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【着物コラム】”自粛生活”がもたらす着物への影響を考える


こんにちは、着物コーディネーターさとです。

暗いニュースが多い今日この頃ですね。
私は緊急事態宣言以来、外出自粛生活を送っています。
こんな時にもインフラや医療従事者の方は日々休まず働いて下さって、
本当に頭が上がらないですね。ありがとうございます。

さて、昨日今日あたり、SNSで話題にしている着物愛好家が多かったのですが、
リサイクル着物販売で全国にチェーン展開している「たんす屋」こと、
東京山喜株式会社の民事再生が報道されました。


着物に興味のない方には聞きなじみの無い店名・企業名かもしれませんが、
呉服店以外でチェーン展開している企業は少ないので、
着物の世界の中では「めっちゃ有名」です。

ユニークな経営手法がテレビ番組で取り上げられた事もあり、
民事再生のニュースには正直とても驚きました。
「新型コロナウィルス関連」と倒産が報じられていますが、ニュースを読むと、数年前から業績不振だったようですね。

以前から私は和装産業を「衰退産業」と表現してきましたが、
新型コロナウィルスの感染拡大以前から、決して調子が良いとは言い難い状況でした。
感染拡大に伴う営業自粛が「倒産」のトリガーになってしまう企業は、
きっと他にも出てくると思います。
たんす屋のように好立地の店舗を多く抱えている企業は、特に厳しいと予想できます。

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たんす屋はリサイクル着物チェーンで古着を扱う企業ですね。
特に着物は、安く購入できる古着が多く、薄利多売なお店が多いです。

薄利多売ビジネスは売上減少にとても弱いです。
和装産業に限らず、今後はこういった「たくさんの安い商品を販売する」
という事業展開の企業の体力が先に尽きる事と予想します。
あくまで私個人の見解ですが、和装産業で先に体力が尽きるのは、価格帯の低い古着などが先だという事です。

しかし、比較的資本が潤沢な呉服店、成人式などのレンタル着物を展開する企業も、
決して苦しくないとは言えない状況でしょう。
呉服店などの倒産が相次げば今度はその取引先が打撃を受けますよね。
中継ぎをしている卸企業等だけでなく、製造元もです。
特に京都では、一つ一つの作業工程を別々の工房・企業が受け持つのが当たり前のようですし、
製造過程の企業がなくなってしまったらどうなるのでしょうね。
下手をすれば、着物の生産そのものが危ういのでは?と私は感じています。




まだそこまで感染拡大が深刻ではなかった、3月に書いた記事です。
一度は生産が途絶え、関係者の努力で復興した「伊勢崎銘仙」は、
たったの数年で生産不可能になってしまったそうですが、
イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館への収蔵がされるという事でした。

幸いにも、着物はまだ各家庭で不要になった古着が流通している状況です。世界の民族衣装の中でも、姿形が諸外国に認識されている稀有な民族衣装だと私は感じています。
よって、今すぐに「着物という存在」が消えてしまうことは無いでしょう。
しかし、生産が完全に途絶えて、もしも年月が経ってしまったら、
果たして再興はできるでしょうか?私には大変難しい事のように思えます。

現代の日本では着物は「所持していなくても生きていける」嗜好品なので、行政からの支援を受けられるとしても、優先順位は下がるかもしれません。
もとより衰退していたので、打撃は避けられないと思うんです。


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でも、私は少しだけ希望

を持っています。
全く同じようなシステム・流通ルートでの復興が叶わないとしたら、
現状より効率的なシステムが出来上がるかもしれませんよね。
業態を刷新する機会にもなり得るかもしれません。

しかし、もちろん、誰も痛みを伴わないのが一番です。
今は、一つでも多くの技術が残り、
ウィルスの収束後にまた着物が生産される未来を願うことしか出来ません。