタッフに渡して、T2のトランジションで床に座って着替える。全身の不具合を確認。エアロポジションで死んでいた首と腰を軽くマッサージして脚も軽くストレッチ。痛みが残りがちだった腰は今回はセーフ。オフィシャルショップで買ったアイアンマンロゴのサンバイザーを装着しテンションを上げ、脚が攣らないか心配になりながらコムラケアを一粒摂取して残りはポケットへしまい恐る恐るランスタート。バイクのスペシャルニーズから引き続き持っているジェルフラスクが頼もしい。会場は応援する人で賑わっている。

※写真は下見のときにとったもの

 1周目は脚が死なないよう慎重に走り始める。慣らすように歩いたり走ったりを繰り替えし1キロほどしてからレース走行モードへ。個人練習のフルマラソンで身に付けた超ベタ足走法で足を犠牲にして脚を守る。バタバタ音がして恥ずかしいが気にしていられない。まだ明るさのある夕方は多くの選手がコース上で走っているポジティブな時間帯。復路の欧米系の人が私を見て「Ganbatte」と励ましてくれた。空港エリアに入り第一エイドに到着。水をかぶり、カリウムがありそうなスイカを摂取し、体にかける用途と水分補給用途の水ペットボトルをポケットにしまう。靴がぐちょぐちょになると靴擦れになりそうで靴を避けて水をかけていたが、もはや全身がびしょびしょなので結局気にならなくなる。水の飲み過ぎか尿意のためトイレに寄って再スタート。途中、キャッツアイを踏み転倒しかける。見れば空港エリアは長距離に渡ってずっと等間隔でキャッツアイが設置されている。これから暗くなるのにこんな罠が!とゾッとする。

 次のエイドも抜けて市街地へ。ホテル周辺の見慣れた道や店を抜け、道沿いにいる地元の人や観光客から熱烈な応援を受ける。少し離れたゴール会場から大音量でMCをする声とBGMが聴こえてくる。

Uターン地点を曲がりゴール会場のメリタスへ。周回なのでゴールゲートには入らないが、その脇を抜けていくのでゴールイメージが脳裏に焼きつき俄然やる気が出る。

 往路はざっくり8kmちょいで1時間ほどかかったので、これのペースで5回繰り返せば余裕もってゴールできる!と安堵する。周回のバンドを受け取り復路に向かう。天気が少し曇りがちになり雨も降ってきて、走りやすく感じたことからようやく自分が熱中症気味であることに気づく。復路は集中力がなくなり、朦朧としたまま淡々と距離を刻んでいく。意識を覚ますためコーラを大量摂取する。途中、コーラにより頻繁にトイレに行きたくなるが折角トイレを見つけても空いていないため暗い場所で歩きながら人間としての尊厳を捨てる。次のエイドで全身水浴びしてごまかす。二周目のランナーの何人かが首に光る虹色の輪を巻いているのに気がつく。徐々に暗さが増し、永遠にも思える復路を終えて再びT2会場へ。復路は1時間15分かかっている。想定の範囲内ではあるが、ペースが落ちている。スペシャルニーズからヘッドライトを取り出し2周目へ。虹色の輪は欲しかったが結局どうすれば貰えるのか分からなかった。 売り切れたのか。

 2周目から暗さが深まりT2から空港エリアまでの区間が完全な暗闇になり足元の段差やランナー同士の衝突、脇を通るバイクや自転車などが危険になりヘッドライトをしてきて大正解。しかし着用率は一割未満でほぼ若い日本人なのが不思議。トランジションと暗闇区間でペースが乱れたからか走るのがきつくなり大幅スローダウン。歩きと走りを繰り返すようになる。周囲も歩く人が増えてきて暗さもありネガティブな空間になる。ここにいてはマズいと20歩走って10歩歩くことで何とかペースを作り脱出する。エイドでは引き続きコーラを大量摂取、スイカ大量摂取、ついでにハンガーノックを疑いフラスクでエナジーも摂取。静寂の空港エリアが無限のように長く感じる。抜けると空港と市街地との間で山からコーランが聞こえきて「走るとは何か」と哲学的な気持ちになる。市街地に到着、「Keep going!」、あるいは名前を見て「Go!Go!Shinya!」と応援を受けてやる気が出てくる。しかし時間を確認するとこの半周は一時間40分ほどかかっている。今のペースからさらに落ちるとカットオフの可能性も出てくるので焦る。
 二つ目のバンドを受け取り、復路に入りとりあえず可能な範囲で走り続けるようにする。雨は土砂降りになるが、おかげで暑さ的にはマシになり走りやすくなる。夜でも気温が下がらず体は常にオーバーヒート。エイドではエナジージェルも受け取るようにして大量摂取。徐々にスイカ売り切れのエイドも出てきて焦る。エイドスタッフの数も減っている。復路、静寂の空港エリアでは気持ちが切れるのか歩く人が多くなるが、かき分けてひたすら安全圏目指してペースアップ。コーラのせいで発生する頻繁な尿意は走りながら尊厳を捨てて対応、エイドの水かぶりで流す、を繰り返す。2周目復路は苦しいながらタイム的には安全圏に戻す。あとは脚がもつかどうか。

 T2のスペシャルニーズでは家族の重要イベントになぜか顔を出すぬいぐるみのクリフトくんを取り出しベルトに刺しラスト半周に向かう。こいつをゴールに連れてくぞ!と思うと不思議と自分の体の辛さが減ってくる。遅い時間なのでT2はガラガラ、応援する人も走者も少ない。
 完走目標レベルでのラスト半周はギリギリの状況で走っている人が多く、脚を引きずって歩くゾンビの群れ、エイドでうなだれる人や救急車の往来が増え、歓喜と絶望が交錯する修羅場に突入。ここにいるギリギリ隊のメンバーは完走が目標レベルの人か、実力者がトラブルに巻き込まれたかなわけで、誰一人として余裕のある人などいない。DNFした人や今まさに絶望的な状況と戦っている人を思うと胸が締め付けられる。自分も脚の攣りや体の痛みはないが、体全体の疲労感や眠気に近い怠さによる走りの違和感が出てきて、ネジがポロポロ零れるロボットのような心境になる。しかし逆に言えば全てのパーツを致命傷から守り切れたことに安堵し、これで最後だと静寂の空港エリアを噛みしめるようにパスし、熱狂の市街地エリアへ。

 テンションは最高潮。「Almost there! almost Ironman!」歩き慣れたチェナンの街の観客から熱烈な応援を受け、勝利を確信し朦朧とした意識の中最終Uターンを曲がる、、、と後ろを走る白髪の紳士に必死に止められる。ん?あ!!看板を見間違えUターン場所を間違えていた!!!危ない!

 ゾッとしつつコースに戻り、颯爽と走り去るリチャードギアに感謝し、後を追って正しくUターンしビーチに向かいゴール会場のメリタスへ。背中に刺したクリフトくんに気づいた観客から笑い声が聞こえる。他のレースでは制限時間ギリギリだとお開きモードで閑散としている事があったが、アイアンマンは制限時間に向けて応援のボルテージがどんどん高まっていく。わかる。めっちゃわかる。ギリギリにゴールする人ほど、その人にとって高いハードルや大きな障害をクリアしてきたということ。完走者は全員勝者なんや。
 コースはすっかり明るく照らされ、不要になったヘッドライトを外して肩にかける。感慨にふけりたくなるが今は考えるリソースさえ節約し、導かれるように前へ進む。

 ラスト100メートル、ベルトに刺していたクリフトを取り出し家族の顔を思い浮かべ、光に包まれながら満身創痍でゴール!圧倒的最高の瞬間!!!

Shinya SARUTA from Japan. You are an Ironman!

というわけで無事に完走する事ができアイアンマンになりました!!!

ランは6時間20分、トータル15:44:36でのフィニッシュ。

結果的にはタイムにあまり余裕がなく、パンクや体調不良の一つでDNFになりうる範囲でしたが、「完走に必要な経験を積み準備をしてきた。」という自負と、「何かが起きてもどうにかする。」という揺るがぬ意思は一貫していたため、成否のプレッシャーと緊張感を集中力に変換して前に進むことができました。

この日はもうヘロヘロだったので記憶が曖昧で、ゴール後の余韻に浸る間もなくストリートギアバッグを回収しフィニッシャーTシャツを受け取りパリピな運営スタッフとワイワイ挨拶して会場を出て、街の人や他の完走者の祝福を受けながらホテルに向かいつつ、残り一時間切った最後のランナーたちを見かけて胸が熱くなりガンバレーとか言い、部屋に戻り相部屋のおじさんと喜びを分かち合ってカップメン食べながら今日のレースについて無限に語って、スマホに妻からおめでとうメッセージが来ててありがとうを返してツイッターにやったぜ投稿をして世界に感謝し寝落ちして泥のようになる、という感じでした。

次回は帰国までと旅の振り帰りについて書きます。

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