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マット・デニス 『プレイ・メランコリー・ベイビー』

人生に欠かせないオールタイムベスト音楽をいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。


マット・デニス。

知らない人も多いかもしれないけど、一度知ってしまうと好きなジャズ・ボーカルのリストに必ず入ってくるような弾き語りの人。

彼の魅力はその「軽妙洒脱」さ。
なんというか、その「肩の力の抜け具合」が絶妙だ。

決して声域も広くないし、声量もない。
どちらかというと弱い声。口先だけで歌ってるような薄い声。なのに声量ブリブリのそこいらの歌い手を軽く凌ぐその魅力。

節回し、崩し方、そして選曲…。すべてが、そう、「粋」。
「粋」が洋服着て歩いているような感じ。

かなりの遊び人なんだろうなぁ。
両親ともにヴォードビルのスター。芸能人一家なのだ。

で、きっと若い頃はなんか勘違いした嫌味なヤツだったと思うのだけど、中年を過ぎて妙に味が出て軽ーい粋さ加減が出せるようになった・・・そんなタイプなんじゃないかと思う。

このアルバムの時、彼は42歳。
そういう意味で、いい味が出始めた頃かもしれない。


とはいえ、マット・デニスは、そういう洒脱さだけが売りではない。
彼、作曲してもすごい。

例えば有名なスタンダードの「エンジェル・アイズ」なんかは彼の代表作。「コートにすみれを」も彼。「レッツ・ゲット・アウェイ・フロム・イト・オール」も彼。

「エンジェル・アイズ」なんて、あの声とあの顔で「キミのために作った」とか言いながら歌ったら、女性なんてすぐ落ちるw いや、顔は普通というかイケメンではないかもだけど、でも、きっと落ちる。


なんか彼の歌を聴いていると「金持ちケンカせず」なんて言葉が浮かぶなぁ。
実際生活上、彼が金持ちかどうかは別にして、なんかヒッチャキになっていない感じがね。貧乏なアフロ・アメリカンのものだったジャズを「そんなにムキになって歌うなよ、吹くなよ、弾くなよ」って感じでサラサラとやっちゃった、みたいな。
中途半端でない本当のお坊ちゃんって意外といいヤツ多いじゃないですか。なんかそんな匂いがする。


てなわけで、ボクはムキになって何かに猛進しているとき、やるせない怒りにむしゃくしゃしているとき、自分の無力さ加減に幻滅しているとき、こそっとマット・デニスをかけるのです。

まぁまぁ落ち着けよ。
真面目すぎちゃいけないよ?
軽妙に、洒脱に、粋に、そして少しだけ怠惰にね。

そう彼に語りかけられると少し楽になる。
そりゃそうね、世の中に楽しいことなんていくらでもあるんだからもっと楽に考えようって。

その軽妙さがマット・デニスの強みでもあり弱みでもあるんだけど、そういう雰囲気で語りかけてくれるボーカルは他に思い浮かばないな。マット・デニスのみである。


彼は寡作の人だけど、聴いたことない方はまずはこのアルバムあたりからどうぞ。もしくは「プレイズ・アンド・シングス」かな。

このあたりを1枚聴いて、この「感じ」がピンと来なかったら、彼とは合いません。

でもまぁたぶん大丈夫。あなたもきっと彼の軽妙洒脱さの虜になることでしょう。




古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。