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「そうさせているもの」に目を配る

システムシンキングを学ぶ

職場で何かがうまくいかないときに「Aさんがこういう行動をとったからうまくいかなかったのだ」と言う人がいる。じゃあAさんを辞めさせたらうまくいくのか?コトはそう単純ではない。Aさんは、次の事業戦略を考えていたのかもしれないし、その市場に新規参入が続く競合企業のことを考えたのかもしれないし、以前も同じケースで失敗したのでそういう判断をしたのかもしれないし、メンバーの長期的な育成を優先したのかもしれない。Aさんが「その行動」をとった背景には複数の要因があり、その要因間の関係に目を向けてみる必要があるだろう。システムシンキングとは、このような複雑な要因間の関係について「現実の問題を記述する」ための考え方だ。
ミネルバの授業で学んだあとで、ピーター・センゲ氏から直接システムシンキングを学んだ方(福谷さん)が解説している以下を読んだら、とても分かりやすく書かれていて、ストンと理解できた。(リンク切れを修正しました。2023年7月9日)

https://education.newspicks.com/education-magazine/systemthinking-fukutani?fbclid=IwAR02PBum9GaqhNZrdq970dXsCwWWY8xhQqvRUcfh1HuBMTSKwq0KSNj-RB8

「そうさせているもの」の関係性をとらえる

ある事象の背景には、複数の絡み合う要因で構成された、全体構造がある。先の例にある、「Aさんの行動=>失敗した」と直線的に「静的に」捉えても問題は解決しない。システムシンキングでは、複数ある「そうさせているもの」の相互関連性を把握することを重視している。「分析対象全体の動的な側面を包括的に捉えようとする思考方法」という説明が、私には一番理解しやすかった。

ちなみに、「システムシンキング」を画像検索すると、以下のような図が出てくる。いずれも「そうさせているもの」間の関連性を分析した図だ。

「システムシンキング」の画像検索結果。フィードバックループが表現されている。

企業におけるヒト・モノ・カネ・情報といった変数はお互いに相互依存しているので、何かをいじると他の変数に影響する。例えば上司が変わったことで、ルールが増え、カネの流れが明確になったが、大胆なアイディア間の創発が減ったということもあるだろう。システムシンキングでは、上記の図に見られるような「フィードバックループ」で説明するのが特徴だ。

キャリア教育とシステムシンキング

1980年代、アメリカで仕事に就けない若年層が増え、「若者たちは今の労働市場に必要なスキルを獲得できていないのだ」という議論が活発化し、1991年には下院でSCANS reportが提出された。このレポートには、日本で言うところの「社会人基礎力」がまとめられている。

この中には、人・モノ・カネといった、リソースのマネジメントができること、他者との関係を構築するスキルなどについて言及されているが、4番目に「Systems: Understands complex inter-relationships」がある。

・システムを理解する。社会的、組織的、技術的なシステムがどのように機能するかを理解し、それらを効果的に運用する。
・パフォーマンスを監視し、修正する。傾向を把握し、システムを運用することの影響を予測し、システムの逸脱を診断し、修正する。
・システムの改善や設計を行う。既存システムの修正提案、性能向上のための新システムや代替システムの開発をおこなう

Scans reportを初めて読んだのは20年くらい前のことだが、当時、ここに書かれた「システム」が「システムシンキングのシステム」だと気づいていなかった。学校段階から問題を「構造」でとらえる思考の癖は確かに大変重要だ。

大学生のレポートとシステムシンキング

なぜ学校でシステムシンキングが重要なのか。
ここ数年、授業で提出された大学生のレポートを読んでいると、社会課題について取り上げているのに「こういう良くない現象があるので、国が法律を作って国民全員に言うことを聞かせればいい」という、いったいどこの国の話をしているのだろう???と思いたくなるような単純化された意見が出てくることがある。
問題の複雑さを考えることを放棄しているかのような、自分もその社会課題の一部も担っているというのに、見えない境界線があるかのようだ。複雑なシステムをどうとらえるか、自分はシステムのどこにいるのか、自分がどう動けば社会が動くのか。学ぶべきは常に「主体性」ではなく、「思考方法」だ。主体性はその結果であって、直接学べるものではない。

センゲ理論を解説する福谷さんは、学習する組織とは、「大切なもの、望むものを言葉にできること、それをちゃんと聞き合えること、それを通じてお互いから学べること。」だという。自分の考えを言葉にしないと他者に伝わらないから互いに学ぶことはできない。「言葉にする」「伝える」「聞く」「学ぶ」「学んだことを言葉にする」「伝える」「聞く」「学ぶ」のループが回らないと、組織は硬直化してしまう。「学習しない組織」を作ることはとても簡単なことなのだ。

教室の中や職場で、「大切なものや望むもの」を言葉にして他者に伝えることができているだろうか。要素の1つ1つが「そうさせているもの」であり、個人の「大切なものや望むもの」がその要素の1つであるとしたら、「大切なものや望むもの」が共有された世界は最高のシステムだ。

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