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昆虫図鑑がすきだったあの子_vol.2

※この記事は初回の続きになります。
 初回は以下からぜひ読んでください!

はじめてその子を見て以来、じわじわと興味を抱くようになった。

その変わった子は、ワタルという名前のようだ。でかでかと名前が貼られた机から判明した。この時ばかりは主張強いのも悪くないと思った。
でも、それ以上の情報はわからなかった。友達に調査を依頼するのはなんだか楽をしているようで聞けず、7才探偵の調査力はあまりにも微力に終わった。

なんでいつも図鑑をよんでいるのか?どこに住んでいるのか?何の食べ物がすきなのか?
自分の教室に戻ってからも、謎多き図鑑少年:ワタルくんについてを考える時間と興味は比例して増えていく。とにかく知らないことがたくさんある。
頭の中でひとりぐるぐる考えるが、答えはでないままだ。

話すチャンスはワタルくんの存在を知ってから約1週間後に訪れた。
いつものように、休憩時間に友達と話そうとひとりで教室に入った際、そこに友達の姿がなかった。一方で、ワタルくんは時折、クラスの男の子とも笑って話しつつも、その手には何十回と触れたであろう昆虫図鑑がある。彼は自分の世界観を保ちながらも、他者とも交流ができるようになっていた。

クラスの男の子たちが離れた段階で、意を決し彼の机の前に行き、
「ずかん、すきなの?」と声をかけてみた。
ワタルくんは一瞬驚いた様子で見上げたが、そのあと笑うと三日月になる目とこちらに向けて
「うん、すきだよ。これ、お父さんが買ってくれたんだ」
と答えた。
覚悟は決めたものの、思いがけずちゃんと会話ができていることに頭が真っ白になってしまった。私は思わず「へぇ~」という興味なさそうな返答しかできず、そのタイミングで教室に戻ってきた友達からの呼びかけもあり、キャッチボールは1回で終了してしまった。結局、ワタルくんは唐突に見ず知らずの女の子に一方的に話しかけられ、素っ気ない反応をされるトホホな展開となったのである。

トホホな思いをさせた張本人の私はというと後悔に苛まれていた。『図鑑がすきなんてみりゃ分かることを聞いちゃったよ。私が聞きたいのはそんなことじゃないのになぁ。』と猛省し、次回は名前を知ってもらうことを心の中で誓った。

そんな矢先、私は運が強いのだろうか。この事件の次の週、年1回の催しである遠足の班が発表され、なんと同じ班にワタルくんがいたのだ。まさに棚からぼたもち的チャンス到来。
こうして自己紹介の機会を強運でつかみ、そこから私はワタルくんの昆虫図鑑好き以外の側面を知っていくことになる。(続く)

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以下、続きのvol.3です!


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