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カーメン・マクレエ 『ブック・オブ・バラーズ』

人生に欠かせないオールタイムベスト音楽をいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。

カーメン・マクレエ。
その独特な金属質な声を嫌う人もいる。

ボクも最初はなんか好きになれなかった。
でも、いまはそのべたつかない金属質なところが逆に大好きになり、女性ボーカルを聴こうと思うとき、必ず選択肢に入れるまでになった。

後半の老年のころのカーメンは、その見た目の独特さ(笑)も相まって少し「くどい感」が出ちゃうんだけど、まだ若い頃の彼女の歌唱は、そのメタリックな声質が妙に都会的で、疲れ切った夜なんかにはとてもいい距離感を保ってくれたりする。

そういう夜は、優しく暖かくべったりしたボーカルは重たすぎるんだよね。こちらがいくら愚痴を言っても「あ、そう。それで?」と冷たくあしらって全然同情してくれない、そんなカーメンのボーカルがしっくりくる夜の方が多かったりするのです。


で、疲れがとれるカーメン・マクレエのCDの中でも特に疲れがとれるものをご紹介しましょう、というのが今回の『ブック・オブ・バラーズ』。

このアルバム、名前の通りバラードを12曲入れたもので、カーメンが36歳の時に録音されているもの。36歳でこんなすごい表現力を持っていた彼女はやはりただものではないよなぁ、と嘆息するくらい、うまい。

とにかくはじめから終わりまで素晴らしいの一言。
そんな珠玉のボーカル・アルバムだ。


特に好きなのは1曲目の「By Myself」。
これは前奏からして最高。前奏が終わって出てくるカーメンの歌声も深くつやがあって情感に溢れている。

録音自体もとても実在感がある仕上がりで定位も抜群。シンプルなステレオ録音が逆に情感を引き立てているなぁ、と。

「Carmen Mcrae by myself」でYouTubeで検索すると、非公式な動画がいろいろ出てくるので、まだカーメン・マクレエを知らない方はとりあえず聴いてみてください。

ぜひ、一度聴いて。
この声が好きか嫌いか、という判断するためだけでもいいので。


で、このアルバムは、ラストにかけての2曲がまた白眉。

マット・デニスの名曲「Angel Eyes」などは歌詞の最後の1行を歌わない。
そう、ラスト直前で絶句する。
演出(解釈)とはいえ感動的だ。
こんなAngel Eyes、聴いたことない。

そして、その余韻が残ったまま、「Something I Dreamed Last Night」にわりと軽やかに入っていく。

でも、そこからぐぐっと泣かせていく。
この辺もうまいなぁ。歌もうまいけど、このアルバム、構成が本当にうまい。


ちなみにカーメン・マクレエはものすごく沢山アルバムを出しているけど、ボクが好きなのはこの『ブック・オブ・バラーズ』を含む「デッカ・キャップ時代」。

彼女が若い頃在籍したDECCA(1955〜1958)とKAPP(1958〜1960)というレーベル名をとって勝手にそう呼んでいるんだけど、この5年の間の彼女のアルバムは本当に名作揃いだ。

『アフターグロウ』や『サムシング・トゥ・スイング・アバウト』など好きなアルバムがいっぱいある。

そして、アルバムの出来もそうだけど、若いときの声のほうが好きというのも大きいかな。

あなたも疲れ切った夜など、デッカ・キャップ時代のカーメン・マクレエにゆったり浸ってみませんか。

ほんと、疲れが取れるから。


Book of Ballads
Carmen Mcrae
1958年録音/KAPP RECORDS


古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。