見出し画像

【着物コラム】「着物に流行り廃りはない」はウソ?


こんにちは、着物コーディネーターさとです。

「着物には流行り廃りがない」
「だから長い期間着ることができる」

こういうセールストークめいた言葉、聞いたことありませんか?

呉服屋さんでお買い物をした事がある方は、
もしかしたらよく聞く言葉かも知れません。
私は個人的に、これらの見解って
販売している側にすごく都合のいい見解だなぁと思うんです。


画像2




私はアンティーク着物と呼ばれる、
戦前を中心として昔の着物が好きです。
アンティーク着物って現代の着物と並べると、明確に違いがあります。

本当に流行り廃りがゼロなら、こういう事って起こらないと思いませんか?
何が違うかと言うと、図案のデザインの方向性や色彩ですね。
アンティークと称される着物は、昔のものだと100年近く前の着物です。




こちらも昔の着物です。
袖の長さもだいぶ長いですよね。
戦前って仕立てのルールが曖昧だったんでしょうね、
各家庭で自家製造もしていた時代ですし。

私個人的には、
2020年現在、新品として流通している着物とは大分違うな、と思います。
根本的に社会の在り方も違いますし、それに伴って服も変化があるのが当たり前ですしね。
「流行廃りがない」と断言するには、無理があるように私は思います。
振袖なども、ここ10年くらいで随分変化があったように見受けられます。




振袖の変化については、
上記のリンク先の記事でもうちょっと掘り下げています。

では、なぜ「流行り廃りがない」のが売りのはずの着物が、
このように変化しているにも関わらず、
冒頭で述べたような
「販売する側に都合の良い見解」が出来上がったのでしょう?


敗戦後、着物は「人生の晴れ舞台に着用する礼服」として営業展開され、
1982年(昭和57年)に売上のピークを迎えます。
(この辺の売上推移は、経産省の和装振興研究会の報告書が、
ネットで閲覧可能な使用の中では確実な情報かと思います。)

1982年の女性の平均結婚年齢って25.3歳だったんだそうです。
(出典:内閣府 平均初婚年齢の推移)
20歳で成人式、25歳前後で結婚、その後出産…
っていう人生を歩む女性の比率が高かったのだと推測できます。
人生で何回も着る用事があり、
かつ、平均的なライフプランに合っていた訳です。

人生に何回も着用する機会が少なくともこの時代にはあったわけですよね。
「流行廃りがない」の前提は、このくらいの時代のライフプランに設定されているのではないでしょうか?

2020年時点での現状だと、結婚する年齢ももっと上がっているし、
20歳の成人式で振袖を着用しない女性も増えていますよね。
もし着用していたとしても、
ハタチの時に購入した振袖を30歳近くなってから着用する。
「可愛らしすぎて気が引ける」
と思う人が増えても無理はないと思います。


画像3




「流行り廃りがない」と断言できてしまう要因は、
着物という衣服の「型」にもあるかもしれません。
洋服の場合は「型」は流行に左右されますよね。
スカートやパンツの丈、肩幅など、
その年によって微妙に変更して売り出すのが、現代のアパレル産業の常識でもあります。

でも、着物にはそれがありません。
着物という衣服は型が結構ガッチリ決まっています。
(最近はフリルのついた着物などもあるそうですが、
それでも基本の型はあまり変更していないと思います。)

それによって「洋服と比較したら」確かに流行り廃りを感じにくいかもしれませんね。
特別な趣味などがなければ、着物を着用する機会も「成人式」や「結婚式」くらいですから、
なおさら感じにくいかもしれませんね。

でも、よくよく順を追って考えれば、
着物の売上のピークの時代からこういった「販売する側の都合」で考え出された「常識」が今も常識として通用してしまうのって、
着物という衣服が社会に合わせて変容することなく、
停滞してしまっている事の裏返しでもあると思うんです。


私は大きめの声で言いたいです。
着物、流行り廃りありますよ!!
色彩や図案も時代によって変化しているし、
振袖なんかの傾向も毎年微妙に変化しています。

でも、それでも合わせる小物や帯によって雰囲気を変えたり、
着付けやヘアメイクによって変化させる事できるのが、
着物の良いところだと私は思うんです。
セールストークに縛られて可能性を狭めちゃうのって、すごく勿体無いです。