見出し画像

#短編小説 乾いた風

顔のいい男が嫌い。顔がよくて背が高くて手足の長い男が嫌い。それは「」が手に入れたかった肉体だから。第二次性徴の訪れとともに去ってしまった可能性の亡霊。さようなら、さようなら過去の新しい未来。まっさらな未来と自由帳の切れ端。破った紙切れに小石を包んで投げつけた。未来の自分がこんなふうだったらいいなぁと夢想したとおりの顔を持つ君が不思議そうに振り返る。怪訝そうに前に向き直った横顔に告げる「好きだよ」。ほんとうは大嫌いだった。君が持つからだ、「」はほしい。「」の好きな女の子たちがなんの疑問もなく好意をもつ君の体。「」がほしかったからだ。それを持ってる君が憎い。きらいきらいだいきらい。しんでしまえ。「」の目の前から消えてよ。可能性に道を明け渡して「」は道を踏み外す。君の声が甘く乾いているのがむかつくので、同じキーでカラオケを歌ってみたかったけど、無理だった。ガラスをひっかくような浮ついた声しか出ない「」の喉が嫌い。「」は自分が男になって君とセックスするところを想像する。それはすこし気分がよくて、現実の苦い味わいが少しだけましになる。ほしいほしいほしいほしいよ「」の中に納まってくれる丸い言葉が欲しい。ぼくでもわたしでもおれでも自分でもないなにか特別な言葉が欲しい。愛じゃなくて。Iじゃなくて。iじゃなくて。

きりんの餌代受付中です🌲🍃