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引き算医療のすゝめ -Hatena増田の国民皆保険制度になくなってほしい を読んで医師が考えたこと-

たまーにHatenaの増田を覗くのだけれど面白いエントリがあった。
僕も医者の端くれ(専門医的な何かを一応持っている)なので色々考えることがあるのでここに記録しておく。

まず初めに行っておくと僕自身は国民皆保険制度は悪い制度ではないと思っています。というか、言及先のエントリにあるように(この人の指摘の大部分は多分に感情的なところがあるの同意しかねるのですが、)

覚えておいてほしいのはみんなからみてあまりにも非効率的なこの医療制度が、WHOが評価する世界でもっともすぐれた医療制度ということだ。しかしながらどういうわけだか中で働く人にも、受診する側も不満タラタラなのがこの制度なのである。

https://anond.hatelabo.jp/20231105231243

というのが僕の現状認識にかなり近いです。ダメなんだけど、それでも一番ましみたいな。ただ、今後のことを考えるとこのままだとどう考えてもこのシステムは保たんので(あと過剰な負担を子供達に背負わせてしまうので)なんか方法を考えといかんなと思っています。

言及先だとこの言及とかがとてもまともなことを言っているように思います(面白いのが一番まともなことを言っているので上記の刺激的なエントリより遥かにリアクションが少ない点。SNSの闇を覗いた気分です笑)

個人的には皆保険を維持したまま、引き算的な医療をもっと評価するシステムにした方が良いと考えています。引き算的な医療とは何かと言うと…

不必要な薬をやめた、不必要な通院をやめた、不必要な手術をやめた、そもそも病気にかかることを防いだなどです。
引き算的な医療費の削減という意味合いだけでなく、患者さんの幸せにつながると思っています。色々な病院を回ってみて沢山医療を行うこと=患者さんの幸せではないことを実感しています。

単純な治療件数を誇るような病院がある一方で、特に地方の心ある病院に行くと患者さんの幸せを考えて、そのような医療を実践している病院があります。そこの責任者の先生などに話を聞くとまるでNPOみたいな目標を掲げているし、実際NPOのミッションを参考にして方針を決めていると言っていました。このような病院に行くと患者さんが幸せそうにしていると感じています。加えて無駄な医療も下がるので医療費も下がる。良いところだらけです。

問題は引き算的な医療なその効果を判定することが難しいという欠点があります。やったこと(処方を行う、酸素を投与する、胃瘻を作る、手術を行う)は数えれば良いので評価がある意味簡単(出来高なので)ですが、やらなかったこと(必要ではない処方を減らした、不必要な手術を行わなかった、病院に行く必要がなくなったのでそもそも病院に行く必要がなくなった)は目に見えないために評価が困難です。

ただ、評価不能というわけではなく間接的には評価可能だと思います。例えば、病気の発症率ならば発症率の推定が出るはずでそこからその病院に通う患者さんの実際の発症率を引くことで予防寄与度みたいなもんを出せるはずです。

実はもう採用されているDPCなんかかが引き算医療の先駆けみたいなもんです。これは超簡単にいうと、病気ごとにかかる医療を定額にしますよー差分は病院側が負担して下さいね(逆にいうと少ない医療費ですめば病院の儲けになる)という制度です。

最近は薬の減薬についても加算が取れるようになりました。徐々にですが、減らすことについてインセンティブが与えられるようになっていると感じます。早くはないけど、しっかりやっていると個人的には思っています。

ダラダラと書いてしまったので僕の考えをまとめます。
1.皆保険は決してベストではないかが多分ベターな方法
2.患者さんも、保険の負担者も、医療者も幸せにするには多分引き算の医療が必要
3.引き算の医療の実現のためには新たな評価基準の導入が必要

病院が良いコミュニティとして機能

という感じです。なので僕は3の評価基準の方面の研究がもっと進めば良いと思っています。上記の心ある地方の病院を見ていて思うのが、医療費として算定できないもの、例えばコミュニケーション、運動指導、食事の改善、患者間のコミニュティだったりが実は患者さんの幸せ(恐らくは健康寿命そのものにも)に寄与しているということです。が、これは目に見えない。アンケートをとるのも一つの手ですが、それよりも客観的な指標(例えば患者さんの動作を経時的にとってその改善を見るとか。バイタルやLabデータの変化を指標とするとか。それらを統合するとか)の導入ができれば良いのではないかと思っています。つまり、評価しやすいところから徐々(ここがポイント。一気にやると多分混乱する)に目に見えない評価しにくいところに評価の軸を移していくことが必要なのではないでしょうか。


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