名曲あてがき小説「ある晴れた日曜日」

♫ Yellow Studs/僭越ながら
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小学校の昼前のグラウンド。
野球のユニフォームを着た男たちがダラダラとキャッチボールをしている。

「あっついなぁ・・・」
「うるさいねん。そんなん言われんでもわかってるわ」
「なんやねん。ピリピリしてんなぁ」
キャッチボールをしながら会話を続ける男たち。

「・・・ヒロキは、しゃあないねんて」
別でキャッチボールをしているトシオが話に割り込んでくる。
「うるさい!黙れトシオ!」
「・・・なんで、しゃあないねんな?」
「なんや?コウジ。分かれへんの?校舎の向こう見てみ」

ヒロキとキャッチボールをしながら、言われた方に目を向けるコウジ。

「・・・・・あぁ。なんや、そういうことかいな」
「コウジ。黙ってボール取れ」
「ヒロキ先生は三十五歳になっても、初恋が忘れれませんか?」
「黙れって・・・」
「なっ?そういうことやから、今日の試合は勝たなあかんねんって。ですよね?」
「トシオ。黙らなしばくぞ」
「一途やなぁ・・・中学から変わってへんなぁ。あの子バツイチやで」
「おまけに子供いてるんやろ?」
「・・・・やかましい。好きなもんは好きなんや。しゃあないやろ」

ヒロキの目に遠くで日傘を差しながら子供と手をつないでいるリエの姿が目に入る。

「・・・・おぉい!集合!」
グラウンドの端から一つ先輩の山中の声が響き渡る。

リエに背を向けて軽く走り出すヒロキ。
「しゃあない。今日は意地でも勝ちますか?ヒロキ君」
「えぇとこで打順回すからな・・・打てよヒロキ」
「やかましいねん・・・」
帽子のつばで顔を隠しながら走るヒロキ。

グラウンドの隅で円陣を組む。
日差しがヒロキたちの背中をジリジリと焼きはじめる。
「・・・えぇか?今日勝たなあかん試合や。理由はお前ら分かってるな?」
「「はい!!」」
男たちの声が揃い、まるで高校球児のような顔がヒロキの方に向けられる。
「ちょ・・・何?なんすか?」
「お前もここらで格好えぇところ見せて男になれや」
「山中さん・・・」
「あほ!今日はキャプテンや!ウチのマネージャーに勝負するんやろが!」
「・・・はい!」
「えぇか、もう一ぺんだけ言うぞ!今日は絶対に勝て!高校予選の決勝戦よりも大事な試合やぞ!お前ら分かっとんなぁ!!」
「「ウッッス!!」」
「ヒロキ・・・声出せ」
胸に込み上げて来るものを抑え込みながら・・・
「お前ら・・・行くぞ!!」
「「シャァアッッ!!」」
掛け声とともにグラウンドに散っていく九人のかつての高校球児。

ピッチャーマウンドの感覚を確かめる。
「あの日は負けたけど・・・今日は負けられへんのや」
帽子を取り、一礼するヒロキ。
「ほな・・・いこか。にしても・・・あっついなぁ」

グラウンドにプレイボールの声が響き渡る。

【了】

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