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アルファポリスのおすすめ時代小説を勝手にピックアップ

 米国東部は先週寒波に見舞われ、当地でも雪となりました(10センチくらい積もったでしょうか)。ほぼ丸々一週間休校となり、息子は大喜び。友達と毎日のように雪遊びに興じていました。ここ数年暖冬続きで積雪がなかったので、久々の冬らしい冬になったという気がします。

 さて、今日はアルファポリスの歴史・時代小説作家さんを勝手にピックアップいたします(ご迷惑でしたらどうぞご一報のほど…汗)。 
 まずは、以前取り上げたことが何度かある夢酔藤山先生(プロ作家さんです)。夢酔先生は重厚な長編歴史時代小説のみならず、短編や掌編も膨大な数お書きになっておられますが、新作がとても楽しいのです。
 下記二作は連作短編で、コミカル・ダーク・ユーモアを一緒くたにしてガラガラポン!した感じが堪りません。
 『魔斬』は、昨年のオール讀物歴史時代小説新人賞で中間審査まで残った後、加筆掲載なさった作品。

 魑魅魍魎が跋扈する江戸。公儀の死刑執行人で、「首切り浅右衛門」と呼ばれる山田浅右衛門の裏の顔は、魔を斬り払う「魔斬」。関東長吏頭・浅草弾左衛門とタッグを組みつつ江戸の闇を斬る、浅右衛門の活躍を描く物語です。 
 本作でまず仰天したのがですね…

オール讀物歴史時代小説新人賞に(ダーク系)ファンタジー小説を応募する方がいるとは夢にも思わなかった。

…という点(他意はなく純粋にびっくりしました)。
 控えめに言って魂消ました。そして一次を通ったということに、二重に魂消ました。時代は変化しているんですね…。
 主人公の設定や絡んでくる事件や人物からして、それを持ってくるんですね!?この人登場させていいんですか?という風にひたすらアイデアが楽しい。毎回四季折々の江戸グルメが登場し、趣きある乾いた筆致でおどろおどろしく妖しい江戸の雰囲気がたっぷり味わえ、最後に切なく苦い余韻が残る。一粒で四度くらい美味しい、回を追うごとに中毒性が増す大人向け(アダルトという意味ではなく)ダークファンタジー、おすすめです。
 現在第7回キャラ文芸大賞にもエントリーなさっておられます。ご健闘を心より応援しております。

 もうひとつ。夢酔先生の異才が際立つ連作短篇がこちら。

 安政の世と令和の世を重ね合わせる発想もさることながら、スタイルがもう異色です。だって第一話の主人公は「アマビエさま」なんですよ…

 アマビエさまですよ…?(大事なことなので2度言います)

 いまだかつて、時代小説にアマビエさまが主人公で登場したことなんてあっただろうか。しかも一人称で(しかも可愛い)。
 しかしキャッチーな物語の奥には鋭く深い時代認識があって、各話ごとにそれが確実に読み手の中に積もっていきます。時代小説にはこんな可能性があるんだな、と目から鱗がぼろぼろと落ちること請け合いです。ぜひ、読んで驚いていただきたいです。 

 それと、こちらはアルファポリス掲載ではありませんが、武田二十四将の一人、小山田信茂の生涯を描いた大長編の『光と闇の跫』、素晴らしいです。端正で品格ある文体に、血生臭さと侘しさとがまとわりついているといいましょうか。戦国の世そのもののような筆致に圧倒される大作です。冒頭の勧進能からもう引きずり込まれること間違いなし。大長編なのでじっくりと味わってお読みいただきたい作品です。


 続いてご紹介したいのがこちら、尾方佐羽様。尾方様の膨大な知識と探求心にはとにかく圧倒されます。noteの記事を見ていただけば見て取れるのですが、多岐に渡る知識とご興味が圧巻。公的・私的機関を巡って地道に資料を集めることはもちろん、コツコツ足を使って現地まで情報を集めに赴く姿勢がすごいのです。
 私がずっと拝読しているのがこちら。『16世紀のオデュッセイア』。

 16世紀の世界を旅した人物に焦点を当てながら、その旅と人生を丹念に綴っておられます。遥か遠い人物の魂の奥底までも手を伸ばし、思想の核に触れようとする真摯な姿勢には心打たれるばかり。第一章はチェーザレ・ボルジア、第二章なんてフランシスコ・ザビエルが主人公。あまりにも巨大で、人物像などまるでイメージしようもない偉人たちですが、この物語で描き出される彼らの姿のなんと複雑で奥深いこと。
 苦悩し、学び、立ち向かい、愛し、傷つき、また立ち上がり…魂の旅路を一緒に辿るうちに、彼らが辿り着く光景に涙せずにはいられなくなります。170万字を越えてなお続く超大作です。ゆっくりゆっくり読んでいただきたい作品。

 尾方様は西洋歴史小説のみならず、日本が舞台の歴史時代小説もお書きになります。備後福山初代藩主・水野勝成の人生にスポットを当てた『天下無双の居候 六左衛門疾る』は、知識量と確かな筆致に圧倒されます。

 その続編にあたる『福山ご城下開端の記』。福山城築城と城下町づくりを描いた作品。藩一丸となって町作りに邁進するリアリティ溢れる様子と、豊かな人間ドラマに胸があたたかくなります(実は『天下無双の居候』よりもこちらを先に読んでしまったんですが、それでも楽しめる面白さです)。


 最後におすすめするのは長髄彦ファン様。長髄彦ファン様は著書に『邪馬台国近江説』(サンライズ出版)もおありの歴史研究家(古代史)でおられます。アルファポリスとnoteにて、紀元前の日本を舞台にした時代小説を執筆していらっしゃいます。
 『東へ征け─神武東征記─』は日本書紀を下敷きに、初代天皇として即位する磐余彦(後の神武天皇)と仲間たちの建国神話を描いたもの。

 神武東征、そういえば日本史の授業で習ったような…というほど日本書紀には馴染みがなかったのですが、読み出した途端門外漢の気分が吹き飛びました。
 読みやすく端正な筆致で描き出される、神代の日本のなんと色鮮やかなこと。キャラクターの生き生きとした造形からは、神話の時代の登場人物とは思えない体温や息遣いまで伝わってくる。磐余彦が最大のライバルとなる出雲王(長髄彦)と出会う冒頭が、もう魅力に溢れています。神話の解釈も非常にユニークで、想像力を駆使したエピソードの数々が物語に豊かさと奥行きを与えているのを感じます。それと同時に、この時代の地理、文化習俗、あるいは地域ごとの技術レベルまで網羅した膨大な知識が圧巻。全方位隙のない、リアリティを追求した描写はさすが歴史研究家…と圧倒されるばかりです。

『銅戈の眠る海─神武東征外伝─』はスピンオフエピソードで、こちらも大変生き生きとした描写に引き込まれる作品。長髄彦ファンさま、海の描写がたいへん上手くておられる…と個人的に思うんですが、その魅力がここでも遺憾なく発揮されています。

 この時代を舞台にした時代小説は、時代があまりにも遠く隔たっていて馴染みが薄いためか、執筆する人も少ないのではと思います。が、実はこれほど想像を掻き立てる時代も他にはないのかもしれません。
 ぜひ磐余彦たち一行とともに、古代日本の海や山、森を越えていく長い長い旅に出ていただきたいと思います。荒々しい波音と潮の香り、緑の滴りと風の感触、人との出会いと絆、そして別れ、それらが織りなす壮大な物語。清々しい感動を味わえること間違いありません。

 日本も各地で雪となっているようですね。どうぞ皆様あたたかくして、安全にお過ごしください。

雪の合間の空がドラマチックでした


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