見出し画像

『スラムダンク』を読み終えたときの果てしない気持ちが蘇る 〜ラグビーW杯ジャパン vs 南ア戦


井上雄彦の『スラムダンク』を初めて読み終えたとき、なんだかとんでもなく果てしない気持ちになったのをよく覚えている。

この物語の闘いは県大会から始まるわけだが、陵南、海南、翔陽、と、実に強敵揃いであった。勝ち抜けるわけがないと思わせるくらいの強敵たち。

でも、そこでなんとか勝ち抜けて、インターハイで山王工業とぶつかる。

死闘だ。
敵の深津とか沢北とか河田とか、鬼みたいに上手い。

彼らになんとか勝ったところで、『スラムダンク』は終わる。
カタルシスで涙ぐじょぐじょだ。
大名作すぎる。何度読んでも泣ける。


でも。

それでも、その勝利は「インターハイ」での緒戦の勝利なのである。

インターハイとは「全国高等学校総合体育大会」のことである。いわゆる高校総体。つまりは高校生の闘い。

あんなみんな鬼のように上手いのに、あんなに死闘の末に勝ったのに、アジア大陸の東端に貼り付いた小さなバスケ弱小国の中での、それも高校生の中での小さな闘いだったのだ。

この上にはインカレ(インターカレッジ:全日本学生選手権)がある。
そして、社会人選手権やら全日本プロ選手権がある。
Bリーグもある。オリンピックの日本代表になるための闘いもある。

そして、遙か上のほうにNBAやFIBAワールドカップがある。
そこの予選とかを死ぬ気で勝ち上がって、ようやくベスト8があり、準決勝があり、決勝がある。


果てしない。
果てしなさすぎる。

山王工業から先が遠すぎる。
鬼のように上手いと思っていた深津とか沢北とか河田とかと闘っていたころが懐かしいくらい果てしない。

花道にも流川にもゴリにも亮太にも三井にも小暮にも、まだバスケを続けるなら、この先、異様に長く険しい山脈が待っている。

ここまでがんばって、ここまで努力して、ここまで勇気を見せても、この先がとんでもなく長い。。。


昨晩、ラグビーワールドカップ日本大会準々決勝戦「日本 vs 南ア戦」があった。

もう、ここで「準々決勝戦」と書けるだけで泣けてくるが、とにかく日本は見事全勝でグループAをトップ通過し、史上初のベスト8に勝ち残ったわけだ。

これ自体がもう「果てしなさすぎる」。
全員、桜木花道たちと同じような道を一歩一歩進み、奮闘努力の末にラグビー弱小国の中でトップクラスになったものの、世界に遠くにそびえ立つ山々はまだ姿も見えない、みたいな状況から勝ち上がってきたのである。

そんな彼らではあるが、予選4試合の戦いぶりからして、「これ、決勝トーナメント行っても、わりと行けるんじゃないの?」って誰もが思った。

そのくらい堂々と勝っていったし、4戦目のスコットランド戦など、Tier1の強豪スコットランドが目の色変えて挑んできたのを跳ね返しての、一生誇るべき金字塔的勝利だ。


でも、昨晩の「南ア戦」は完全に力負けしてしまった。


いや、ホント、果てしない・・・

ボクは(ある程度想像はしていたものの、いざ力負けしてみると)、『スラムダンク』を読み終わったときのような果てしなさに、ちょっと呆然としてしまった。

山頂に辿り着くなんて誰も思わなかったし、誰も期待してなかった険しい山道。それを一歩一歩、あらゆることを犠牲にして一歩一歩進んできて、ついに山頂!ってところまで辿り着いた。

そしたら、その向こうに霞んでいた新たな山頂が、黒々と姿を現した、みたいな感じである。

果てしない・・・
果てしなさすぎる・・・


そんな果てしない気持ちを持ちながら、ラグビー日本代表のチームソング「ビクトリーロード」を聴くと、少しまた違った感慨が生まれる。

ビクトリーロード
この道 ずっとゆけば
最後は笑える日がくるのさ
ビクトリーロード



チームソングにしてはあっさりしているし、猛々しくもならないこの歌を「なんでこの歌?」って不思議に思った人も多いと思う。

ボクも「え? カントリーロード? 郷愁の歌? そんなの盛り上がらないし、勇ましい気持ちにもならないじゃん!」って最初は思ったし、歌詞を読んだときも「なんじゃこりゃ」って思った。

でも、日本チーム。
ほんと、果てしなかったのだと思う。

あらゆることを犠牲にして、信じて進んでいるけど、本当にあの山頂にたどり着けるのか。疑う日だってたくさんあったと思う。

いや、信じよう。
そして、果てしないけど、ずっとずっと進んでいこう。

これはきっとそういう歌だ。


でも、今回、黒々と姿を現した次の山頂をようやく「目撃」できた。

日本代表が、そしてこの日本代表の闘いぶりに奮い立った次の若いヒトたちが、放心した状態からひとり、またひとりと立ち上がり、この歌を歌いながらグラウンドに立つとき、きっと、あの、次の山頂への「道」が見えてくる。

その山頂も、まだ最後の山頂ではないかもしれない。

でも。きっと。
最後は笑える日がくるのさ。

ビクトリーロード。




南ア戦の分析として、友人の原正樹くんの速攻分析がとても良かった。
このあと、もっと詳細に分析してくれるとは思うけど、わかりやすいので貼っておきます。

リンク切れするとイヤなので、内容をコピーさせてもらうと(たぶん怒られないのでw)、

==============
日本×南ア 生で観た状態での感想、分析。今から録画を見直す前に。

ここまで日本戦は、対ロシア戦だけテレビ観戦、グループーリーグあとの三試合、アイルランド、サモア、スコットランド戦は、スタジアムの二階、三階席の上の方から観たので、密集の細かなところは分からなかったが、全体として起きていることはよく把握できた。

ところが、なぜか、今日だけは、ゴールエリア脇の、一階席のかなり前の方の席。選手の顔までよくわかるかわりに、試合場全体で起きていることが把握しにくい席だった。
子供の高校の試合を、観客席の無いどこかの高校のグランドで見る、全体が見通せない、そんなことを思い出させる視界、視野だった。そんな状態で見た印象、感想と分析。

ティア1国のグループステージ、対ティア2戦というのは、相手の分析・対策よりも、自分の国の戦力の調子を見る戦い方をする

特にレギュラー以外の選手で、調子の良さそうな選手をチェックして、決勝トーナメントへの準備にする、という意識が強い。前回大会、日本が南アに勝てたのは、南アがそういう戦い方をしたからだ。

主力を起用する場合も、相手対策の細かな戦術を駆使するというより、自国の得意とする正攻法、正常運転をして調子を上げていくという意識が強い。今大会、アイルランドに勝てたのは、アイルランドが、そういう、素直な正攻法の戦い方をしてくれたからだと思う。

スコットランド戦が素晴らしかったのは、その勝利に価値があると思うのは、スコットランドが日本を徹底的に分析し、本気で勝ちに来たのに対して、日本が、本当に素晴らしいラグビーをして、勝ち切ったからだ。

今日の南アフリカは、日本の強みを消す、日本の弱点を突く、本気の、決勝トーナメントの戦い方をしてきた。

「日本の強みと弱点」。南アは、どうついたか。

①田村を狙う。これは、前大会の南ア戦で、日本が、南アのスタンドオフ(天才肌だが体が小さい)パトリック・ランビーを、徹底的に狙ったのと同じことを、田村に対してされた。田村が球を持ったらきつく当たる。攻撃のときは田村に向かってアタックしていく。

結果として、田村は前半でかなり傷んでいて、これまでのようなパフォーマンスを出せなかった。

②田村の、日本のパスのクセを分析して狙う。これは細かなことはもうすこしいろいろな試合を見直さないと分からないが、流→田村→後ろを回して、その外に長いパス、というここを狙って詰めてくる。

②-1だから、グラウンドの端のセットプレーから始まったプレーの場合、グラウンド左右の真ん中まで展開したところで、がっつりと捕まる、攻めが止まってターンオーバーされる。

②-2グランド中央あたりから始まった攻めの場合、グラウンドの端、ウイングのところでインターセプトされて
鋭く逆襲される。

③モールを多用する。モールは同人数では反則なしでは止められないくらい強さに差がある。反則したら、タッチキックで前進して、ラインアウトでまたモールの繰り返し。
(スクラムも同様。スクラムで圧力をかけ、反則を誘う。)

日本はモールで反則しないで止めるためには、バックスも入らないと止まらない。入ると、外側が人数不足。モールで攻める、日本をモールに人数かけさせてから、外に回すと、最後のウイングのところで数的優位に必ずなる。

ウイングの能力、速さでは互角でも、からだの強さのところで、福岡側なら南アが優位に立てる。松島側であっても、数的優位があれば、トライまでいける。

④地面に置かれた球の攻防では、体格と当たりの強さで、日本より南アがかなり強い。そこに集中する。日本選手全員とは言わないが、タックルされてから、ボールを置く、それをすぐに他の選手がフォローする、という一連の流れに弱点をみせることがある。そこを徹底的に狙う。
ただし、前回ワールドカップで敗因となった、地面の球の攻防で反則をしない。その規律を守る。

前半のムタワリアがシンビンの時は、作戦をうまく遂行できなかったが、15人対15人の時間帯は、こうした作戦を完璧に遂行した。

もうひとつ、松島、福岡、山中にハイパント、キックを蹴ってそこを狙う、という作戦もあったが、これは、日本の三人のキャッチ能力が高かったために、そこから大きく崩されることは無かった。とはいえ、松島、福岡の守備負担が重くすることで、攻撃のための体力、瞬発力を削る、という意味で、これも意識して使っていた。

日本は、前半のうちは、なんとか耐えて、ロースコアの戦いに持ち込んだが、こうした南アの作戦は、日本選手一人一人に、かなり大きなダメージを与えたため、後半は、ついに、南アの攻撃に耐えられなくなってしまったのだった。

日本は、世界の強豪国ティア1上位国が本気で対策をしてきたとき、強みをつぶし弱点を徹底的に突かれたときには、まだ、互角には戦えない、ということがはっきりした。(まあ、アイルランドでも、NZとはそうなっちゃったのだから、恥じることは無い。)

前回大会では、「世界の強豪国が、全く対策をしないくらい舐められているので、そういう油断してくれたときには勝てる国」だった。
そこから、「世界の強豪国でも、本気で準備対策をしないと勝てない国」になった、という意味で、驚くべき大進歩だった。

シックスネーションズの中の、スコットランドの位置づけを考えれば、「ティア1の中の下位の国とは全く互角の国」という位置づけを日本は得た。しかし、ティア1の中のさらに上位の国が、本気モードになったときには、まだちょと差があることも明らかになった

ここから先のワールドカップは、ティア1上位の国が、本当の本気になったとき、ラグビーはどれくらいすごいことになるか、をこの目で見る、そういう楽しみが待っています。日本が負けてもワールドカップは続くのです。

==============


準決勝、決勝、と、本気のTier1を日本で観られる素晴らしい機会。

みなさん、日本戦が終わったからといって気を抜かずに、この機会を楽しみましょう。

ボクは「三位決定戦」を生で観に行く。

どこだろう。
イングランド対ウェールズかな。

わからんけど、超楽しみだ。


古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。