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【聞いてみた企画】南部鉄器の工房「及富」の菊地さんに聞いてみた!南部鉄器の魅力とは?


こんにちは、着物コーディネーターさとです。

みなさんは「南部鉄器」を知っていますか?
私は、子供の頃に祖母の家に南部鉄器の風鈴があって、
漠然と「おばあちゃんちにある懐かしい雑貨」だと思っていたんです。

しかし、そんな私の記憶を塗り替える出来事がありました。
Twitterで南部鉄器の工房「及富」さんの、
この商品がめっちゃバズっていたのを見たのです。


「ん!?南部鉄器って、こんなにモダンなのあったの!!?」
と度肝を抜かれました。
菊地さんのTwitterでは他にも色々な商品が紹介されているのですが、
中でもビックリだったのが南部鉄器のエフェクター…!


バンドが好きなのでついワクワクしてしまいました。


今回は、そんな「及富」の菊地さんに、
南部鉄器の素朴な疑問や、伝統とこれからの未来の事まで、
色々なお話をお伺いしてみました。


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南部鉄器工房「及富」の菊地さんに聞いてみた!南部鉄器って何ですか??


鉄器そのものの歴史は、紀元前からずーっとあるもの。
歴史の教科書に「鉄器時代」という時代も登場しますよね。
人類にとって、鉄器の存在はそれだけ身近な存在だとも言えると思います。


質問【南部鉄器はどうして鉄製なんですか?】

ー南部鉄器として、今日知られている鋳物のルーツについて簡単にご紹介しますね。
岩手県で栄えた鋳物の歴史は、大きくわけて2か所の産地があります。
1つは盛岡市、そしてもう1つは、私が現在活動している奥州市です。
その2大産地には砂鉄や、鉄鉱石の産出する土地でもあることから、
鋳物の職人を招いて生産拠点として繁栄した歴史があります。


鋳物の歴史をすっごく簡単に説明すると、
平安時代に中国経由で日本に流入し、その後日本の各所で生産が始まったそうなんです。(出典:川口鋳物工業協同組合HP)

岩手県HPのいわてお国自慢によると、
京都から釜師を招いたり、近江から鉄器職人を招いたりされたそうで、
外部の技術を意欲的に取り込んで発展してきた歴史がある事が伺えます。

ちなみに、
鉄器=鉄の道具や器具の事
鋳物=鋳型に流し込んで作られた製品の事です。
お恥ずかしながら、私は改めて誰かに解説を受けたことがなくて、
フワっと「鋳物ってああゆう製品の事だよね…」と思っていました。
そして、自分で調べて初めて知りました…


質問【岩手県は北部なのに、なんで「南部」鉄器なんですか?】

これ、本当にすごく素朴な疑問だったんです!!!

「南部」と聞いて想像するのって九州とか沖縄じゃないですか…
私が南部鉄器と最初に接したのが子供の頃だったのも理由の一つですが、
南部鉄器が岩手産だと聞いて、すごくビックリしたんです。笑

ー上でご紹介した産地の1つ、盛岡市には、かつて戦国時代に「南部」という名前の殿様が治めていました。
南部藩という領地があり、そこで地場産品として南部の殿様が鉄器をつくらせたことから、南部鉄器と呼ばれています。

私みたいな勘違いをする人は少数派かもしれませんが、笑
南武鉄器の「南部」は南部氏という殿様が由来だったんですね。

現代、岩手県と呼ばれている地域の藩政にご興味のある方は、
よろしければ岩手県文化スポーツ部文化振興課HPをご覧になってみて下さい。



質問【鉄瓶のブツブツにはどんな意味があるんですか?】

これも私の素朴な疑問です。
南部鉄器の鉄瓶と言われて真っ先に思いつくのが、
あの「ブツブツの鉄瓶」なんですよね。
でもなんでブツブツなのだろう…ってずっと思っていたんです。

-鉄瓶のブツブツとした模様はアラレと呼ばれています。
「霰」模様については諸説ありますが、機能として鉄器本体の表面積を増やす目的があり、蓄熱性、保温効果を高めます。
また、大仏の螺髪などにもみられる模様にもにていることから、仏教的な意味合いもあったのではないか?と個人的に推測しています。


「霰」という伝統文様は、着物の図案としても浸透しているのですが、
着物だと、江戸小紋と呼ばれる着物によく使われています。
南部鉄器のブツブツも「霰」なのは知りませんでした!!


そんな鉄瓶のブツブツをそのままに、
及富さんではこんな素敵なデザインの鉄瓶も作られています。


質問:南部鉄器の鉄瓶はどのように製造されているのですか?

ー鉄瓶の作り方には2つの製法があります。型の作り方による違いです。

1つが「生形(なまがた)製法」
砂を用いて砂を金型に圧縮して鋳物のための型をつくり、そこに鉄を流し込むことによって製造をします。

そしてもう1つは「焼き型製法」と呼ばれます。
これは土を用います。
土に水分を含ませた状態で、ろくろを回すように型を作っていきますが、
あくまで鉄を流し込むための型ですので、実際には焼き物をつくるようにするのとは真逆で、へこんだ型を作っていきます。
その型に対してヘラを用いて、模様を一つ一つ押していき、
最後に型を焼き固めて水分を飛ばすことから、焼型とよばれます。

これによって作られた型の製造には一人の熟練の職人によって1日がかりで製造されますが、
1~2回で壊れますので、量産には向かない製法です。

また、それぞれの製法の特徴として価格の差が挙げられます。
生形:1~3万円(量産性が良い製法)
焼型:3~20万円(
希少であり製造できる職人が少ない)


及富さんのHPや、菊地さんのTwitterでも、
アツい写真と共に製造工程が紹介されています。(鉄器だけに)


そして、製法によって価格がこんなに違うんですね!!
全く知らなかったので、すごくびっくりしました…!


南部鉄器の使用方法について


私はまだ南部鉄器の鉄瓶や急須を持っていないのですが、
及富さんの商品が素敵過ぎるので、
実はずっと欲しいな、欲しいな、と思っていたんです…
という訳で、
使用方法やお手入れについても、質問攻めさせていただきました。笑

 
質問【南部鉄器の鉄瓶はヤカンと同じ用途で使っていいんですか?】

ー鉄瓶は、かつて日本庶民や、武家、茶人など、あらゆる階層で親しまれていました。
現在のようなキッチンがないころから使われていたものです。
火鉢や、囲炉裏にかけて使われており、お湯を沸かすだけではなく加湿の目的にも使われていたと聞きます。
現代においては、ヤカンと同じように水を沸かして使うのが主な目的です。

使った後にお湯を捨てて乾燥させておけばOKなのだとか。
思っていたより、気を遣わなくて済みそうだな、と思いました。


質問【南部鉄器の急須は、お湯をわかすのとお茶を入れるの、同じ急須でやっても大丈夫ですか?】

ーはい、問題ありません。
ただし、鉄分が溶出した水を使ったときにお茶の味が変化しますので、
急須として使用する際は内部を釉薬でコーティングした鉄器急須を好まれる方もいらっしゃいます。


及富さんのブログに、こんな記事もありました。
内部がツルテカしている急須は火にかけたらダメ!との事です。
用途によって色々な工夫がされているんですね…!



質問【鉄分補給ができるってホントですか?】

ーはい、溶け出した鉄分は数値としては微量ではありますが、人体にとって取り込みやすい鉄であると言われています。
二価鉄、三価鉄などと学術的には言うようです。
特に女性は鉄ミネラルが不足しやすいことから注目されてきており、
最近では産婦人科の医師が病院で推奨していたり、などという例もあります。
また、カンボジアでは国民が貧血の問題に苦しんでいることから、
鉄の形をした魚が発明され話題を呼びました。
これを調理の際に投入することにより、改善されたということです。


及富さんではこんなグッズも取り扱っていらっしゃるのですが、
アマビエと一緒に沸かしたお湯、
なんか他にも色々なご利益がありそうですよね。笑


菊地さんが仰っていた鉄の魚というのはこれのこと。
ラッキーアイアンフィッシュと呼ばれているんだそうです。


質問【火で加熱したら持ち手も熱くなりますか?】

ー持ち手も熱くなります。
そのため、ミトンや手ぬぐいなどを用いることを推奨していますが、
麻ひもを巻いたり、革を巻いたりなど、お客様それぞれで工夫されてカスタムされていることもあります。



以前、菊地さんがTwitterにこんな投稿をされていたのですが、
自分でカスタムするのも楽しそうですよね!
南部鉄器は経年で表情に変化がある道具なのだそうで、
そういった意味でも楽しそうです。

ちなみに、IHでも使えるんだそうですよ。
これも、菊地さんのTwitterをフォローしていなかったら知らなかったかもしれません!



及富さんのYoutubeチャンネルでは、レシピ紹介もされているのですが、
お米を鉄瓶で炊くの、すごくおいしそうでした…!!
(もののけ姫のジコ坊が、鉄鍋?鉄瓶?でお米を焚いてるシーンあって、それを思い出しました)
これは是非試してみたいです。すごくおいしそう。


受け継ぐ伝統とこれから在り方への挑戦


こうしてSNSなどでの発信を見ていると、及富さんが色々な工夫をされているのがよく分かりますよね。
特に私が毎回感動するのはデザイン。
「南部鉄器」と聞くと定番のツブツブのある鉄瓶を想像するのですが、
及富さんでは伝統を受け継ぐことと革新をすること、
どちらにもチャレンジされているように感じます。


質問【及富さんはどうして定番の鉄瓶以外の商品を作り始めたのですか?】

170年以上この仕事に取り組んでいる家系ではありますが、
さらに深く歴史をたどると、この土地では900年以上の鋳物の歴史があるようです。
そうすると、定番の売れるものだけではなく、職人といいますかアーティストとしての性が内なる声をあげるわけなんですね。
それが一番の理由です。


及富さんのオンラインショップの商品ラインナップを見ていると、
「洗練された日用品」としてのプレゼンがすごく上手だなぁと感動するのですが、
その理由がこれって言うのがまたかっこいいですよね。


してそのハートの発露がこちらの写真の鉄器達です。
かっこいいですよね。(2回目)
こちらを作られたのは菊地さんのお父様だそうですが、
受け継がれるスピリットを感じます。


質問【及富さんの商品、特に「令和」の急須や「スワローポット」など、現代の生活にも合う素敵なデザインだなぁと感じます。
こういった商品は、どんな物事をヒントに作られているんですか?】

ー伝統という名前で仕事をしていますと、どうしても守り伝えることが日本では価値観の最も重要なところを占めますが、私たちはそう考えていません。

日常における感情の動き、喜怒哀楽によって多くの芸術家が詩を書き、絵を書き、音楽を奏でたように、
私たちの鉄器もそうあるのが自然ととらえているためです。
私が美しい・カッコイイと思うのはこれだ、というのは誰しもが持っているし、ニュースにも心を痛めもする。

そんなときに、自分が鉄器という素材の中で何を表現して世の中の現代と関われるかを常に考えますし、
ただ新しいものをつくるだけでなく、古典からの引用と、未来がどうなっていくかという時間軸を俯瞰してとらえて作ることを心掛けています。


及富さんの鉄器は、確かにとても洗練されているのですが、
「手の届かないもの」
という印象を受けないの不思議だったんです。
この答えを見て個人的にとても納得しました。


南部鉄器が直面している危機、産地偽装品問題


最近、中国のニュースサイトで、
オンラインショップで中国産の鉄器を日本製だと偽り、
販売していた商品の販売業者が摘発されたと報道されていました。


菊地さんのTwitterでも、
中国製品の商標侵害について話題にされていたことがあり、
その時もかなり多くの方が関心を寄せられていました。


この件に関しては、「中国vs日本」のような、シンプルな対立構造にして解釈してしまうと、見落としてしまう点がたくさんあると感じ、
その点を掘り下げてお話をお伺いしました。


質問:具体的に、中国製品と本物の南部鉄器には、どんな違いがありますか?

ーまず、製法の違いがあげられます。
ロストワックスという製法で書いているものは南部鉄器の製法とは根本的に異なるため、見分ける一つになります。

また、多くは私の工房を含め、すでに岩手県の数あるメーカーが作ってきたものをそのままコピーしたものでもあり、蓋のツマミのみ形を変えているのが特徴です。
これは一般の方にとっては見分けがつきにくいかと思いますが、蓋の部分の質感が「おや?」と思う商品が多いです。

作り方が総じて、いかに安くたくさん作るかに重点が置かれているように個人的には感じてしまいます。
工芸品というのは美術品、蒐集品でもありますので、
それを持つことによっての財産としての価値も損なわれます。


前述した製造方法の項目にも少し登場したのですが、
南部鉄器は砂で作った型に高熱で溶かした金属を流し込みます。
しかし、ロストワックス製法の場合は、
まず、ロウで原型を作り、その周りを砂や石膏などで覆います。
その後に加熱してロウを溶かし、それを型として使用します。
なので、Lost(=なくなる)Wax(=ロウ)という名称なんですね。

そのため、製品には菊地さんがお答えくださったような差があり、
根本的に南部鉄器とは違うものなんです。
つまり、ロストワックス製法の南部鉄器は存在しません!
現状はこれを覚えておくと、予防になると思います。

もうひとつ補足させていただくと、
ロストワックス製法は高額な金型などを使用しなくてもいいので、
イニシャルコストをかけずに鋳物を製造できるという大きな利点があるんです。
今回のケースでは産地偽装品に使われてしまいましたが、
ジェットエンジン用の部品なんかもロストワックス製法で作られているんですよ。
太陽パーツ株式会社のHPに簡単な解説が掲載されていたので、
ご興味のある方は是非ご覧になってみて下さい。


質問【このような例は中国だけなのでしょうか?】

ー中国だけが問題なのではなく、それを仕入れされる方が日本製として販売されるケースもあります。
また、欧州の会社がこれと似た鉄瓶をつくるようにと写真を送って、
中国のメーカーに指示しているということも目の当たりにしたこともあります。


中国で製造され、タオバオや天猫、
さらにはAmazonでも販売されるに当たって、
製造している人や、販売している人が、個々にそれらに携わっている訳がないんですよね。
菊地さんからお話をお伺いし、
こうした構造の問題にも目を向けて、根本的解決をはかっていきたいと強く感じました。
産地偽装品は買わない事。
まずはこれに尽きると私は思います。

また、オンラインショップの場合は、よく見ると産地偽装品だと分かるそうです。
見分け方のポイントも教えていただきました。

①説明欄に使われている日本語の文章や漢字が、日本の常用漢字ではない、
など、よく読むと違和感のある説明である場合が多い
②価格が安すぎる(数千円ほど)
③工場やブランドのホームページが存在せず、送り主の住所が日本ではない


だそうです。
また、工房の名前で調べてみるのもよいと思います。
及富さんをはじめ、現在では工房が個々に通販サイトを運営しているケースも多々ありますし、
作り手から直接買うのが一番安心だな、と個人的には感じます。


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「伝統」と聞くと、ちょっとハードルが高く思えてしまったり、
「でもお高いんでしょう?」と思ってしまうこともありますよね。
なんとなく自分には馴染みがないハイソな物に感じてしまったり。

しかし、私はSNSで日々発信される菊地さんを見て、
「高尚な文化だから守って継承していこう」みたいに思う気持ちがすっかりなくなりました。
だって、シンプルにかっこいいじゃないですか。
かっこいいからこそ、これから先も存続して欲しいし、
素敵だからこそ、自分の手元に欲しいと感じました。

菊地さん、このたびは貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、
本当にありがとうございました!


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