だるい花粉の嵐に 四月がくしゃみで消え飛んだ 遠くで聞こえる踏み切りの音 汗ばむ街の匂いを連れた西陽が 黄ばんだカーテンの裾から 滲み出る 風に吠える若い犬と 冷たい春 時代のコントラストは やさしさと傷痕で成されて 同じ顔した人は 同じ血を巡らし 濡れた体を遊ばせる 路面に咲く季節を蹴飛ばして、往く 毎日早起きしても 僕は朝日を知らず 黴臭い畳の上で体液を零すだけ 宇宙を作ってはこわす この腕を だらりと床に落とし ただ死なないだけの 僕が生きている くしゃみが出て 脂
チェーン店のファミレスで 胸の小さなウエイトレスが僕に寄る しばらく僕は、目を逸らしながら考え込み ドリンクバーを頼んだ 冷たい言葉をたくさん選んでも 心の中までは冷やせなかった そびえ立つ妥協の壁に 安くて苦くて熱いコーヒーをぶちまけた 泥水みたい ねえねえと甘ったるい声で彼女 ねえ、ねえ、湿っぽい関係を続けられるなら 誰かの尺度で生きるのも楽しいのかもね しがない日々にロマンスは要らなかったと、 国道沿いで立ち止まる うねる前髪に積もる冬の夜 自意識だけが溶けずに残る
14歳、15歳。 ニキビ面の思春期真っ盛りだったあの頃、 僕は北海道の田舎の町で鬱屈した日々を過ごしながら、音楽を聞いていた。 僕は音楽が好きで、読書が好きで、 流行ってるとか 皆が聴いてるとか読んでるとか、そんなことはまったくどうでもよくて、自分が好きだと思ったら胸を張って好きだと言っていた。 音楽は90年代のロック。 94年生まれの僕にとっては、自分が生まれる前後の時代の音楽。 スピッツが一番好きで、あれから15年ほど経った今も変わらない。スガシカオやミスチルや、イエ
歩くことが好きである。 散歩好きである。 人より些か悠長な性分で、マイペース、のんびり屋だった。 そう言えばまだ聞こえはいいかもしれない。 が、この性格は同時に、要領が悪かったり、効率的に考えることが苦手だったり、周囲のペースに合わせることが難しいという面もある。 仕事やコミュニケーション、団体行動など、あらゆる場面でイライラされたし、たくさん怒られてきた。 なかなか苦労の多い性格で、治そうと思っても難しい。ぶっちゃけ生きづらい。 どうしてみんなそんなに要領よく、器用に
街角の低気圧と鉢合わせて 今日の私は アルマジロ のんべんだらりと 生きていたら バス停のとこに 君を見た気がするよ あれって夢だったのかな そんな時でも君は 後ろ姿なのね 人が死んだニュースを見たとき 安吾の文庫を手にとって 新しい気持ちに堕落した Xの中に 埋もれた自由を 真っ当してるだけで、可笑しいかしら 新月と三日月の間の頃に セーラー服を翻し、 スニーカーの踵を踏んだら 無灯火で自転車こいで 君に会いに行くの 闇の雲間にさした 明かりの魔法で 私はとても可愛くて
今日の文学案内は、 宮本輝の『道頓堀川』です。 あらすじ解説 ※軽いネタバレ有り舞台は高度経済成長期の大阪、ミナミの歓楽街、道頓堀川界隈。 主人公は両親を早くに亡くし、喫茶店「リバー」に住み込んでアルバイトをしている学生、邦彦。絶賛就活中だが、書類選考で落ちる日々が続く。 金なし、コネなし、彼女なしの彼の生活は、孤独と哀愁を帯びている。 そんな彼を優しく見守る「リバー」のマスター武内が、もう一人の主人公。 温和な印象を持つ武内だったが、かつて家庭を顧みずに玉突き(ビリヤー
2018年、5月。深夜。 僕はその日、行くあてのない浮浪者同然で、背中を丸めて梅田の薄汚い路地裏にしゃがみこんでいた。 建物と建物の間に挟まれた暗い路は、飲み屋のダクトから吐き出される油の臭気と熱気に満ちていて、僕の額に嫌な汗を浮かばせる。あちぃ、くせぇ。 目の前の通りを、茶髪にスーツ姿の男たちがゲラゲラと笑いながら通り過ぎていく。あれはホストか何かだろうか。 ああいう人たちって、どんな生活をしているんだろう。金と欲望の渦巻く夜の世界に生きて、きっと普通ではない感覚がある