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史上初めて市民が通貨システムを提案した国民投票

以下は、「ダイレクトデモクラシーの旅」の抜粋です。


市民が中央銀行の役割を決める国民投票

2016年秋、ベルン中央駅にある大きな電光掲示板の下で待っていると、2人の若者が現れた。シモン・センリッヒとラファエル・ウスリッヒ。そのまま路線バスに乗って郊外にあるラファエルの家に向かった。景色の良いなだらかな丘にたつ1600年ごろに建てられた大きな家を若者たちがシェアしている。家を案内してもらい、同居する若者たちにあいさつをしてから、ダイニング・キッチンのテーブルに座って、インタビューを始めた。英語が堪能なシモンが、彼らのイニシアチブについて、たっぷりと時間をかけて説明してくれた。

基本的に現在私たちの通貨の90%は商業銀行によって発行されます。紙幣や硬貨として中央銀行自体から来るのは、およそ10%だけです。これがさまざまな問題の原因になります。銀行によって発行されるおカネのほとんどは、実体経済をサポートせず、実際に経済成長をつくらず、直接金融システムに流れます。問題なのは、金融システムに流れる通貨のほとんどは、また再び投機バブルをつくることです。住宅市場や債券市場、デリバティブ、株式市場、あらゆる金融市場が過剰に再発行された通貨で膨張します。フルマネー・イニシアチブによって、これはすべて変わります。私たちはスイスの通貨システムをもう一度、人びとのニーズと実体経済のために機能させたいのです。もしスイス国立銀行(SNB)が、スイスのすべての通貨、紙幣や硬貨のほかに電子通貨も発行する唯一の機関だったら、スイスの通貨は再び、ほとんどが実体経済に流れ、よりよい経済成長をもたらし始めます。実体経済に関するすべての情報だけではなく、銀行統計に関する情報、住宅融資や、株式市場や他の市場について、正しい情報をもって判断し、実際どのように通貨供給するかを判断できます。

フルマネー・イニシアチブの運動について、始まりはこうです。知ってるかもしれませんが、2008年、前回の金融危機の直後、UBSやクレディスイスのような銀行まで救済されねばならず、スイス国立銀行やスイス連邦政府が、本当にたくさんの通貨を供給しなければなりませんでした。まさにこの事件が、かなりたくさんの良心のある人を集めました。彼らはより深く考え話し合いました。私たちの金融システムはまったく持続性がなく、政治は必要な措置をとろうとしません。本当に再び持続可能なものにするために、スイスの通貨システムを実際どうやってつくるのか。金融産業、銀行のニーズに供給するだけじゃなくて、どうやってもう一度人びとのニーズに本当に供給するか。実体経済と人びと、私たちが全体としてスイス経済を動かし、スイスをつくっているのです。もし国の経済が金融分野に重点をおいて、すべての通貨が金融産業に流れたら、知っての通りに時がたつにつれてさまざまな問題につながります。不平等の拡大や、投機バブル、考えられる以上のさまざまなこと、環境危機も金融産業のメカニズムから起こっていると思います。

通貨改革の運動はかなり長い間あり、伝統があります。歴史をふりかえれば100年前 1920年30年代のアメリカで大きな危機があって、ちょうど歴史は繰り返しますが、その時にアメリカで通貨システムの改革を願う人たちによって同じような運動が起こりました。その時に彼らが提案したアイデアはよく似ていて、多くの要素が今やっていることと密接に関連しています。私たちの運動で一番重要な人がいるとしたらすべての創始者で 理事長のハンスリューディ・ウェーバーです。彼は、長い間、通貨システムのさまざまな理論やコンセプトを個人で勉強し、この分野の専門家で学者といえます。 著名な専門家、どこかの教授ではありませんが、確かに深い知識をもっています。 今回のコンセプトは、ドイツの教授であるヨセフ・フーバーから引用しています。1930年代アメリカのやり方は100%通貨と言わます。その考え方とは、銀行は循環に入れたすべての通貨を再融資する義務を負う。中央銀行の通貨の100%の準備をもつ、これが基本的な考えです。私たちの少額準備制度で大きな問題なのは、銀行は発行した通貨を再融資する時、全体の金額の少額、つまりもし銀行が1000万ドルを通貨の循環にいれたら、この1000万ドル再融資するのに、中央銀行が発行した法貨が2.5%だけあればよいのです。100%の提案はこれを実際に変えて、銀行の再融資業務を100%中央銀行の通貨でやるのです。このドイツ人の学者はこの100%通貨のコンセプトを語り、実際には、もう一歩進んだのです。100%通貨でも 通貨は一般的に負債として発行されます。だからまだ最初に融資をするのは銀行で、 第二段階として中央銀行に行って、 実際に何パーセントで再融資するかと言うことになります。でも、これではシステムは変わりません。ヨゼフ・フーバーが考え出して推進しているソブリン(主権)通貨と名付けられた概念では、主な違いは通貨は負債として発行されないと言うことで、ここは理解すべきです。通貨は負債である必要はないので、負債じゃなく創造され、通貨循環の中で使われる。 商業銀行によってではなく、中央銀行によってです。中央銀行、私たちの場合は国立銀行、民主的に管理された独立した機関で、現在主に紙幣と硬貨でスイスの通貨を管理していますが、その民主的な機関が、電子通貨も発行することなのです。もしそうした機関が電子通貨を発行すれば、もはやそれは負債ではありません。例えば紙幣や硬貨のように、負債じゃなく自由に創造されます。中央銀行が通貨をつくって、循環の中に入れればいいだけです。 それは永続的でどこかに消えてしまいません。銀行がつくる電子通貨だったら、金融危機が来たらすぐに破綻、連鎖し、その通貨は実際に跡形もなく消えます。これは大きな問題で、実際に銀行が倒産したら、銀行がつくった預金通貨は、ただ消えてしまいます。ソブリン・マネーは対照的で、中央銀行によって通貨の循環に投入されます。この通貨はいわばデット・フリーで、だから永続的で、紙幣や硬貨のような法貨という地位があって、紙幣や硬貨と同じくらい安全で保障されています。

私たちのマネタリー・モダニゼーションの団体が準備して始まったのは、2014年ごろでした。知っての通り、スイスでイニシアチブをすると、最初にやらないといけないのは、テキストを書いて適切にまとめることです。それは市民に提案され、採用されたらスイスの憲法に挿入されます。イニシアチブのテキストを関連機関に理解してもらい、イニシアチブの開始の了解をとります。準備ができたのは2014年の夏だったと思います。イニシアチブが始まると、18ヶ月で10万人のスイス市民の有効署名を集めますが、これは本当に一生懸命やって、はらはらする期間でした。政党や大きな組織にとっては難しくありません。イニシアチブを支える十分な資金と資源、人がいます。それに比べて私たちは一番小さい団体で、政治家もいなければ事業家もいません。私たちは基本的に様々な分野の市民で、教師だったり、小さな事業家や学生などです。資金あつめに奮闘するだけでなく、実際に署名を集めるのにたくさんの人がいります。外に出て人びとにつたえるのです。これはなかなか難しいプロセスでした。最大の困難は、ほとんどの人は通貨システムについて知りません。現在の多くの問題の根本原因だから、適切に改革される必要がありますが、一般の人たちに説明するのは、本当に難しいのです。フルマネー・イニシアチブとは何のためにやっているのか、何にトライしているのかを伝えるのに、私たち自身でさえ迷います。結局、一番基礎的な部分を書き出して、外に出て人びとが確実に署名するようにしました。市民として自分の手で署名するのはなかなか強力なことです。それはやがて実際にイニシアチブに投票して憲法の一部になるのですから。 スイスのほとんどの市民は、イニシアチブに署名するのは権利の行使なので、時間をかけて確実にイニシアチブの一番の基礎を最低限理解します。署名を集めたのは500人くらいでした。 ある人たちは自分達だけで6000もの署名を集めました。何日も何日もたくさんの努力をしました。ほとんどの人は100とか200、平均だと1人数百でしょう。一緒になって10万以上、11万前後の署名を集めるのは大きな達成だったと思います。2015年の12月に終えて提出しました。何ていうか、ほっとしました。達成であって誇りに思っています。 言ったように私たちは人びとの小さなグループで、すべての意欲、自由時間、頭を使って成し遂げたのです。

今のところ、フルマネー・イニシアチブの投票は恐らく2018年初頭です。投票までキャンペーンチームのやることはとてもたくさんあります。このメッセージを多くのスイス国民に伝えねばなりません。今現在、ほとんどの人は実際に知らないのです。通貨システムの何が悪いのか。フルマネー・イニシアチブが今の問題をどう解決するのか。基本的に国民全体に知らせないといけません。スイスだけじゃなく、これはどれほど大きいチャンスなのかを世界中から理解してもらおうとしています。つまり、スイスがフルマネーを採用するだけじゃなく、 世界が通貨システムの改革をして、将来、本当によい通貨システムをもつ。もしフルマネー・イニシアチブつまり主権通貨がスイスに導入されたら、それは大きなメッセージになって世界に影響を与えます。たくさんの政府や、さまざまな分野の有力者や運動体が、何が起こっているのか理解して、同じ努力を始めてその国でも同じシステムが機能するようにするでしょう。だから外国の人たちがこの機会を使うのは大事です。私たちのキャンペーンに投資してください。将来、きっと同じようなことが自分たちの国でできるでしょう。私たちスイスは恐らく世界で唯一、決める機会がある、つまり直接民主的にイニシアチブができる国ですが、 世界中の人びともこのやり方に触発されると思います。何かまだない新しいことをデザインするのです。2017年の夏、スイス全体をめぐるキャンペーン・ツアーをやって、イニシアチブのメッセージを広めます。すべての村、すべての街、たどれる人すべて、できるだけ多くの人に伝えます。このキャンペーンの資金調達に、今クラウドファンディング・プロジェクトを始めました。海外のより多くの人びとにもメッセージをひろげようとしています。この夢を信じています。夢が現実になるように毎日仕事をしています。実現可能、現実に市民の投票で過半数をとれます。結局、私たちが提案しているのは人びとが当然と思うこと、やろうとしているのは、実際ほとんどの人が頭で想像できるような通貨システムをもつことです。そして、この運動で一番いいのは、革命である必要がないということです。数百年かけて世界中で築いたすべての社会的な制度をひっくり返す必要はないのです。むしろポイントは、人間愛をもって一緒に前に進もうということ。世界で何が起こっているのか考えて、私たちの生活をどうやって改善するか見出す。もし、今の世界をもっと近くで見たら、環境だけじゃなく社会的にも、たくさんのことが本当に悪くなっています。基本的に私たちの世界を壊していていますが、通貨システムが 一番の源、一番の根です。なぜ世界でこんなにたくさんのことが悪くなっているか、こんな風である必要はないし、まったく違ったようになれます。始めましょう。どんなシステムの元で暮らしたいか、どうやったらよりよくデザインできるか、これが一番大事です。金持ちから富を奪う話じゃなく、これは革命じゃない。そういう意味では平和的な進化ととらえたい。唯一変わるのは、通貨システムが再びよく機能すること。適切に通貨を改革して、もういちど正しく機能させたら、私たちは前に進めます。この世界の問題に答えをもっていませんが、でも、少なくとも通貨システムを改革したら、それはとてもいい出発点です。一度通貨システムを改革したら、社会の他の部分の改革も始められます。

最後にウスリッヒ氏がまとめた。新しい社会のキーとして、ベーシックインカムやポジティヴ・マネーやフルマネー、確かに、世界中で多くの人が気付きだしているけど、それぞれの国では、まだそれほど多くはない。だから、この改革のステップを進めるために、世界は連携してひとつになるべきだと。
長いインタビューが終わると、日が暮れはじめていた。ウィスキーで乾杯して、バルコニーに出て遠くのベルンの街を眺めていると、ルームメートたちが仕事から帰ってくる。みんなで談笑しながらベジタリアン風の食事を頂いて、街に戻った。



ソブリンマネーの改憲案


とても不思議なことだが、例えば日本国憲法には通貨に関する規定がまったくない。すべての国は調べていないが、おそらくほとんどの国は日本と同様だろう。一方、スイス憲法には短い規定があって、それが以下だ。


99条 通貨政策
連邦は貨幣と通貨に責任を追う;連邦は硬貨と紙幣を発行する独占的な権利を有する。
スイス国立銀行は独立した中央銀行として、国全体の利益に供する通貨政策を追求しなければならない。それは連邦の監督下で協力して管理されるものとする。
スイス国立銀行は、収入から十分な通貨準備を創り、準備の一部は金で保持されなければならない。
スイス 国立銀行が得た純利益の最低3分の2は州に割り当てられねばならない。


これに対して、ハンスリューディ・ウェーバー氏は、ソブリンマネーを提唱するヨゼフ・フーバー氏や他の経済学者たちと協議を重ねて、以下の改正案をつくった。


第99条 通貨政策と金融サービスの規制
連邦は、経済に通貨と金融サービスが提供されることを保証する。経済的自由の原則から逸脱する可能性がある。
連邦だけが、硬貨、紙幣、帳幣の形で法貨を創造することができる。
スイス国立銀行の法令に準拠している場合は、他の支払い手段の創造および使用が許可される。
法律は、国全体の利益のために金融市場を規制するものとする。特に、以下を規制する。
1. 金融サービス提供者の信託業務
2. 金融サービスの契約条件の監督
3. 金融商品の認可と監督
4. 資本要件
5. 自己勘定取引の制限
金融サービス提供者は、顧客の取引口座を貸借対照表外に保有するものとする。金融サービス提供者が破産した場合、これらの勘定は破産財産に該当しない。
第99条a スイス国立銀行
スイス国立銀行は、独立した中央銀行として、国の全体的利益に役立つ通貨政策を追求するものとする。マネーサプライを管理し、金融サービス提供者による支払い取引システムの機能と経済への信用供給の両方を保証する。
投資のための最低保有期間を設定することがある。
法的権限の下で、連邦政府または州を介して、または市民に直接配分することによって、新たに創造された通貨を、対応する債務に拘束されず流通させるものとする。これは、銀行に長期融資を与えることができる。
スイス国立銀行は、収入から十分な通貨準備を創出するものとする。これらの準備の一部は金で保持されるものとする。
スイス国立銀行による純利益の最低3分の2は、州に割り当てられるものとする。
スイス国立銀行は、その任務の遂行において法律にのみ拘束される。
第197条 122段
第99条(通貨政策および金融サービスの規制)および99条a(スイス国立銀行)の暫定規定。
新規則が発効した日に、取引勘定のすべての帳簿価額が法貨となることを実施規則は規定しなければならない。金融サービス提供者の対応する負債は、スイス国立銀行への負債となる。これにより、合理的な移行期間内に、この帳幣の交換から債務が決済されることが保証される。既存の与信契約は影響を受けない。
特に、移行段階では、スイス国立銀行は、資金不足や過剰がないことを保証するものとする。この間、金融機関への融資へのアクセスを容易にすることができる。
第99条および第99条aの施行後2年以内に適切な連邦法が採択されない場合は、連邦議会は1年以内に条例により必要な実施規則を発行するものとする。

ベルンでインタビューをしてからおよそ1年後、17年の秋に、私はセンリッヒ氏を日本に招いた。1週間ほどの滞在の中で、東京と沖縄で講演会を開催した。それからほどなく、国民投票の日程が2018年6月10日に決まった。
2015年12月に署名を提出してから、翌年の11月には、スイス連邦政府がこのイニシアチブに対する見解をまとめた公文書を閣議決定した。「このような金融制度の根本的な改革は大きなリスクを伴い、金融セクターの激変が予想される」ことを理由に国民に対してイニシアチブの拒否を推奨した。「イニシアチブは現在の貨幣制度の完全な転換を求めている。もしイニシアチブが認められるなら、スイスはテストされていない改革のモルモットになるだろう」と。その後、審議が国会に移り、全州議会(上院)は、42対0棄権1でイニシアチブに反対、国民議会(下院)も169対9棄権1で反対した。

中央銀行とイニシアチブ委員会のディベート

興味深いのは、投票が3ヶ月前に迫った時点で、政治的な発言をしないことが不文律である中央銀行が異例の反対声明をだしたことだ。それに対してイニシアチブの委員会は理路整然と反論を述べていて、とても興味深いものになっている。未来の通貨システムを考える上でとても大事な資料なので、その一部を紹介する。

ソブリン・マネー・イニシアチブ委員会
2018年4月24日
ソブリン・マネー・イニシアティブに関するSNBのFAQへの説明

SNBは、2018年3月5日付で「スイスのソブリンマネー・イニシアチブ(Vollgeldinitiative):よくある質問」という文書を公表しています。(略)
このドキュメントには、誤解に基づいたものや、単に意見に過ぎない情報があります。 ここでの目的は、説明を追加することです。以下では、SNBの文書を再現(切り取って貼り付け)して、私たちの説明を加えます。

一般論
SNBはなぜこの政治的議論に初めて関与するのでしょうか?
- SNBが通常、政治課題に関する表明をしないことは事実です。しかし、スイスのソブリンマネー・イニシアチブ(フルマネーイニシアチブ)がスイスの通貨システムを根本的に変え、SNBの新たな任務を創出し、金融政策に直接影響を及ぼすので、ポジションを取ることを決めました。
- 一般的に言えば、SNBは、通貨システムとSNBの法的任務の履行に直接関係する政治的議論については責任を負います。そうした場合、有権者が情報に基づいた意思決定を行えるよう、情報を提供するという義務を負っています。

ソブリンマネー・イニシアチブ委員会:
有権者に情報に基づいた決定を下すための情報が提供されるべきであることに絶対的に同意します。ここの目的は、事実と意見を区別し、誤解を訂正することです。(略)

- ソブリンマネー・システムの導入は、スイスの金融システムを根本的に変革する不必要な実験になるでしょう。この改革は不確実性と新たなリスクにつながり、銀行の顧客にとってはコストを上昇させるでしょう。

ソブリン・マネー・イニシアチブ委員会:
私たちはすでに「慣習的じゃない措置」を規定した中央銀行の巨大な金融の実験の中に住んでいます:20年前に誰がマイナス金利が実現し、SNBが外国企業の株式を何十億ドルも買うと想像したでしょう?世界中の中央銀行家は、プライベートでは、もう一度金融危機が起こるかどうかは問題ではなく、(例えばアナリス・ライルの引用を参照)いつ起こるかが問題だというでしょう。次回は、中央銀行家が対処するツールが少なくなります。たとえば、プラス金利をゼロに下げることはできません。
実際にSNBが不法の水域を航行しているのに、今日の微量準備システムを「試され、テストされた」と呼ぶのは偏った理解になります。皮肉なことに、歴史的には、実際には「試され、テストされた」のは、このソブリンマネー改革だったのです。スイスでは1800年代に銀行が独自の紙幣を印刷することができました。その結果、金融危機と不安定化が生じました。 1891年に、(明らかにスイス政府と議会によって発議された)国民投票があり、民間銀行が紙幣を印刷することを禁止し、SNBがスイス全体の利益のために銀行券を発行することに投票しました。これは再び問題化したことはなく、銀行が再び紙幣を印刷することを許されるべきであるというのは馬鹿げていると思われます。
19世紀の終わりには、ほとんどの人が取引のために紙幣と硬貨を使用しました。現在、取引のためのスイスのマネーサプライの90%は、紙幣や硬貨ではなく電子通貨です。ソブリンマネーの国民投票は、SNBがスイスフランを創造するという承認された考えを銀行の当座預金口座のスイスフランまでカバーするように広げるだけです。
私たちは、ソブリンマネー改革の実施は、現在の「慣習的じゃない措置」の道を続けるよりも、スイスにとってはるかにリスクが低いと確信しています。
銀行顧客のコスト上昇について:
金利がプラスであった場合には、銀行は電子マネーを直接創造して利益を得たのは事実でした。ソブリンマネー改革の実施後は、これは「ソブリンマネー」口座ではもはやできなくなります。
しかし、今のようにゼロまたはマイナスの金利では、銀行はもはや通貨の創造から利益を得ません。したがって、今日、ソブリンマネーの導入による金融的な影響はありません。スイスの多くの銀行は、現行の口座サービスの費用をカバーするために手数料を徴収しています。これはソブリンマネー改革後も引き続き可能です。現在と同様に市場の圧力と競争は、銀行が課す金額を抑制するでしょう。
ソブリンマネー改革後は、銀行は金利スプレッドのために貯蓄者と借り手の仲介者としてお金を稼ぐことができます。繰り返しますが、顧客へのコストは競争によって抑えられるでしょう。(略)

- イニシアチブは、特に金融の安定性と紙幣発行特権(「通貨発行権」)に由来する利益に関して、非現実的な期待を高めます。

ソブリンマネー・イニシアチブ委員会:
金融の安定性に関しては、明らかにスイス国外で起こることをコントロールすることはできません。世界的な景気後退がある場合、スイスは影響を受けるでしょう。しかし、私たちは、人びとのスイスフランが銀行口座で完全に安全であることを確認できます。現時点ではそうではありません。これがイニシアチブの焦点です。今日のシステムの欠点を修正するのではなく、通貨(支払い手段)を安全にして金融システムから独立させることです。
私たちは、SNBが徐々に借金ではない資金を流通させることが賢明であると認識しているので、通貨発行から潜在的に巨額の利益を確保することを特に試みません。(略)


- イニシアチブは通貨政策の実施を複雑にするでしょう。現行制度の下では、通貨政策があまりにも拡大した場合、SNBは金利を引き上げることができます。しかし、ソブリンマネー制度の下で、どのように抑制的な金融政策(すなわち、マネーサプライの削減)が行われるのかは不明です。 SNBは、連邦、州または市民から資金を回収する立場にはほとんどないでしょう。

ソブリン・マネー・イニシアチブ委員会:
SNBは、ソブリンマネー改革の後、引続き銀行が借りられる金利を設定できます。これは、今日のケースと同様に、銀行が顧客に提供する金利、そして銀行ローンの需要に影響を与えます。ソブリンマネー改革後は、SNBはスイスフランをつくり、これを循環に投入するか、貸すことができます。SNBが、金利を直接設定できて循環の大半を貸出すという新しい「ツール」について初めて学ぶので、明らかに慎重になるでしょう。提供する金利を上げることによって、提供するよりも多くのローンが返済され、それによって循環する資金が減ります。
さらに、ソブリンマネー・システムの下では、SNBは、今と同じように外貨、有価証券、金その他の資産の購入によって新たな通貨を循環に投入させることができ、いつでも、これらの資産の売却によってマネーサプライを減らすことができます。
時間の経過とともにSNBは、連邦、州または市民に配ることによって循環の投入額を増やすことができますが、これはM1の100%になってはいけません(注:M1は現在約6400億スイスフラン)。たとえば、SNBがマネーサプライM1を半分にしたいという状況を想像することはできません。だから、M1の半分までがこのように循環に費やされることは容易に想像できます(ただし、数ヶ月ではなく年単位で徐々に)。最終的には、SNBが連邦、州または市民から資金を回収する必要があるというリスクがまったくなしに、この数値はさらに上昇する可能性があります。ソブリンマネーの提唱者たちがいつも明言してきたのは、決して取り出す必要のない循環の通貨だけが、借金としてではなく発行されるべきということです。
過去のデータを見てみると、循環している通貨を減らさなければならない年はほとんどなく、それが減った場合は非常に小さな割合しかなかったことがわかります。通常、マネーサプライはGDPの成長をはるかに超えて増加しています。
SNBは、今やっているように、公開市場操作を通じて通貨システムを微調整し続けることができます。(略)


通貨政策
イニシアチブは、SNBにより多くの権限を付与します。なぜそれ以上の責任を取ることを望まないのですか?
- 中央銀行の任務は現実的に策定されなければなりません。中央銀行はまた、その任務を果たすために適切な手段を必要とします。SNBの場合、これら両方の条件が現行のシステムで満たされています。しかし、スイスのソブリンマネー・イニシアチブは、経済の中央操縦機関に追加的な任務を課します。これは、SNBの任務の中核要素である物価安定の確保を危うくします

ソブリンマネー・イニシアチブ委員会:
SNBは、現在、物価の安定を確保するだけでなく、金融システムの安定に貢献する義務を負っています。専門家は、金融システムは安定しておらず、問題は次の金融危機が起こるかどうかではなく、いつ起きるかだということに同意します。さらに、専門家が問うのは、失敗するには大きすぎる銀行をどう管理するかではなく、救うには大きすぎたら、何をすべきかということです。現在のシステムでは、いくつかの大手銀行が困難に陥る金融危機を想像することは、あり得ないことではありません。もしそれが起これば、SNBは、キャッシュレス決済システムの機能を促進して確かなものにするという課題に奮闘するでしょう。ソブリンマネー・システムは、金融危機の中でも取引が継続できるようにします。ソブリンマネー・システムでは、よく機能する金融システムへ依存が大きく減ります。
ソブリンマネー改革後、SNBの仕事は経済の中心的な舵取り機関として機能するという説明は間違っています。 SNBは単純にエクストラなツールをもちます:どれくらいの通貨が循環に貸出されるかと比べてどれくらいの通貨が循環に投入されるべきか。前述したように、(現在のように)大部分を循環に資金を貸出し、ゆっくりと、どうやって循環に通貨を投入するかを学ぶことから始めることを提唱します。(略)

銀行システムと顧客

今日の銀行は、ローンの提供によって通貨を作り出すことができます。 SNBは銀行がこの特権を享受すべきだと考えていますか?
- 銀行が融資を行うことによって通貨(預金)を創出できるのは間違いありませんが、制約なしではありません。銀行がローンを提供するとき、その金額を借り手の口座にクレジットします。銀行は、バランスシートの資産側に債券、借り手の負債側に相対する債務(預金)をもちます(バランスシートの拡大)。この債務を通じて、預金という形式で通貨が創造されます。
- 個々の銀行は、支払取引がこれらの預金の流出になるから、預金の持続的な増加を保証するためにローンを提供することはできません。ただし、これらの預金は別の銀行の口座に振り込まれるため、銀行システム内に残ります。

ソブリンマネー・イニシアチブ委員会:
ソブリンマネー・イニシアチブを導入するという活動を開始してから、SNBがどのように通貨が循環にやってくるかの説明を変えたのは嬉しいことです。正しくないマルチプライヤー通貨モデルから、銀行がローンを提供することで通貨を創造するという正しい説明に変えたのです。
SNBが回答していない質問は、なぜ経済の中で銀行だけが唯一通貨を創造することを許されたプレイヤーで、それ以外の全員が、使う前に資金を探さなければならないかということです。(略)


SNBは、金融システムの安定に貢献する法的任務があります。イニシアチブの支持者は、ソブリンマネーが銀行の破綻を防ぎ、金融安定を強化すると主張しています。この観点から、ソブリン・マネーは有益ではないでしょうか?

ソブリンマネー・イニシアチブ委員会:
ソブリンマネーは銀行の倒産を防ぐと主張しているのではなく、むしろ逆で、他の不十分なパフォーマンスの民間企業と同じように倒産できるようになるべきですが、それが、今のシステムのように経済に壊滅的な影響を与えるべきではありません。(略)


- このイニシアチブは、主要な金融安定問題を解決するものではありません。ソブリンマネーは、銀行の流動性や支払い能力のリスクを取り除くものではなく、「失敗するには大きすぎる」問題を解決するものでもありません。この点で、金融危機以降にとられた資本要件およびその他の規制措置がより効果的です。

ソブリンマネー・イニシアチブ委員会:
ソブリンマネー・イニシアティブは金融安定の問題を解決することが目的ではありませんが、万が一金融危機が発生した場合でも、当座預金が完全に安全で、経済の正常な取引が危険にさらされることはありません。さらにソブリンマネー改革は:
・ソブリンマネー口座が「流動性」を確保するので、流動性リスクは解決します。要求があった場合に貯金者に返済するのに、銀行はSNBから資金を借りることができます。
・銀行が与信供与の際に不十分な決定をして支払い能力の問題に陥ると、他のビジネスと同様に破産することができます(でもソブリンマネー口座は完全に安全です)。
・だから「失敗するには大きすぎる」問題は解決されます:全国の決済システムの停止などのダイレクトな結果なしに銀行は倒産できます。
我々は、現在の規制措置は、大手銀行が抜け道を探せる点と、コンプライアンスのコストが急上昇しているという点で経済にとって悪いと考えています。これは、小規模の銀行に負担となり、長期的には銀行業界での統合が進み、銀行のマネージャーとの良好な関係で生き残っている中小企業が銀行セクターから受けるサービスが減るでしょう。(略)

ソブリンマネー・システムのもとでは、銀行破綻が起こりえません。貯蓄口座での破綻(貯金者が貯蓄をソブリンマネー・アカウントに変換した場合)は、銀行がSNBからソブリンマネーを借りない時にだけ起こります。貯蓄口座にはSNBによって設定された最低限の期間があるので、潜在的な銀行破綻は「スローモーション」で起こり、銀行がSNBから十分なソブリンマネーを借り入れるのに十分な時間を与えます。
銀行が(流動性の問題ではなく)支払い能力の問題に向かう場合、貯蓄の破綻の可能性はあり、貯金者が自分のお金を失うかも知れません。パフォーマンスの低いプライベートビジネスが失敗するという事実は、私たちの資本主義システムの一部です。貯蓄口座にお金を入れている人は、自分の資金をリスクにさらします(知っての上で、自由意志から)。それは貯蓄口座での金利収入で補われます。
銀行は、Esisuisseのような保険制度に加入して、顧客が貯蓄口座に資金を入れることを奨励したいと思うかもしれません。(略)

現在、取引のためのマネーサプライのわずか10%がSNBによって提供されています。これは経済に貸出すか投入するかです。 経済に通貨を投入する利益は一度きりで、通貨の額面の金額(特に新造に値する少ない製造コスト)であり、経済に貸出す通貨の利益(つまり支払い利息)は、より少ないものの継続します。
ソブリンマネー改革後は、マネーサプライの100%、今の10倍がSNBによって提供されます。これが貸されるにせよ投入されるにせよ、分配する利益が今より減るという次の数十年のシナリオを想定することは困難です。
ソブリンマネー改革後、SNBは資産(つまり外貨投資またはレポ・バランス)を保持し続けることができます。

投票日のベルン

この投票日にもスイスを訪れた。シモン氏の住むシェアハウスに泊めてくれると言うので前日にお邪魔したが、そこはベルン近郊の山の頂に近いところにあって、おそらくはベルンでも屈指に景色の良い家だった。麓の街はもちろん一望できて、そのはるか遠くまで見通せる。
そして投票日、その家に置いてあったイニシアチブのキャンペンカーに乗ってパーティ会場に向かった。メインステーションのすぐ隣にあるレストランが会場で、その日、空は澄み渡って、アルプスの山なみが朝日にくっきりと映えていた。他のメンバーにあいさつしながら会場の設営の手伝いをしているうちに、お昼近くになると徐々に人が集まってきて、200名ほどのテーブル席が埋まりだした。会場には、テレビが設置されて開票速報が流れるなか、中継のカメラもやってくる。そして、主だった人たちのスピーチが始まった。ずっと、キャンペーンのディレクションを担当したトーマス・マイヤー氏が、日本からの訪問者がいることを知って私のスピーチを機会をつくってくれた。開始直前にエノ・シュミット氏も誘ったらすぐにバーゼルを発って会場に現れた。最前列には、代表のハンスルーディ・ウェーバー氏が座る。初めてお会いしたが、ちょうどアルプスの少女ハイジのアルムおんじのような風貌をした人で、思慮深さがにじみでている印象だ。
「ほとんど役に立てなかったけど、実は頑張ってワークしました。このプロジェクトが世界で一番大事だと思うから」
開口一番そう話したら、会場から大きな拍手が沸き起こった。隣では、コア・メンバーの1人であるエマ・ドーネイ氏が日本語に訳されたリーフレットを掲げて紹介してくれた。
ほどなくして、開票速報から、結果、賛成票がおよそ25%だということが分かってくる。世論調査では、最後はやや下がったとはいえ、3割台を維持していた。スイスの国民投票では、事前の世論調査と結果に開きがあるのは、珍しいことではないようだ。会場には次第に疲れたムードが漂ってきた。このイニシアチブは、ベーシックインカムのようにたくさん寄付が集まることもなかった。市民に説明するのがとても難しいテーマで10万人の署名を集めきったことは、協力した人たちの情熱と汗と知恵の賜物だけど、資金的にも、有力なスポンサーがいない中で、コアな人たちの寄付に支えられていた。海外の資金に操られたイニシアチブだと言う噂もたてられたが、彼らは「はい、海外からも資金を集めようとしたど、できませんでした」と答えている。

気分を変えようと外に出たら、シュミット氏とマイヤー氏が話していたので、加わった。
「うーん、結局、ベーシックインカムもソブリンマネーも25%」
「新しいことを受け入れることができる人が4人に1人だと言うことだね」
「いや、自分で考えて判断できる人が4人に1人」
それから、場所を変えて主だった人たちで夕食を食べてから、シェアハウスに戻った。ルームメイトたちとテラスに集まって、結果について話す。
「たくさん恐れや不安を刷り込まれると、人は支配されるようになって、いうこと聞いちゃうんだよね。それが決して自分のためにもならないことでも」
「生まれたばかりの頃って、誰も不安なんかもってない。でも、その後の教育や、日々与えられる情報でそうなっちゃうんだ」
しばらくしてから事務局からメールマガジンが届き、びっくりすることが書かれていた。投票後に行われた意識調査では、国民のおよそ80%がスイス国立銀行がスイスフランの発行について責任を持つべきだという考えにイエスと回答していた。つまり、ほとんどの国民はこの投票で何が問われていたのかさえ理解しておらず、スイスフランはすべて中央銀行がつくっていると信じて疑っていないのだ。同時に、英語報道のマスメディアがこの投票をどう伝えたかの集計もしていたが、こちらは、おおむね公平で良い報道がされていたと関係者も納得していた。例えば、この件を一番多く取り上げたのは、フィナンシャル・タイムズだったが、ポジティブ4件、ニュートラル4件、ネガテティブ4件だった。一番最初にネガティブな意見があるものは、ネガティブに加えられたが、それでこの結果は、本当によいと言える。

通貨システムの民主化

スイスのソブリンマネー・イニシアチブをサポートして主要な文章をすべて日本語にする中で分かったことは、中央銀行だけが通貨を発行するようになったら、中央銀行が直接個人にベーシックインカムを支給して、それを経済のベースマネーとして循環させながら増えた分のマネーサプライを民間銀行への融資総額で調整すれば、基本的にベーシックインカムの原資を増税でまかなう必要はないということだ。スイスのベーシックインカムの国民投票が23%の賛成にとどまったのは、言うまでもなく想定される大増税が嫌われたからだ。でも、社会保障は税で賄うべきという固定観念から抜け出て、経済とマネーサプライ全体を俯瞰すると、答えはシンプルだと言うことに気づく。
例えば、すべての日本人に毎月10万円を配ると年間およそ150兆円になるが、これはGDPのおよそ3割にあたる。日本のマネーサプライはGDPのおよそ2.5倍もあるから、ベーシックインカムに必要な資金の10倍のマネーがすでにこの社会にはある。マネーサプライとGDPの相関については国ごとに大きな差があって、少ない国ではGDPのわずか15%で経済を回しているし、一番乖離が大きい香港では、GDPの4倍近いマネーサプライがあっても、それで激しいインフレが起こっているわけではない。いずれにせよ中央銀行の役割は物価の安定にこそあるといつも彼らは言うのだから、まず中央銀行がベーシックインカムを無条件に直接支給する。経済のコアに私企業の利益追求ではなく、人間の暮らしを置いて資金循環をおこし、その上で通貨の総量を調整して物価を安定させたら、この社会のお金にまつわる問題のほとんどは解決する。課税は経済の調整の最終手段とすべきだろう。自然は人間に無条件に生存環境を提供しているのに、人間社会が人が生きていくのに条件をつけるべきではないだろう。
まず、ベーシックインカムとソブリンマネーのイニシアチブをベースに、中央銀行によるベーシックインカムのイニシアチブ案をつくってみた。

1(ソブリンマネー)中央銀行のみが、公的かつ独立した機関として、紙幣、帳幣、および電子通貨の形で法貨を発行するものとする。取引口座にある既存の帳幣はすべて法貨になる。商業銀行の対応する債務は、中央銀行に対する債務となる。
2(ベーシックインカム)すべての個人が尊厳をもって存在し、社会生活に参加するために、中央銀行は毎月無条件にベーシックインカムをすべての個人に支給する。
3(経済の原則)経済は人間の生活を基盤とするものでなければならず、ベーシックインカムは経済のベースマネーでなければならない。マネーサプライの総額は中央銀行によって透明性をもって適切に調整されなければならず、特に、政府と相談して貸付額と課税額を調整することによって物価を安定させなければならない。

この件について、まずは台湾でベーシックインカムの普及活動をしているグループにプレゼンテーションしてみた。経済学者も参加してかなり突っ込んで討論したが、どうやら穴がなさそうだということになった。スイスでエノ・シュミット氏とも話したが、興味深いから話合いを広めようということになった。そして、イタリア、グリッロ氏は「情熱もってサポートする」とブログに投稿させてくれた。今後、どう展開していくか、相談しながらじっくりと取り組んでいきたい。イタリアでは遠くない将来に国レベルの市民イニシアチブが導入されそうだし、EUでは2012年に欧州市民イニシアチブ(ECI)が導入され、100万以上署名が集めらた事案に対して、欧州委員会の対応が義務付けられている。不完全ではあるが、国境を超えた市民イニシアチブもすでに始まっているのだ。
私たちは、今の通貨システムは、自然発生的にできたもので変えることはできないと思っている。しかし、集団幻想としてそう固く信じ込むようになってから決して長い時間は経っていない。原始の物々交換の時代を経て、ものの交換手段として硬貨が広く普及し、やがて紙の通貨が生まれ、そちらの方がより交換に適しているからたくさん使われるようになった。そしてそれらを預けて、大きな事業のために金利をつけて貸し出す仕事をするために銀行が生まれた、私たちは、漠然とそう思っている。社会が自然にそう発展してきたと。しかし、現実はそうではない。商人たちがモノをやり取りする際に、帳簿上の貸し借りをした。そしてその貸し借りを信用として融通させた。やがて、信用供与と決済だけを分離して担う銀行が生まれた。かつて王は基本的に硬貨の鋳造権を独占し、その価値を決めることで利益をあげながら、交換の媒体を提供した。しかし、金属に実用性があってそれ自体に価値があるために、他の材料に使われたり、量に限りがあることが問題だった。王が戦争を行うためには、こうした大商人や銀行から借金をするしかなくなり、やがて徴税権を担保に借金をしても、追いつかなくなっていった。こうした中で中央銀行が構想され、政府の借金の多くを担うと同時に、銀行券を発行して決済手段として流通させ、それを独占していった。やがて、銀行券の裏付けとして金を採用することでそれが統一された絶対的な価値になり、そのイングランド銀行のスタイルがスタンダードとなって、世界中に広まっていった。そうして、私たちは、通貨が変えられない自然物で、それに振り回されて生きるしかないという共同幻想を世界中で共有したのだ。一方で、商業銀行はずっと自分たちの利益のために貸付金として通貨を無から発行し続けてきた。利益を求めて貸し付けた結果が経済となって現れるけど、それは、「神の見えざる手」という経済学の前提となった言葉にうまく隠れた。どこに向かうかわからない個人の欲望の総和が今の経済だから適切に調整するのは困難なもの・・・という共同幻想もつくられた。結果として、本当に人間社会にとって本当によい通貨システムはどのようなものかと考えることを誰もしなくなっている。
パブロ・ソト氏がいうようにテクノロジーはゲームチェンジャーではない。ブロックチェーンによって決済の仕組みが進化しようが、さまざまな仮想通貨が生まれようが、通貨発行の原則を民主的なものにしないかぎり、今の社会は良くならない。お金に振り回される、支配される社会の構造はそのままだ。そうではなく、お金を私たちの暮らしのツールとして位置付けて、どうしたらよりよく機能するかを一人ひとりが考え、話し合い、大きな合意をつくっていくしかないのではないか?


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