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蹴球邂逅録 〜ミキ (ベオグラード🇷🇸)〜


セルビアでも育成に定評のある古豪、OFKベオグラード を訪れた際、
クラブハウスに併設されたカフェから出てきた190cmはあろうかという
大男が声を掛けてきた。

「オマエは、日本人か?」
「はい」
「じゃぁ、マエゾノの電話番号を知っているか?」
「いや、知りません…」
「ちょっと、カフェでお茶でもどうだ?」
「ぜひぜひ!」
それが彼との出会いだった。

彼の名は、ミオドラグ・アンジェルコヴィッチ(通称ミキ)。
かつて、セレッソ大阪でも半年間プレーし、前園氏とは韓国Kリーグで
チームメートだったそうだ。
「マエゾノは本当にナイスガイだった。また会いたいんだけど、携帯の番号が
 変わってしまったみたいで…」とのことだった。

ミキは幼少の頃、コソヴォのミトロヴィツァからOFKのスタジアムの目と鼻の先に
越してきて、6歳から下部組織に入り、各年代のユーゴスラビア代表に選出されたことのある、テクニックが売りの長身FWらしい。

そんな彼のサッカーキャリアが面白かった。
18歳でスペイン1部のエスパニョールへと巣立って以降、
ドイツ、イスラエル、トルコ、ブラジル、ポーランド、韓国、日本、カザフスタン、ウクライナ、サウジアラビア、中国、ルーマニア、カナダと、セルビアを含めると、じつに15ヶ国のクラブでプレーしてきたそうだ。

「どの国でも良い思い出しかない」らしいが、
「日本は最高だった。モリシマ、ニシザワ、オオクボ、コバヤシさん(監督)…、
 みんな素晴らしい人たちだった。オオクボはちょっとクレイジーだったけど…」と目を輝かせた。
来日5日後に、愛する父親が急逝し、セルビアに一時帰国することとなり、
「心身ともにコンディションが上がらなかった」ことで、日本を半年で去ることになったが、以来、大の親日家だという。

現在(当時)は、OFKのユースチームのコーチをしていて、
フランスやスイス、ギリシャ等の1部のクラブに巣立っていった教え子もいるとのこと。
「じゃぁ、Mr.マエゾノの電話番号が分かったら連絡するよ」と、
SNSで友達になり、突然のティータイムはお開きとなった。


”マエゾノ”の一件から一年半後の、2019年3月。
前園氏の携帯番号をゲットしたわけではないが、
漁師役で出演することとなった映画『MINAMATA』のロケがベオグラード で
行われた為、クランクアップ後、あの時のカフェでミキとの再会を果たした。

僕は、ミキにどうしても聞きたいことがあった。
「少しデリケートな話なんだけど…」と切り出すと、
「問題ないよ、マイフレンド」と彼はウィンクした。

2018ロシアW杯、グループリーグ セルビア vs スイス。
コソヴォ出身のアルバニア系移民である、スイス代表のジャカとシャキリが放った
”双頭ワシ(アルバニア国旗を模した)”ゴールパフォーマンスが、世界中で物議を
醸した。
”コソヴォはオレたちの領土だ”と、セルビアを挑発、侮蔑したのではないかと。

この一件について、、、
コソヴォ紛争の際、最も甚大な被害を受けたとされる、ミトロヴィツァ出身の
セルビア人であり、世界15ヶ国のサッカークラブを渡り歩いてきたサッカー選手
であり、現在、OFKのユースチームで10代の選手たちを指導するコーチとして…、
ミキは、あの二人の行為をどう思ったのか?

彼は、慎重に慎重に、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「正直、残念な事件だった…。それが、いかに愚かな行為であるのか…、
 特にW杯においては…。それを、しっかり理解してほしい。
 ひょっとしたら、ゴール後で、感情的になってしまったのかもしれないが…。
 二人はまだ若いし、素晴らしい才能を持っている。そして、ビッグクラブで、
 多くの外国人選手と仕事をしている。
 より成熟した人間になることを願っているよ…。
 でも、こういった事を教えてこなかった大人たちに、何より大きな責任がある」

さらに、、、
「オレたちの世代は、若い頃に内戦を経験して、
 今は戦争を知らない十代の選手たちを指導している。
 その事の意味を意識して、サッカーだけではなく、しっかりとした人間性も
 育てていきたいと思っている。
 国とか民族とか関係なく、人としてどうあるべきかをね…。」

それは、セルビアのサッカー指導者として、百点満点の解答のように聞こえた。
正直、どこまでが個人としての本音で、どこまでが立場を弁えた建前だったのか、
彼の表情や佇まいからは、すべてを窺い知ることは難しかった。

話題はプライベートな件へと移った。
ミキ「じつは、中国で生まれた長女ミーアは、
   今、セルビアでも有名な演劇学校に通っているんだ」
僕 「ほう。サッカー選手だけでなく、女優も育てているってことか!?」

すると、ミキは破顔一笑、
「オレの娘は、とびきりの美人だぞ!!!」

その返答は、紛れもない親バカのホンネだと、すぐに分かった…。

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