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オスカー・ピーターソン 『ロマンス』

人生に欠かせないオールタイムベストな音楽をいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。


男性ジャズボーカルで打順を組むとしたらどうなるだろう?
そんなことをニヤニヤ考えながら独りで酒を飲むのに、秋の夜は最適だ。

そして、こんな打順をひねり出す。

 1番 ジェイミー・カラム
 2番 ボビー・マクファーリン
 3番 ナット・キング・コール
 4番 フランク・シナトラ
 5番 マット・デニス
 6番 トニー・ベネット
 7番 ジョン・ヘンドリクス
 8番 チェット・ベイカー
 9番 ルイ・アームストロング


ビリー・エクスタインはどうする、ジョー・ウィリアムスは入らないのか、マーク・マーフィもいいぞ、ジミー・ラッシングも入れたれや、ハリー・コニックJr.を忘れてないか、サミー・デイヴィスJr.も味があってなかなかいいのに・・・

外野の声は監督席までたくさん届く。

でもね、まぁ今晩はこの打順だ、ということだ。
明日はまた打順が変わる。
最近はジミー・ラッシングをよく聴き直しているので、明日はチェット・ベイカーを外して彼を入れるかなぁ・・・

とはいえ、なかなかいい打順な気がする。
9番までどっからでも点が取れるオーダーだ。

1番は最近すごくよく聴いているジェイミー・カラム。元気で器用な若者でチャンスを作る。2番は技巧派ボビー。必ずチャンスを広げてくれる・・・

そしてやっぱり、クリーンアップはこの3人!
ナット・キング・コール、フランク・シナトラ、マット・デニス!

いやぁ、もう不動。
ボクの中で不動。


とはいえ、監督のボクとしては代打の切り札が欲しい。
「あぶさん」みたいな強烈な秘密兵器。

で、それ、ちゃんと持っている。

ボーカルが本職ではないけどめちゃくちゃ上手でいい雰囲気の秘密兵器をひとり持っている。

それが、このオスカー・ピーターソンだ。

オスカー・ピーターソンと言ったらピアニストの大御所中の大御所だ。
もう好きなアルバムがたくさんある。

でも、実は2枚だけ(だと思う)ボーカル・アルバム出している。

ナット・キング・コール追悼アルバム『ウィズ・リスペクト・トゥ・ナット』と、これ。『ロマンス』


彼はいい。
代打にしておくのがもったいないくらいいい。
出している枚数が少ないから代打に甘んじるんだけど、でも本当にいい。

聴くとわかるけど、ナット・キング・コール追悼アルバムを歌ったのがよくわかる。なんか、ナット・キング・コールのそっくりさんみたいな甘い声なのだ。

つまりは実にいい声だ、ということ。
求心力がある暖かい声。

人が集まったときとかにふとこれを流すと、必ずみんな「ねぇこれ誰?」と聞いてくる。

ジャズボーカルに興味がない人でも「これ、いいね」とこそっと耳打ちしてくれる。

そのくらいいい雰囲気を醸し出す名ボーカリストなのだ。


このアルバム、選曲も最高だ。

「アイム・グラッド・ゼア・イズ・ユー」から始まるんだけど、有名なスタンダードが多くて聴いてて楽しい。

「ポルカ・ドッツ」「アイ・ヒア・ミュージック」「ニューヨークの秋」「捧ぐるは愛のみ」「スプリング・イズ・ヒア」「ジーズ・フーリッシュ・シングス」「バット・ナット・フォー・ミー」……

誰でも一度は聞いたことあるんじゃないかって曲ばかりだけど、本職のボーカリストが気張っているアルバムよりいい出来の曲もあるくらい。

なんだろう、当代最高のピアニストである彼が「余興でやっている」というスタンスを崩してないからなのだと思うけど、肩のちからが抜けていてとてもいいんだな。

ゆったりしたリズムからアップテンポまで、総花的ではあるけど、だからこそこちらも気楽に聴ける。そのうえ滋味あふれる系の声だから疲れも癒される。

そう、とことん「ラク」なアルバムなのだ。

そしてもちろん、ピアノ・ソロは切れ味抜群。
余興の流れを汲んで、リラックスして弾いているだけに、切れ味が逆に増している。


ナット・キング・コールもピアニストからボーカルに転向(?)したんだから、彼もそうすれば良かったのに、って思うくらいだなぁ。

せめてもう数枚、ボーカル・アルバムを出してくれていたら、スターティング・メンバーに入れるんだけどなぁ。

まぁオスカー・ピーターソンのピアノは絶品中の絶品だから、ボーカル専門になっちゃったらそれはそれで悲しいのだけど。


パーソネルは
オスカー・ピーターソン:ピアノ、ボーカル
ハーブ・エリス    :ギター
レイ・ブラウン    :ベース

これってほとんどピーターソン・カルテットと同じメンバー。


そういえば、1995年、これにボビー・ダーハム(ドラム)を加えたメンバーのライブをニューヨークの「ブルーノート」で見たことがある。

歌は歌わなかったけど、なんか「これからもがんばって生きていこう!」と思わせる、そんなライブだった。生オスカー、最高だった。

あと、レイ・ブラウンが本当に良かった。
あんなジジイになりたいと思わせる数少ないひとり。


ということで。
まだ聴いていない方は、ぜひうちの秘密兵器をじっくり味わってみてください。

ラクになれるよ。


古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。